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ダンジョン調査 ▶29話
#7 唯我独尊系自由人と良識ある自由人
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初めて足を踏み入れたダンジョンは、どこからどう見ても洞窟。階段を降って直ぐから分岐が続くせいか、他の冒険者の姿は段々減ってきているけれど─
「…居んな。そこの角、曲がった先に居る。」
「オーケー!って、これ、ひょっとして戦闘中?」
「だな。」
ルキが追跡で追ってくれた師匠の居場所、ルキが「居る」と言ったそこに近づくにつれて、剣劇の音と魔法の爆発音、それに、怒鳴り声が聞こえてきた。
「…うわ。何これ?既にボス戦?」
「…」
角を曲がった先、現れたのは広間のような空間。そこで、黎明の三人が一つ目の巨人、サイクロプスと戦っていた。
(…あれ?三人だけ…?)
肝心の師が居ない。周囲を見回すと、壁際に一人佇む師の姿があった。兄と二人で近づいていけば、
「…セリか。…シオンも。」
「あー、オヒサシブリデス…」
「…」
二人の間に、微妙な空気が流れる。
兄にはとても厳しかった師、兄は半ば飛び出すようにして師の元を離れたから、再会を手放しに喜べるような雰囲気ではない。それに─
「…セリに聞きました。ここで、ダンジョン研究するつもりなんですよね?迷惑なんで、止めて下さい。」
「迷惑?誰にだ?誰にも関わるつもりはないが?」
「人に関わらなくても!ここであんたがやらかすと、色々、周りが迷惑こうむるんですよ!」
「…言いがかりだな。」
「っ!前科があんでしょーが!?あんたは!」
さっきから、師を「あんたあんた」連呼している兄、かなりヒートアップしている。クールダウンさせるつもりで、口を挟んだ。
「…師匠、あの、本当に、ここで調査とか実験とかしないで下さい。私達、今、このダンジョンを管理している冒険者ギルドに所属しているんです。」
「…」
「師匠にダンジョン壊されると非常に困るんです。だから、」
「壊す?何を言っているのかわからんが、私は私の研究をするだけだ。」
「…」
(…やっぱり、無理、か。)
師の知的探求心は控えめに言って、異常。研究バカ、寝食を忘れて研究にのめり込み、その気はなくても研究対象に壊滅的な打撃を与えることもある。その結果、他との軋轢を生んだとしても、本人は一向に気にしないのがまた厄介なところで─
「…あの、ところで師匠。師匠は、ここに立って何を?」
何とか、師匠をダンジョンから引き離す方法を考えていたのだけれど、さっきから、上手く集中出来ない。思わず聞いてしまったのは、背後でずっと続いている激しい戦闘音のせい。私と兄はともかく、師までがそれをガン無視している。
「?待機中だが?」
「待機?…あの、あちらの戦闘には参加されないんですか?」
「私はポーターだからな。」
「え?」
「魔法契約でそうなっている。私の役目は彼らの荷を運ぶこと、戦闘は無関係だ。」
「…」
(確かに、そう言ってたけど…)
それにしても、あちらではかなり激しい─正直、かなり苦戦している─戦いが行われているのに、師が参戦しない─?
それは、かなり、
「…師匠の無駄遣い。」
「…」
隣で、兄が思わずといった風に頷いている。頷いてから、ハッとしたように顔を上げた。
「魔法契約っ!そっか!」
「?」
「いや、オッケー!イケる!多分、大丈夫!セリ、戻ろう!」
「?でも、」
「いいから!ほら、おいで!」
「…」
突然、陽気を取り戻した兄。ルキ達の元に戻ろうとする背中についていこうとすれば、
「…セリ、シオン。」
「はい…?」
師に名前を呼ばれて、振り向く。
「…私に何かを望むなら、力で従わせてみせなさい。」
「…」
「シオンも…、流石に、少しくらいは成長しているんだろう?」
「っ!」
師が片眉を上げ、揶揄するような言葉を兄に向ける。それに、悔しそうに顔を歪めた兄は、だけど、何も言わずに再び背を向けた。そのまま、振り返りもせずに、ルキ達の元へと足早に向かう。
「…居んな。そこの角、曲がった先に居る。」
「オーケー!って、これ、ひょっとして戦闘中?」
「だな。」
ルキが追跡で追ってくれた師匠の居場所、ルキが「居る」と言ったそこに近づくにつれて、剣劇の音と魔法の爆発音、それに、怒鳴り声が聞こえてきた。
「…うわ。何これ?既にボス戦?」
「…」
角を曲がった先、現れたのは広間のような空間。そこで、黎明の三人が一つ目の巨人、サイクロプスと戦っていた。
(…あれ?三人だけ…?)
