98 / 174
ダンジョン調査 ▶29話
#11 守りたいものがあって、譲れない一線があったから(シオン視点)
しおりを挟む
(…ほんと、マジで申し訳ない。)
目の前で項垂れるイグナーツさん。自分の、一応は「師」である男の暴挙に、心底申し訳ないとは思っているけれど、同時に「何で俺が?」という苛立ちも抱えている。
過去何度も男のやらかしに巻き込まれ、散々な目に合ってきた身ではあるが、男から離れた後にまでこんな羽目に陥るとは思ってもいなかった。溢れそうになるため息を、目の前の人の手前、グッと飲み込む。
「…それにしても、まさか、コアの持ち出しとは…」
独り言のように呟かれた言葉は、
「なぜ、よりにもよって、うちのダンジョンなのか…」
先ほどまでの闇のオーラが微塵も感じられないくらいに弱弱しい。
「厄介な…」
(っ!?イグナーツさんがっ…!)
仕事の出来る男、イグナーツさんがソファに沈んでいく姿なんて、見たくなかった─!
元凶の一応の身内としては、安易な慰めの言葉を口にすることも出来ず、内心で焦りまくる。焦りまくってるっていうのに、エルから駄目押しの一言が─
「セリちゃんとシオンのお師匠様って、なんか、聞いてたよりとんでもないね?」
「ほんっと、すんません!うちの師が自由人過ぎて!」
師の不始末に、ただただ頭を下げた。顔を上げれば、真剣な顔でこちらを見ていたルキと目が合って、
「…シオン達って、どういう経緯で、その師匠って人んとこに弟子入りすることになったんだよ?」
「え?経緯?」
「ああ。…ガキん頃に親を亡くしてってのはセリから聞いてっけど、何で、そんなぶっ飛んでる人間とこだったわけ?」
「あ、それ、僕も前から気になってたんだよね。ヴァイズ・ミレンって、そもそも人嫌いで、弟子なんて滅多に取らないんでしょ?」
「えー?あー、経緯っていうか…」
孤児になって預けられていた教会を脱走して、子どもの足で逃げ込める先として思い当たったのが「魔導師ヴァイズ・ミレン」の元だっただけで。
(まぁ、一応、手に職つけなきゃって意志はあったから…)
「…一応、俺が希望して?みたいな?」
「マジかよ。…シオン、お前、相手は選べ?セリも居んだからさ。…どう聞いてもヤベェ奴だろ。」
「いやいや、俺だって、あの人の中身までは知らなかったんだって!子どもだったし!有名な魔導師があそこまで人格破綻してるとは思わなかったの!」
エルとルキの胡乱な眼差しに、必死に首を振る。ルキは特に、セリが絡むと─どうやら過去のことにおいても─異様なほど保護欲を発揮するから。
そのセリが、横から口を開いて、
「…私達が預けられていた教会から、師の住まいが近かったんです。」
「っ!そう!それ!それが一番でかかった!」
思わぬ援護を受けて、勢いを得る。
「…町の人からも『国一番』と尊敬されていて、凄い魔導師なんだな、と。」
「だよな!?そうだったよな!?前評判っていうか、噂では、賢者?みたいな、すっごい人らしいってことでさ?どうせ、食ってくために何かしないとなら、賢者の弟子とか最高!って思ったんだよな!」
「…で?実際、弟子入りしてみたら、現実は厳しかったと?」
「う。」
エルの返しに、一瞬で勢いがそがれる。
「…まあ、それでも、やっぱり、不思議なんだよね。シオンが希望したからって、ヴァイズ・ミレンが弟子、それも子どもを受け入れる?聞いた話、子どもだからって、同情するようなタイプでもないんでしょ?」
「んー、まぁ、それはねー?」
実際、第一声の「弟子にして下さい!」はけんもほろろに断られた。
(てか、ドア、ピシャッ!だったな…)
全く懐かしくはない思い出に、ある意味、感傷に浸りたくなってしまう。
「…あーっと、まぁ、確かに、あの人、弟子とかとるつもりは無かったみたいだけど、そこは、何ていうの?俺の熱意というか、パッションが通じた?みたいな感じで。俺の将来性にかけてみたい、的な?」
「…」
「…」
「…」
男三人の沈黙とセリの視線が痛い。あれは、「嘘つき」と言っている目だ。
(いや、けど、でも、本当のことは言えないじゃん?)
