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ダンジョン調査 ▶29話
#14 追い詰められた状況に師のもたらした光明
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次の日から、黎明の人達があからさまに後をついてくるようになった。リポップしていたギガントビークルと私達との再戦をただ見学し、こちらが階下へ降り始めたタイミングであちらも移動を開始する。兄が「放っといたら?」という姿勢なので、こちらから接触はしないけれど─
ルキ曰く、姿が見えない間もつかず離れずの距離でついてきているという彼らは、夜になれば必ずこちらと同じ空間で野営を始める。その間、特に交流もなく互いに不干渉を貫いてはいたが、彼らの野営を目にするようになってから三日目、とうとう我慢が出来なくなってしまった。
「…兄さん。」
「ん?」
「師匠が、ご飯食べてない…」
「え?そうなの?」
「うん。…朝と夜は、確実。」
「ふーん?よく見てんねぇ、セリ。…でも、まぁ、いいんじゃないの?あの人、一ヶ月くらい何も食べずに研究したりするでしょ?」
「兄さん、ご飯は食べなきゃダメ。」
「あ、はい。」
無関心とまではいかないけれど、師に積極的に関わるつもりはないらしい兄。対応は一人でするしかない。
「…師匠に、ご飯持って行ってもいい?」
「え?うん、まぁ、食料は腐るほど持たされてるから、いいけど。」
イグナーツさんという強力なスポンサーから提供して頂いた糧食は、今回の調査で消費しきれる量をはるかに超える。その中から一つを持ち出して、
「…行ってくる。」
「あー、もう、放っときゃいいのに…」
兄のボヤキのような一言を背に受けて、師の元へと足を運んだ。相変わらず、同じパーティのはずの三人組とは距離を置いているから近づきやすい、のは助かるんだけれど─
「…師匠。」
「…」
「…あの、師匠?」
「…セリか。」
書き物に没頭していた師匠。二度目の呼びかけで反応したということは、それほどのめり込んでいたわけではないらしい。気づいてもらえたことに安堵して、手にしていた携行食を師に差し出した。
「…なんだ?」
「ご飯です。師匠、また食事抜いてますよね?」
「…」
黙ったまま、こちらの手元を眺める師、動く気配が全くなさそうなことにため息をついて、
「食べて下さい。」
「…」
携行食にかけられていた保存魔法を解いて、固く焼いたパンのようなそれを手渡す。今度はきっちり師の手を掴んで、その上に乗せた。
「…施しを受ける謂れは、」
「施しっ!?」
師の発言に驚いて、そう言えばと思い出す。
(…師匠、誰かに何かをしてもらうの苦手、だった。)
逆に、無償で誰かに手を貸すということもしなかったから、一見、非情にも見られる師。それでも、互いに分け与えられるものがあるのなら、師はその知識や力を惜しむことなく与えてくれる。私達兄妹に関しても、兄が前世の知識を提供し、私が家事という労働をこなすことで、師は私達に生きていくための力を与えてくれた。
(…懐かしい。)
兄の前世知識を元に、兄と師があーでもないこーでもないと二人で研究を重ねていた日々。私は、そんな二人の背中を眺めているのが好きだった─
「…師匠、施しではないです。ただ、師匠が食事していないと私が気になってしまうので。」
「…」
「兄さんにも、ちゃんと許可をもらっています。」
「…だとしても、私には必要ない。」
「…」
確かに、魔力循環のいい師ならば、ひと月食事抜きでも死ぬことはない。死にはしないだろうけど、
「…身体、壊します。」
「…」
師だって、不死身ではないのだから。
頑固な師を、どうやって頷かせようかと考えて、ふと気づいた。
「…そういえば、師匠。」
「?」
「…」
─師匠が、綺麗
ビューティフルなのは元からだけど、ダンジョンに一週間以上も潜っているのにこのクリーンさは─
「師匠、そう言えば、清浄魔法、使えましたよね?」
「ああ。」
「っ!教えて下さい!清浄魔法!お願いします!」
「…なに?」
「食事の代わり!交換条件です!食事、お持ちしますから、私に清浄魔法教えてください!」
「…」
師が望んでいない食事を押し付けているのだから、交換条件というには、師にメリットが無さすぎる、けど─
「…いいだろう。」
「!本当ですか?」
「…何かを学ばんとする姿勢は、嫌いではない。」
「ありがとうございます!」
精一杯、頭を下げる。
(凄い、コレで問題が解決しそう…)
ダンジョン最大の脅威。ルキとの距離感。それが、ちょっとずつ開いてきているのを自覚していたから、本当に嬉しい。これで─
