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ダンジョン調査 ▶29話
#8 少しだけ、兄のことを(自慢)
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「…兄さん、どうどう。…ガルガルしないで。」
「っ!してないね!俺は落ち着いてる。いたってクール!…クッソ、あのジジイ!」
「兄さん、ジジイは駄目…」
二人の元に戻ってからもプリプリしたままの兄、それを何とか落ち着かせながら、先ほど来た道を四人で戻る。
「…で?結局、問題は解決したの?シオンは、まぁ、何だか分かんないことになってるみたいだけど、調査は続けるんだよね?」
「ああ、うん、そう。戻って最初からマッピングし直したい、んだけど、…ごめん、二人とも。こっちのゴタゴタに巻き込んで…」
「別に、巻き込まれたとは思ってねぇよ。ただ、何かしんねぇけど、問題あんだったら、俺らにも言えってだけでさ。」
「うん、ありがと。」
二人のおかげで、落ち着きを取り戻してきた兄が苦笑する。
「あの人のことは、まぁ、何とかなりそうなんだけどさ、帰って、イグナーツさんに確認してからかな?…その時に、二人にもちゃんと説明する。」
「オーケー。」
「りょーかい☆」
「ってことで、じゃあ、調査続行。この階のマッピング終わらせちゃわないと。あ、あと、ポータルの設置も。」
入り口近くに戻ってきたところで、地図のような見た目のマッピング用魔道具を広げた兄が、手元のそれをのぞき込んだ。
「…ルキ、取り敢えず、探知したモンスターが居たら、都度教えてくれる?戦闘はしなくても、出現場所確認して安地見つけたいから。」
「ああ。」
「よし、そんじゃあ、改めて、お仕事開始!」
兄の合図で、ルキが探知を開始した。
調査開始から五時間、昼食や休憩をはさんでいるから、実質四時間ほどで、地下一階層のマッピングがほぼ完了した。
途中、敵の出現が全くない小部屋のようなエリアを見つけ、兄が今度は簡易ポータルの部品を広げていく。
一応、手伝いはしたものの、その必要もないくらいに簡単に組み立て終わった簡易ポータル。テントを張る時のペグ?のような形で、その頭部分が丸くなっている魔道具は、地面に突き刺すことで帰還用の陣を展開するらしい、のだけれど─
「…兄さん、ダンジョンに穴って開くの?」
「ん?」
「これ、地面に刺さる?」
「ああ、普通に掘るのは無理だから、土魔法で土台作って突き刺す。」
「…すぐ壊れそう。」
「うん、まぁ、でも、簡易ポータルだからな。転移陣設置するまでの繋ぎだし、作動すれば保存結界も展開されるらしいから。」
「…らしい?」
兄の言葉に不穏を覚える。兄は確か、ポータル設置の予行練習済み、昨日は「俺に任せろ!」的なことを言っていたはず。
「俺も、ホンモノ触んのは今日が初めてなんだよね。練習ん時は、普通の棒で練習してたし。」
「棒…」
「いや、だって、コレ、クソ高いんだって。一本、百万。」
「!?」
「練習には使えないお値段だよなー?…しかも、うちのギルド、コレを三十本購入済みっていう…」
「…」
ギルドの、イグナーツさんの本気を改めて感じる。
「…ってことだから、セリ、ちょっと離れてて。練習はしたけど、やっぱ、土魔法はムズいのよ。」
「…頑張って。」
兄から離れ、既に兄の死角に立っていた二人に並ぶ。ルキが、少し、こちらに身体を傾けて、
「…てか、シオンって、土魔法、使えんだな?種火起こせんのは知ってたけど。」
「兄は魔力が多いので、自分の周囲一メートル程度であれば、ごり押しで魔力を流せます。土魔法でも。」