あの男に弟子入りするため、興味を引くために、自分が切ったのは、当時の自分達が持っていた唯一の切り札。自分達が前世持ちだという秘密、異世界の知識を使って、知的探究心旺盛な男を引っ掛けたのだから。
(まぁ、切り札切るタイミング自体は間違ってなかった、と思う…)
その後の男の元での生活を思えば、完璧だったとまでは言えないけど、
(少なくとも、犯罪に手を出さずに生きてこれたし…)
親…、前世の両親に顔向けできないような真似だけはしていない。
(セリのことも…)
一応は、守ってこれたんじゃね?と自負しているけれど─
「…シオン君の熱意ねぇ…」
「まぁ、シオンのしつこさなら?あり得るかもな?」
「…確かに、シオンもセリちゃんも頑固だもんねぇ?」
「…」
(…え?なに?)
気づけば、適当に口にした言葉を、嫌な感じで納得されてしまったらしい。
(解せぬ…)
セリまで変な顔をしているが、まぁ、結果オーライ。
弛緩した空気の中、明日の準備があるからと皆で席を立つ。部屋を出る際に、イグナーツさんからもう一度、「信じてるから」を頂いて、ギルドを後にした。
目の前で項垂れるイグナーツさん。自分の、一応は「師」である男の暴挙に、心底申し訳ないとは思っているけれど、同時に「何で俺が?」という苛立ちも抱えている。
過去何度も男のやらかしに巻き込まれ、散々な目に合ってきた身ではあるが、男から離れた後にまでこんな羽目に陥るとは思ってもいなかった。溢れそうになるため息を、目の前の人の手前、グッと飲み込む。
「…それにしても、まさか、コアの持ち出しとは…」
独り言のように呟かれた言葉は、
「なぜ、よりにもよって、うちのダンジョンなのか…」
先ほどまでの闇のオーラが微塵も感じられないくらいに弱弱しい。
「厄介な…」
(っ!?イグナーツさんがっ…!)
仕事の出来る男、イグナーツさんがソファに沈んでいく姿なんて、見たくなかった─!
元凶の一応の身内としては、安易な慰めの言葉を口にすることも出来ず、内心で焦りまくる。焦りまくってるっていうのに、エルから駄目押しの一言が─
「セリちゃんとシオンのお師匠様って、なんか、聞いてたよりとんでもないね?」
「ほんっと、すんません!うちの師が自由人過ぎて!」
師の不始末に、ただただ頭を下げた。顔を上げれば、真剣な顔でこちらを見ていたルキと目が合って、
「…シオン達って、どういう経緯で、その師匠って人んとこに弟子入りすることになったんだよ?」
「え?経緯?」
「ああ。…ガキん頃に親を亡くしてってのはセリから聞いてっけど、何で、そんなぶっ飛んでる人間とこだったわけ?」
「あ、それ、僕も前から気になってたんだよね。ヴァイズ・ミレンって、そもそも人嫌いで、弟子なんて滅多に取らないんでしょ?」
「えー?あー、経緯っていうか…」
孤児になって預けられていた教会を脱走して、子どもの足で逃げ込める先として思い当たったのが「魔導師ヴァイズ・ミレン」の元だっただけで。
(まぁ、一応、手に職つけなきゃって意志はあったから…)
「…一応、俺が希望して?みたいな?」
「マジかよ。…シオン、お前、相手は選べ?セリも居んだからさ。…どう聞いてもヤベェ奴だろ。」
「いやいや、俺だって、あの人の中身までは知らなかったんだって!子どもだったし!有名な魔導師があそこまで人格破綻してるとは思わなかったの!」
エルとルキの胡乱な眼差しに、必死に首を振る。ルキは特に、セリが絡むと─どうやら過去のことにおいても─異様なほど保護欲を発揮するから。
そのセリが、横から口を開いて、
「…私達が預けられていた教会から、師の住まいが近かったんです。」
「っ!そう!それ!それが一番でかかった!」
思わぬ援護を受けて、勢いを得る。
「…町の人からも『国一番』と尊敬されていて、凄い魔導師なんだな、と。」
「だよな!?そうだったよな!?前評判っていうか、噂では、賢者?みたいな、すっごい人らしいってことでさ?どうせ、食ってくために何かしないとなら、賢者の弟子とか最高!って思ったんだよな!」
「…で?実際、弟子入りしてみたら、現実は厳しかったと?」
「う。」
エルの返しに、一瞬で勢いがそがれる。
「…まあ、それでも、やっぱり、不思議なんだよね。シオンが希望したからって、ヴァイズ・ミレンが弟子、それも子どもを受け入れる?聞いた話、子どもだからって、同情するようなタイプでもないんでしょ?」
「んー、まぁ、それはねー?」
実際、第一声の「弟子にして下さい!」はけんもほろろに断られた。
(てか、ドア、ピシャッ!だったな…)
全く懐かしくはない思い出に、ある意味、感傷に浸りたくなってしまう。
「…あーっと、まぁ、確かに、あの人、弟子とかとるつもりは無かったみたいだけど、そこは、何ていうの?俺の熱意というか、パッションが通じた?みたいな感じで。俺の将来性にかけてみたい、的な?」
