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ダンジョン調査 ▶29話

#11 守りたいものがあって、譲れない一線があったから(シオン視点)

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(…ほんと、マジで申し訳ない。)

目の前で項垂れるイグナーツさん。自分の、一応は「師」である男の暴挙に、心底申し訳ないとは思っているけれど、同時に「何で俺が?」という苛立ちも抱えている。

過去何度も男のやらかしに巻き込まれ、散々な目に合ってきた身ではあるが、男から離れた後にまでこんな羽目に陥るとは思ってもいなかった。溢れそうになるため息を、目の前の人の手前、グッと飲み込む。

「…それにしても、まさか、コアの持ち出しとは…」

独り言のように呟かれた言葉は、

「なぜ、よりにもよって、うちのダンジョンなのか…」

先ほどまでの闇のオーラが微塵も感じられないくらいに弱弱しい。

「厄介な…」

(っ!?イグナーツさんがっ…!)

仕事の出来る男、イグナーツさんがソファに沈んでいく姿なんて、見たくなかった─!

元凶の一応の身内としては、安易な慰めの言葉を口にすることも出来ず、内心で焦りまくる。焦りまくってるっていうのに、エルから駄目押しの一言が─

「セリちゃんとシオンのお師匠様って、なんか、聞いてたよりとんでもないね?」

「ほんっと、すんません!うちの師が自由人過ぎて!」

師の不始末に、ただただ頭を下げた。顔を上げれば、真剣な顔でこちらを見ていたルキと目が合って、

「…シオン達って、どういう経緯で、その師匠って人んとこに弟子入りすることになったんだよ?」

「え?経緯?」

「ああ。…ガキん頃に親を亡くしてってのはセリから聞いてっけど、何で、そんなぶっ飛んでる人間とこだったわけ?」

「あ、それ、僕も前から気になってたんだよね。ヴァイズ・ミレンって、そもそも人嫌いで、弟子なんて滅多に取らないんでしょ?」

「えー?あー、経緯っていうか…」

孤児になって預けられていた教会を脱走して、子どもの足で逃げ込める先として思い当たったのが「魔導師ヴァイズ・ミレン」の元だっただけで。

(まぁ、一応、手に職つけなきゃって意志はあったから…)

「…一応、俺が希望して?みたいな?」

「マジかよ。…シオン、お前、相手は選べ?セリも居んだからさ。…どう聞いてもヤベェ奴だろ。」

「いやいや、俺だって、あの人の中身までは知らなかったんだって!子どもだったし!有名な魔導師があそこまで人格破綻してるとは思わなかったの!」

エルとルキの胡乱な眼差しに、必死に首を振る。ルキは特に、セリが絡むと─どうやら過去のことにおいても─異様なほど保護欲を発揮するから。

そのセリが、横から口を開いて、

「…私達が預けられていた教会から、師の住まいが近かったんです。」

「っ!そう!それ!それが一番でかかった!」

思わぬ援護を受けて、勢いを得る。

「…町の人からも『国一番』と尊敬されていて、凄い魔導師なんだな、と。」

「だよな!?そうだったよな!?前評判っていうか、噂では、賢者?みたいな、すっごい人らしいってことでさ?どうせ、食ってくために何かしないとなら、賢者の弟子とか最高!って思ったんだよな!」

「…で?実際、弟子入りしてみたら、現実は厳しかったと?」

「う。」

エルの返しに、一瞬で勢いがそがれる。

「…まあ、それでも、やっぱり、不思議なんだよね。シオンが希望したからって、ヴァイズ・ミレンが弟子、それも子どもを受け入れる?聞いた話、子どもだからって、同情するようなタイプでもないんでしょ?」

「んー、まぁ、それはねー?」

実際、第一声の「弟子にして下さい!」はけんもほろろに断られた。

(てか、ドア、ピシャッ!だったな…)

全く懐かしくはない思い出に、ある意味、感傷に浸りたくなってしまう。

「…あーっと、まぁ、確かに、あの人、弟子とかとるつもりは無かったみたいだけど、そこは、何ていうの?俺の熱意というか、パッションが通じた?みたいな感じで。俺の将来性にかけてみたい、的な?」

「…」

「…」

「…」

男三人の沈黙とセリの視線が痛い。あれは、「嘘つき」と言っている目だ。

(いや、けど、でも、本当のことは言えないじゃん?)

あの男に弟子入りするため、興味を引くために、自分が切ったのは、当時の自分達が持っていた唯一の切り札。自分達が前世持ちだという秘密、異世界の知識を使って、知的探究心旺盛な男を引っ掛けたのだから。

(まぁ、切り札切るタイミング自体は間違ってなかった、と思う…)

その後の男の元での生活を思えば、完璧だったとまでは言えないけど、

(少なくとも、犯罪に手を出さずに生きてこれたし…)

親…、前世の両親に顔向けできないような真似だけはしていない。

(セリのことも…)

一応は、守ってこれたんじゃね?と自負しているけれど─

「…シオン君の熱意ねぇ…」

「まぁ、シオンのしつこさなら?あり得るかもな?」

「…確かに、シオンもセリちゃんも頑固だもんねぇ?」

「…」

(…え?なに?)

気づけば、適当に口にした言葉を、嫌な感じで納得されてしまったらしい。

(解せぬ…)

セリまで変な顔をしているが、まぁ、結果オーライ。

弛緩した空気の中、明日の準備があるからと皆で席を立つ。部屋を出る際に、イグナーツさんからもう一度、「信じてるから」を頂いて、ギルドを後にした。




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