「ごり押し…」
「はい。…兄の魔力は指向性が無くて、攻撃魔法のように相手に向かって魔力を飛ばせません。通常は、触れた対象にしか魔力が流れないんですが…」
「は?え、でも、シオン、俺らに付与魔法掛ける時、触れてない、よな?」
「はい。なので、ごり押しです。魔力を溢れさせることで、直接触れずに付与を掛けてるんです。」
「…」
「?」
ルキの反応が無くなった。隣を向いて確かめてみれば、ルキだけでなくエルまでが驚いたような顔で─
「?…エルも、知りませんでしたか?」
「知らないよ!ってか、気づかないよ!そんなもの!だって、あり得ないでしょっ!?」
「兄は魔力が多いので…」
「多いの一言で片づけられるもんじゃないでしょー!?魔力に指向性が無いってことは、そもそも、冒険者みたいな戦闘職には致命的じゃない!?」
「そこは、こう、兄の根性で…」
「すげぇな、アイツの根性。」
「根性の一言で片づけていいもんでも無いからね!?」
エルが「あり得ない」を連呼している。でも、妹としては、兄が「すげぇ」と称賛されるのは、実は、ちょっと、気分が良い─
「…ちなみに、兄は、全属性の魔法が使えます。」
「はっ!?」
「うっそ、でしょ…」
「本当です。攻撃魔法が使えないので、魔導師ではなく呪術師に成りましたが…」
「…」
「…」
絶句する二人を相手に、ちょっとだけ悦に入っていたら─
「お待たせ―、かんりょー、って、誰もこっち見てなくない!?」
「…兄さん、お疲れ様。いい仕事してますね?」
「いや!セリ、絶対、見てなかったよね!?三人でしゃべってたじゃん!?」
「そんなことは…」
いつまでも「ちゃんと見ててよ」と騒がしい兄、折角、エルとルキの中で上がったはずの兄評価は、早々に、落ち着くべきところに落ち着いた。
その後、三人がかりでなだめすかされた兄は、モンスターとの戦闘や宝箱の発見によって簡単に機嫌を直し、何とかその日の内に地下一階の調査を終えることが出来た。
「っ!してないね!俺は落ち着いてる。いたってクール!…クッソ、あのジジイ!」
「兄さん、ジジイは駄目…」
二人の元に戻ってからもプリプリしたままの兄、それを何とか落ち着かせながら、先ほど来た道を四人で戻る。
「…で?結局、問題は解決したの?シオンは、まぁ、何だか分かんないことになってるみたいだけど、調査は続けるんだよね?」
「ああ、うん、そう。戻って最初からマッピングし直したい、んだけど、…ごめん、二人とも。こっちのゴタゴタに巻き込んで…」
「別に、巻き込まれたとは思ってねぇよ。ただ、何かしんねぇけど、問題あんだったら、俺らにも言えってだけでさ。」
「うん、ありがと。」
二人のおかげで、落ち着きを取り戻してきた兄が苦笑する。
「あの人のことは、まぁ、何とかなりそうなんだけどさ、帰って、イグナーツさんに確認してからかな?…その時に、二人にもちゃんと説明する。」
「オーケー。」
「りょーかい☆」
「ってことで、じゃあ、調査続行。この階のマッピング終わらせちゃわないと。あ、あと、ポータルの設置も。」
入り口近くに戻ってきたところで、地図のような見た目のマッピング用魔道具を広げた兄が、手元のそれをのぞき込んだ。
「…ルキ、取り敢えず、探知したモンスターが居たら、都度教えてくれる?戦闘はしなくても、出現場所確認して安地見つけたいから。」
「ああ。」
「よし、そんじゃあ、改めて、お仕事開始!」
兄の合図で、ルキが探知を開始した。
調査開始から五時間、昼食や休憩をはさんでいるから、実質四時間ほどで、地下一階層のマッピングがほぼ完了した。
途中、敵の出現が全くない小部屋のようなエリアを見つけ、兄が今度は簡易ポータルの部品を広げていく。