「…」
「…」
「…」
男三人の沈黙とセリの視線が痛い。あれは、「嘘つき」と言っている目だ。
(いや、けど、でも、本当のことは言えないじゃん?)
あの男に弟子入りするため、興味を引くために、自分が切ったのは、当時の自分達が持っていた唯一の切り札。自分達が前世持ちだという秘密、異世界の知識を使って、知的探究心旺盛な男を引っ掛けたのだから。
(まぁ、切り札切るタイミング自体は間違ってなかった、と思う…)
その後の男の元での生活を思えば、完璧だったとまでは言えないけど、
(少なくとも、犯罪に手を出さずに生きてこれたし…)
親…、前世の両親に顔向けできないような真似だけはしていない。
(セリのことも…)
一応は、守ってこれたんじゃね?と自負しているけれど─
「…シオン君の熱意ねぇ…」
「まぁ、シオンのしつこさなら?あり得るかもな?」
「…確かに、シオンもセリちゃんも頑固だもんねぇ?」
「…」
(…え?なに?)
気づけば、適当に口にした言葉を、嫌な感じで納得されてしまったらしい。
(解せぬ…)
セリまで変な顔をしているが、まぁ、結果オーライ。
弛緩した空気の中、明日の準備があるからと皆で席を立つ。部屋を出る際に、イグナーツさんからもう一度、「信じてるから」を頂いて、ギルドを後にした。
23
お気に入りに追加
1,489
あなたにおすすめの小説
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。
水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました!
死んだら私も異世界転生できるかな。
転生してもやっぱり腐女子でいたい。
それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい……
天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生!
最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。
父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!?
※BL要素ありますが、全年齢対象です。
異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~
リコピン
恋愛
前世、会社勤務のかたわら婚活に情熱を燃やしていたクロエ。生まれ変わった異世界では幼馴染の婚約者がいたものの、婚約を破棄されてしまい、またもや婚活をすることに。一風変わった集団お見合いで出会ったのは、その場に似合わぬ一匹狼風の男性。(…って本当に狼獣人!?)うっかり惚れた相手が生きる世界の違う男性だったため、番(つがい)やら発情期やらに怯え、翻弄されながらも、クロエは幸せな結婚生活を目指す。
シリアス―★☆☆☆☆
コメディ―★★★★☆
ラブ♡♡―★★★★☆
ざまぁ∀―★★☆☆☆
※匂わす程度ですが、性的表現があるのでR15にしています。TLやラブエッチ的な表現はありません。
※このお話に出てくる集団お見合いの風習はフィクションです。
※四章+後日談+番外編になります。
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する
もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。
だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く
拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。
とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。
…‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。
「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」
これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め)
小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。
ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
望月かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる