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ダンジョン調査 ▶29話

#15 生じた違和感は自分のせい

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死活問題が解決しそう。そのことに浮かれていたからかもしれない。顔に出ていたのだろうか?それが気にくわなかった?

師に食事をとらせてからみんなの元へ戻る途中、三人組の一人、剣士の男に呼び止められた。

「…おい。」

「…なんでしょう。」

この人に直接声をかけられたのは初めて。それだけで警戒心はMAXになる。おまけに、こちらを見据える男の表情は決して友好的とは言えないから─

「…お前、セリっつったか?A級の…」

「…」

「お前、S級試験、落ちたんだってな?」

「…」

声を掛けてきたのは、それが言いたかったからなのか。揶揄するような声、男の顔に歪んだ笑みが浮かんでいる。

「…だったら、なんですか?」

「ハッ!やっぱな!所詮、それがお前の実力ってことだよ!」

「…」

「いや、A級なれたのだって、お前の実力じゃねぇな。ルキのおこぼれってことだろ?でなきゃ、お前程度がA級になれるはずねぇもんな?」

「…」

「まあ、そんなお前でも、荷物持ちくらいにはなれんだろ?師弟で、大人しく荷物でも運んでりゃいいんだよ!」

(なに、この人…)

最初は、私へのディスりかと思った。S級に合格したルキに対抗意識を燃やしているらしいから、同じくS級試験を受けた私のことがおもしろくないのだろうと。

私がS級試験に落ちたのは事実。そのことに何も感じないというほど達観は出来ていないけれど、悪意しか持たない相手に何を言われようと、そんなものはスルー出来る。

でも、

(師匠のことを、そんな風に…)

許せないと思った。荷物持ち─?

師が本気で荷物持ちをするなら、ダンジョン中のドロップ品を持ち帰ることだって出来る。師が真価を発揮できないというなら、それは、目の前の男達の力不足、師が本気になるほどではないということ。だけど、それを目の前の男にわざわざ教えてやるつもりもない。この男には、師の凄さを知る権利さえないんだから。

ただ、悔しい思いだけは抑えきれなくて、何か言い返してやろうと開きかけた口、言葉になる前に背後から声が聞こえた。

「セリ。」

「!…ルキ。」

「どした。…大丈夫か?」

大丈夫かと聞きながら、鋭い視線を剣士の男に向けるルキ。私を守るみたいに、男を威嚇してくれている。

「…大丈夫、です。」

「…本当に?」

「はい…」

ルキの表情が険しい。どこから見ていたんだろう。ひょっとしたら、話も聞かれていたのかもしれない。だけど、ここでルキに男の相手をさせるようなことはしたくない。ルキのおかげで、少し冷静になれたから分かる。この男にそんな価値は無い。

ルキの姿を目にして、分かりやすく動揺している男なんか─

(関わるだけ、無駄…)

「…ルキ、ありがとうございます。」

「…」

「あの、戻りましょう。すみません、心配かけて。」

「いや。」

ルキを促すようにして男に背を向ける。そのままこちらが歩き出しても、男が何かを言ってくることはなかった。

「…」

(…馬鹿みたい。)

「…セリ、ホント、大丈夫か?」

あんな男の言葉に惑わされてる自分が情けなくて溢したため息、それをルキに拾われた。

「…やっぱ、ちょっと戻って、あいつら暫く動けないように、」

「いえ!あの、それは、もう、大丈夫です。本当に…」

ルキが私のことで怒ってくれるのは、正直、嬉しい。だけど、冒険者同士の暴力行為は全面禁止、バレればペナルティだって課されてしまう。本気で引き返そうとするルキを慌てて止める。

「…凹んでたのは、その、あの人のせい、ではあるんですが、何て言うか…」

「ん?」

「…ポーターという職業がダンジョンに欠かせない職業だということは分かってるんです。でも、師が彼らのポーターをしているという事実が、やっぱり、悔しくて…」

職業に貴賤は無いと思いながらも、そこがどうしても納得できずに引っかかっている。本人は、自分の目的以外のことは気にもかけていないようだけれど、弟子としては、「何故、師ほどの人が」と思ってしまうのだ。

「…ポーターが駄目、というわけではないんです。でも…」

「ああ、そりゃ、まぁ、アイツらのポーターの扱い考えりゃ、セリが悔しくなんのは当然なんじゃねーの?」

「…」

「同じポーターでも、厚遇されてりゃ、セリは『悔しい』なんて、思わねぇだろ?」

「それは…」

言われて、想像してみた。きちんと「仲間」としてポーターをする師。やはり、「勿体ない」と思いはするものの、「悔しい」とまでは思わない。

「…本当、ですね。凄い、ルキの言う通りみたいです。」

「な?ちゃんと専門職として尊重されてりゃ問題ねぇんだよ。…実際、ダンジョンが本格稼働始めたら、ポーターは不可欠。それが分かってねぇ、アイツらみたいなのは放っておいても自滅する。イグナーツのおっさんも黙ってねぇだろうし。それにさ…」

「?」

「セリのお師匠さんはあいつらなんざ歯牙にもかけねぇ、…だろ?」

「…はい。」

「だったら、セリが気にして凹むことは何もねぇんだって。…あいつの発言がムカつくってんなら、俺がちょっと話つけてきてもいいし…」

「話、ですか?」

「あ?…まぁ、あっちがちゃんと俺の話聞くなら?」

ルキの「聞かないなら暴力に訴える」と言い出しそうな雰囲気に、思わず笑ってしまう。

「…ルキ、ありがとうございます。すっきりしました。」

「ん…」

ルキに愚痴って吐き出して、それですっかり気が済んでしまったのだから、自分でも大概、単純だなと思ってしまう。それでも、ルキが笑ってくれていて、それで─

(…あれ?)

感じた違和感。

「セリ?どうした?」

「あ、いえ、何でもない、です…」

(ああ、そうか…)

ルキとの距離だ。

いつの間に、こんなに離れてしまったんだろう。二人並んでも、触れあわない距離。ルキの手が、伸びてくることもない。

それも、

(…ルキの方、から…?)

距離を取られてる。多分、私のせいで。自惚れでなく、ルキなら私の反応に気づいたら、そういう気遣いをしてくれる。ルキは、人のことをよく見ているから─

だから、自業自得。この距離を寂しいと感じてしまうのは。




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