一応、手伝いはしたものの、その必要もないくらいに簡単に組み立て終わった簡易ポータル。テントを張る時のペグ?のような形で、その頭部分が丸くなっている魔道具は、地面に突き刺すことで帰還用の陣を展開するらしい、のだけれど─
「…兄さん、ダンジョンに穴って開くの?」
「ん?」
「これ、地面に刺さる?」
「ああ、普通に掘るのは無理だから、土魔法で土台作って突き刺す。」
「…すぐ壊れそう。」
「うん、まぁ、でも、簡易ポータルだからな。転移陣設置するまでの繋ぎだし、作動すれば保存結界も展開されるらしいから。」
「…らしい?」
兄の言葉に不穏を覚える。兄は確か、ポータル設置の予行練習済み、昨日は「俺に任せろ!」的なことを言っていたはず。
「俺も、ホンモノ触んのは今日が初めてなんだよね。練習ん時は、普通の棒で練習してたし。」
「棒…」
「いや、だって、コレ、クソ高いんだって。一本、百万。」
「!?」
「練習には使えないお値段だよなー?…しかも、うちのギルド、コレを三十本購入済みっていう…」
「…」
ギルドの、イグナーツさんの本気を改めて感じる。
「…ってことだから、セリ、ちょっと離れてて。練習はしたけど、やっぱ、土魔法はムズいのよ。」
「…頑張って。」
兄から離れ、既に兄の死角に立っていた二人に並ぶ。ルキが、少し、こちらに身体を傾けて、
「…てか、シオンって、土魔法、使えんだな?種火起こせんのは知ってたけど。」
「兄は魔力が多いので、自分の周囲一メートル程度であれば、ごり押しで魔力を流せます。土魔法でも。」
「ごり押し…」
「はい。…兄の魔力は指向性が無くて、攻撃魔法のように相手に向かって魔力を飛ばせません。通常は、触れた対象にしか魔力が流れないんですが…」
「は?え、でも、シオン、俺らに付与魔法掛ける時、触れてない、よな?」
「はい。なので、ごり押しです。魔力を溢れさせることで、直接触れずに付与を掛けてるんです。」
「…」
「?」
ルキの反応が無くなった。隣を向いて確かめてみれば、ルキだけでなくエルまでが驚いたような顔で─
「?…エルも、知りませんでしたか?」
「知らないよ!ってか、気づかないよ!そんなもの!だって、あり得ないでしょっ!?」
「兄は魔力が多いので…」
「多いの一言で片づけられるもんじゃないでしょー!?魔力に指向性が無いってことは、そもそも、冒険者みたいな戦闘職には致命的じゃない!?」
「そこは、こう、兄の根性で…」
「すげぇな、アイツの根性。」
「根性の一言で片づけていいもんでも無いからね!?」
エルが「あり得ない」を連呼している。でも、妹としては、兄が「すげぇ」と称賛されるのは、実は、ちょっと、気分が良い─
「…ちなみに、兄は、全属性の魔法が使えます。」
「はっ!?」
「うっそ、でしょ…」
「本当です。攻撃魔法が使えないので、魔導師ではなく呪術師に成りましたが…」
「…」
「…」
絶句する二人を相手に、ちょっとだけ悦に入っていたら─
「お待たせ―、かんりょー、って、誰もこっち見てなくない!?」
「…兄さん、お疲れ様。いい仕事してますね?」
「いや!セリ、絶対、見てなかったよね!?三人でしゃべってたじゃん!?」
「そんなことは…」
いつまでも「ちゃんと見ててよ」と騒がしい兄、折角、エルとルキの中で上がったはずの兄評価は、早々に、落ち着くべきところに落ち着いた。
その後、三人がかりでなだめすかされた兄は、モンスターとの戦闘や宝箱の発見によって簡単に機嫌を直し、何とかその日の内に地下一階の調査を終えることが出来た。
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