「…あの、師匠、ちなみに、今、私に清浄魔法をかけてもらうことって…?」
「…交換条件、ではなかったのか?」
「…」
「お前は既に私の庇護下にはない。巣立った以上は、自らの力で解決しなさい。」
「…はい。」
師は、私にもちょっとだけ厳しい。
ルキ曰く、姿が見えない間もつかず離れずの距離でついてきているという彼らは、夜になれば必ずこちらと同じ空間で野営を始める。その間、特に交流もなく互いに不干渉を貫いてはいたが、彼らの野営を目にするようになってから三日目、とうとう我慢が出来なくなってしまった。
「…兄さん。」
「ん?」
「師匠が、ご飯食べてない…」
「え?そうなの?」
「うん。…朝と夜は、確実。」
「ふーん?よく見てんねぇ、セリ。…でも、まぁ、いいんじゃないの?あの人、一ヶ月くらい何も食べずに研究したりするでしょ?」
「兄さん、ご飯は食べなきゃダメ。」
「あ、はい。」
無関心とまではいかないけれど、師に積極的に関わるつもりはないらしい兄。対応は一人でするしかない。
「…師匠に、ご飯持って行ってもいい?」
「え?うん、まぁ、食料は腐るほど持たされてるから、いいけど。」
イグナーツさんという強力なスポンサーから提供して頂いた糧食は、今回の調査で消費しきれる量をはるかに超える。その中から一つを持ち出して、
「…行ってくる。」
「あー、もう、放っときゃいいのに…」
兄のボヤキのような一言を背に受けて、師の元へと足を運んだ。相変わらず、同じパーティのはずの三人組とは距離を置いているから近づきやすい、のは助かるんだけれど─
「…師匠。」
「…」
「…あの、師匠?」
「…セリか。」
書き物に没頭していた師匠。二度目の呼びかけで反応したということは、それほどのめり込んでいたわけではないらしい。気づいてもらえたことに安堵して、手にしていた携行食を師に差し出した。
「…なんだ?」
「ご飯です。師匠、また食事抜いてますよね?」
「…」
黙ったまま、こちらの手元を眺める師、動く気配が全くなさそうなことにため息をついて、
「食べて下さい。」
「…」
携行食にかけられていた保存魔法を解いて、固く焼いたパンのようなそれを手渡す。今度はきっちり師の手を掴んで、その上に乗せた。
「…施しを受ける謂れは、」
「施しっ!?」
師の発言に驚いて、そう言えばと思い出す。
(…師匠、誰かに何かをしてもらうの苦手、だった。)
逆に、無償で誰かに手を貸すということもしなかったから、一見、非情にも見られる師。それでも、互いに分け与えられるものがあるのなら、師はその知識や力を惜しむことなく与えてくれる。私達兄妹に関しても、兄が前世の知識を提供し、私が家事という労働をこなすことで、師は私達に生きていくための力を与えてくれた。
(…懐かしい。)
兄の前世知識を元に、兄と師があーでもないこーでもないと二人で研究を重ねていた日々。私は、そんな二人の背中を眺めているのが好きだった─
「…師匠、施しではないです。ただ、師匠が食事していないと私が気になってしまうので。」
「…」
「兄さんにも、ちゃんと許可をもらっています。」
「…だとしても、私には必要ない。」
「…」
確かに、魔力循環のいい師ならば、ひと月食事抜きでも死ぬことはない。死にはしないだろうけど、
「…身体、壊します。」
「…」
師だって、不死身ではないのだから。
頑固な師を、どうやって頷かせようかと考えて、ふと気づいた。
「…そういえば、師匠。」
「?」
「…」
─師匠が、綺麗
ビューティフルなのは元からだけど、ダンジョンに一週間以上も潜っているのにこのクリーンさは─
「師匠、そう言えば、清浄魔法、使えましたよね?」
「ああ。」
「っ!教えて下さい!清浄魔法!お願いします!」
「…なに?」
「食事の代わり!交換条件です!食事、お持ちしますから、私に清浄魔法教えてください!」
「…」
師が望んでいない食事を押し付けているのだから、交換条件というには、師にメリットが無さすぎる、けど─
「…いいだろう。」
「!本当ですか?」
「…何かを学ばんとする姿勢は、嫌いではない。」
「ありがとうございます!」
精一杯、頭を下げる。
(凄い、コレで問題が解決しそう…)
ダンジョン最大の脅威。ルキとの距離感。それが、ちょっとずつ開いてきているのを自覚していたから、本当に嬉しい。これで─
「…あの、師匠、ちなみに、今、私に清浄魔法をかけてもらうことって…?」
「…交換条件、ではなかったのか?」
「…」
「お前は既に私の庇護下にはない。巣立った以上は、自らの力で解決しなさい。」
「…はい。」
師は、私にもちょっとだけ厳しい。
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