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ダンジョン調査 ▶29話

#10 契約内容はきちんと確認、…したんだよね、きっと

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「あの、それで、黎明の星の契約書って見せてもらえますか?師と結んでるポーター契約がどういうものか知りたくて。」

「契約書…」

「見せるの無理なら、概要だけでも教えてもらえると助かるんすけど。」

「…あるよ。」

「え?」

「これ、彼らの契約書の控え。」

そう言って、イグナーツさんが懐─多分、マジックポケットがついてる─から書類を取り出した。

「…僕の方でも一応、目を通したけど、これは、かなり酷いね。」

「酷い、んですか?」

「うん。仕事内容を荷運びに限定するのは通常だけど、戦闘への参加は一切禁止。不要じゃなくて、禁止ね?で、禁止してるのに保護契約も無くて、自分の身は自分で守れ…、って、逃げろってことなのかな?まぁ、よくわからないけど、仮に死んでも自己責任ってことで、パーティからの補償は無し。」

「…それは確かにちょっと。いや、まぁ、でも、師ならそれでも問題無い、」

「兄さん、黎明の人達は師匠のこと知らなかった。普通の魔導師だと思ってたみたい…」

「…」

そう考えると、鬼のような契約条件。イグナーツさんの顔にも「不快」ってはっきり書いてある。

「…ポーター契約はパーティ内での契約だからね。メンバー把握のために契約書の控えはとらせてもらうけど、契約内容までは口出ししないし、これも、把握できてなかった。」

契約書を、ピシってテーブルに叩きつけたイグナーツさん。

「賃金契約にしても、日数ではなく回数、ダンジョンに一度潜る毎の賃金になってるから、彼らがダンジョンに滞在すればするだけ、君らの師の日当は低くなる。おまけに、ダンジョンでのドロップ品の配分はゼロ。」

「…」

「戦闘禁止ってのは、この配分のところに関わるみたいだね。『非戦闘職への配分無し』なんて、随分と前時代的な契約だけど。」

イグナーツさんの指が、テーブルの上の書類をコツコツと叩く。

「…一度、彼らとは話をする必要があるな。基本、ギルドが中立の立場にあるとはいえ、限度がある。…こんな、一方的な搾取は認められない。」

「あー、はい、そうっすよね。…そうなんすけど、何か、一周回って、あの人が不遇職とか、逆にウケる…」

「兄さん…」

「あ、はい、すみません。」

口先だけで謝る兄が、ヘラっと笑って、

「でも、これのおかげで、俺達に勝機が見えてきたよな?」

「勝機?」

「そう。この契約、魔法契約だからさ、あの人、本当に荷運びしか出来ないよ?ダンジョン攻略においては戦力外ってことで、俺達は黎明の星の連中より先にコアにたどり着くだけでいい。」

「…なるほど?」

「流石に、あの人出てきたら、今日中にダンジョン攻略終わっちゃうだろうからさ、激ヤバだったけど、相手が黎明の星の連中だけなら、イケるんじゃね?」

「…確かに?」

兄の言わんとすることが分かってきて、私も「イケそう」な気が─

「…君達の師がダンジョン攻略に手を出さないというのは確実?魔法契約とは言え、彼ほどの魔導師であれば、破棄することも可能だろう?」

「あー、えっと、はい。師は魔法大好きなんで、魔法契約を破るような、『魔法に嫌われる』ことはしない、というか出来ないんです。」

「…所謂、『禁を犯す』ということかな?」

「そうそう、それです!あの人、人のルールは平気で破るくせに、魔法に関しては細かいことまで拘るタイプなんで。ダンジョン入るのに、わざわざ黎明の風にくっついてってんのも、入場制限に引っかかるからだろうし。」

「確かに、魔力登録による入場規制をとってはいるけど…」

「ですよね!だから、コアルーム封鎖する時も魔法誓約ガンガン追加しておけば、師は手も足も出ない!完璧だと思うんすよね!」

「…」

兄が悪い顔してる。師を出し抜けそうなのが嬉しくてたまらないらしい。

(挑発、されてたからなぁ…)

師も兄相手だと容赦ないから、お互い様ではある。

ウキウキしてる兄に、エルが口を開いて、

「そもそも?黎明の星の奴らだけなんだったら、最下層どころか、中層でも厳しいんじゃないの?あいつらだけでダンジョン攻略なんてする?」

「…え?…あれ?…そう言われれば、そうかも?…あれ?俺、あの人見て焦り過ぎてた?」

「いや、可能性はあるよ。」

「え?」

「彼ら、ルキ君がS級昇格してだいぶ対抗意識燃やしてるらしいからね。今回の探索にも相当な物資を持ち込んでる。それこそ、ひと月は潜れるくらいね?…実際、まだ彼らの帰還報告は来ていない。」

「…え、怖い。」

兄の思わずの呟きに頷いた。何が怖いって、イグナーツさんがそこまで把握してることが─

(…いつ、調べたんだろう?)

元から彼らに目をつけていたのか、それとも、朝のドタバタの後に急遽情報を集めたのか。どちらにしても怖いけれど、気になることが一つ。

「…あの、黎明の人達は、ルキのS級昇格、知ってるんですか?」

ルキは自分の昇格を喧伝していないし、調査準備に忙しくて飲みにも行けていない。彼らがルキの昇格を知る術は無いんじゃ─?

「知ってるよ。ルキ君のS級昇格は、ロカール中の人間が知ってる。ルキ君には、これから名実共にロカールの顔になってもらわなくちゃいけないからね。…何のために、僕が人前で彼をお祝いしたと思ってるの?」

「…」

「…え、怖い。」

兄の呟きに、再び頷く。あの行動に、そんな意味があったなんて─

そんなこちらの反応を意に介さず、イグナーツさんが深いため息をついた。

「…まぁ、分かりました。シオン君の対策、というか、その案で何とかなりそうなら、ダンジョン調査については、当初の予定通り、君達に全て任せようと思う。」

「うっす。」

「僕らも、出来るだけのサポートはするつもりだから、何かあれば遠慮せずに言って欲しい。」

「あざっす!」

兄の返事に、イグナーツさんがもう一度、ため息をついた。




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