肝心の師が居ない。周囲を見回すと、壁際に一人佇む師の姿があった。兄と二人で近づいていけば、
「…セリか。…シオンも。」
「あー、オヒサシブリデス…」
「…」
二人の間に、微妙な空気が流れる。
兄にはとても厳しかった師、兄は半ば飛び出すようにして師の元を離れたから、再会を手放しに喜べるような雰囲気ではない。それに─
「…セリに聞きました。ここで、ダンジョン研究するつもりなんですよね?迷惑なんで、止めて下さい。」
「迷惑?誰にだ?誰にも関わるつもりはないが?」
「人に関わらなくても!ここであんたがやらかすと、色々、周りが迷惑こうむるんですよ!」
「…言いがかりだな。」
「っ!前科があんでしょーが!?あんたは!」
さっきから、師を「あんたあんた」連呼している兄、かなりヒートアップしている。クールダウンさせるつもりで、口を挟んだ。
「…師匠、あの、本当に、ここで調査とか実験とかしないで下さい。私達、今、このダンジョンを管理している冒険者ギルドに所属しているんです。」
「…」
「師匠にダンジョン壊されると非常に困るんです。だから、」
「壊す?何を言っているのかわからんが、私は私の研究をするだけだ。」
「…」
(…やっぱり、無理、か。)
師の知的探求心は控えめに言って、異常。研究バカ、寝食を忘れて研究にのめり込み、その気はなくても研究対象に壊滅的な打撃を与えることもある。その結果、他との軋轢を生んだとしても、本人は一向に気にしないのがまた厄介なところで─
「…あの、ところで師匠。師匠は、ここに立って何を?」
何とか、師匠をダンジョンから引き離す方法を考えていたのだけれど、さっきから、上手く集中出来ない。思わず聞いてしまったのは、背後でずっと続いている激しい戦闘音のせい。私と兄はともかく、師までがそれをガン無視している。
「?待機中だが?」
「待機?…あの、あちらの戦闘には参加されないんですか?」
「私はポーターだからな。」
「え?」
「魔法契約でそうなっている。私の役目は彼らの荷を運ぶこと、戦闘は無関係だ。」
「…」
(確かに、そう言ってたけど…)
それにしても、あちらではかなり激しい─正直、かなり苦戦している─戦いが行われているのに、師が参戦しない─?
それは、かなり、
「…師匠の無駄遣い。」
「…」
隣で、兄が思わずといった風に頷いている。頷いてから、ハッとしたように顔を上げた。
「魔法契約っ!そっか!」
「?」
「いや、オッケー!イケる!多分、大丈夫!セリ、戻ろう!」
「?でも、」
「いいから!ほら、おいで!」
「…」
突然、陽気を取り戻した兄。ルキ達の元に戻ろうとする背中についていこうとすれば、
「…セリ、シオン。」
「はい…?」
師に名前を呼ばれて、振り向く。
「…私に何かを望むなら、力で従わせてみせなさい。」
「…」
「シオンも…、流石に、少しくらいは成長しているんだろう?」
「っ!」
師が片眉を上げ、揶揄するような言葉を兄に向ける。それに、悔しそうに顔を歪めた兄は、だけど、何も言わずに再び背を向けた。そのまま、振り返りもせずに、ルキ達の元へと足早に向かう。
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