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ダンジョン調査 ▶29話
#6 師との再会=ダンジョン崩壊の序曲
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ダンジョン調査初日、一部パーティのダンジョン入場解禁日でもあるその日、マドンの滝には、多くの冒険者が集まっていた。
現場に足を踏み入れたのは初めて、ダンジョンへの入場を容易にするためか、マドンの滝が真っ二つに分離工事済みだったことにも驚いたけれど、それよりも、何よりも─
「…兄さん、幻覚かな?あそこに、師匠の姿が見える…」
「セリ、残念だが、俺にも同じものが見えてる。」
「…」
冒険者達のうち、見たことのある三人パーティと一緒に立つ長身の男性。白金色の髪を腰の辺りまで垂らし、翡翠の瞳はどこか遠くを見つめる。その中性的な美しさで、この場にいる数少ない女性と、少なくない数の男性の視線を釘付けにしてしまっているその姿は、見間違いようもなく─
「…私、一応、挨拶に行ってくる。」
「うん、頑張れ。俺は先にエル達と合流してる。」
「…」
関わる気ゼロの兄を置いて、師の元へと向かった。近づくこちらに気づいた師が顔を向けるのと同時、何故か師と一緒に居る「何とかの星」の三人にもこちらを認識されてしまった。その三人に、軽く頭を下げてから、
「…師匠、お久し振りです。」
「セリか。…息災か?」
「はい、お陰様で。あの、師匠はこちらで一体、何を?」
「…私は、彼らとダンジョンに入る。彼らの荷物持ちだ。」
「…ポーター?」
あまりの衝撃に、一瞬、私の知らないポーターという職業があるのかと思ってしまった。でも、
「その…、師匠は、彼らの荷物運びを担当する、ということですか?」
「そうだ。」
あっさり頷かれて、今度こそ言葉を失った。その隙を突かれ、三人組の一人、女魔導師が目の前に迫ってきて─
「こんにちはぁ、セリ君?」
「…どうも。」
「セリ君って、ミゲルさんのお弟子さんだったの?世間って狭いのねぇ?ビックリしちゃった!」
「…」
ミゲルというのは、師の偽名の一つ。師が、素性を偽ってまで彼らと一緒に居ることに益々不安が募る。いつの間にか、女魔導師に絡み付かれていた腕を、乱暴に振り払って、
「なぜ、師匠があなた達と…?」
「ふふっ。気になる?」
「…」
「あーん、もう!セリ君ったら、そんな顔しないで?ミゲルさんはねぇ、私の師匠の師匠のお知り合いなの。それで、どーしても、新発見のダンジョンに潜りたいって言うから、うちのパーティに入れてあげたんだよ?」
再び絡み付いてこようとする女魔導師を避けながら聞いた彼女の話に、不安が確信に変わった。
「師匠、まさか、また…」
「ああ。ダンジョン全体の観測がメインではあるが、コアの調査も行う予定だ。」
「っ!?」
返って来た返事に血の気が引く。
(どうしよう…)
一瞬、迷ったけれど、
「っ!」
「あ!セリ君!?」
戦略的撤退。私一人の力で師匠を止めるなんて無理。急いで、兄の元へと駆け戻った。エルとルキ、それからイグナーツさんと話をしていた兄が、慌てるこちらを心配そうな顔で出迎えてくれて、
「なに?セリ、どうしたの?あの人、なんでここに、」
「師匠、星の人達とダンジョンに潜るって…」
「星?ああ、黎明の星の子達と?…え?なんで?」
「『コアの調査』…」
「…」
兄が固まった。それから、師匠の方を確かめて、隣でハテナ顔をしてるイグナーツさんを確かめて─
「…ちょっと、俺、あの人に一言言ってくる、」
意を決して、歩き出そうとしたところを、
「あー、待って待って、シオン君。もう、ダンジョン開ける時間だから、皆、移動しちゃうよ?君らも、出遅れないようにしないと。」
「っ!?」
引き止められたイグナーツさんの言葉通り、ダンジョンが開放されたのか、冒険者の波が動き出した。当然、その流れには、師匠の姿もあって、
「セリ!追っかけよう!」
「うん。」
「え?おい、セリ?シオン?」
「ごめん、エル!ルキ!付き合って!」
「えー、うん、まぁ、何か面白そうだからいいけど?」
「…あいつらに、追跡かけりゃいいのか?」
慌しい出発、駆けだした兄が、見送ってくれるイグナーツさんを振り返り─
「イグナーツさん!今日、戻ったら、話あるんで!」
「ああ、うん?了解した。気を付けて、」
「大丈夫です!ダンジョンは、絶対、俺らが守ってみせます!」
「えっ!?シオン君っ!?何それ!どういう意味!?」
イグナーツさんの叫びを背中で聞きながら、速度強化をかけた兄の後を追った。
現場に足を踏み入れたのは初めて、ダンジョンへの入場を容易にするためか、マドンの滝が真っ二つに分離工事済みだったことにも驚いたけれど、それよりも、何よりも─
「…兄さん、幻覚かな?あそこに、師匠の姿が見える…」
「セリ、残念だが、俺にも同じものが見えてる。」
「…」
冒険者達のうち、見たことのある三人パーティと一緒に立つ長身の男性。白金色の髪を腰の辺りまで垂らし、翡翠の瞳はどこか遠くを見つめる。その中性的な美しさで、この場にいる数少ない女性と、少なくない数の男性の視線を釘付けにしてしまっているその姿は、見間違いようもなく─
「…私、一応、挨拶に行ってくる。」
「うん、頑張れ。俺は先にエル達と合流してる。」
「…」
関わる気ゼロの兄を置いて、師の元へと向かった。近づくこちらに気づいた師が顔を向けるのと同時、何故か師と一緒に居る「何とかの星」の三人にもこちらを認識されてしまった。その三人に、軽く頭を下げてから、
「…師匠、お久し振りです。」
「セリか。…息災か?」
「はい、お陰様で。あの、師匠はこちらで一体、何を?」
「…私は、彼らとダンジョンに入る。彼らの荷物持ちだ。」
「…ポーター?」
あまりの衝撃に、一瞬、私の知らないポーターという職業があるのかと思ってしまった。でも、
「その…、師匠は、彼らの荷物運びを担当する、ということですか?」
「そうだ。」
あっさり頷かれて、今度こそ言葉を失った。その隙を突かれ、三人組の一人、女魔導師が目の前に迫ってきて─
「こんにちはぁ、セリ君?」
「…どうも。」
「セリ君って、ミゲルさんのお弟子さんだったの?世間って狭いのねぇ?ビックリしちゃった!」
「…」
ミゲルというのは、師の偽名の一つ。師が、素性を偽ってまで彼らと一緒に居ることに益々不安が募る。いつの間にか、女魔導師に絡み付かれていた腕を、乱暴に振り払って、
「なぜ、師匠があなた達と…?」
「ふふっ。気になる?」
「…」
「あーん、もう!セリ君ったら、そんな顔しないで?ミゲルさんはねぇ、私の師匠の師匠のお知り合いなの。それで、どーしても、新発見のダンジョンに潜りたいって言うから、うちのパーティに入れてあげたんだよ?」
再び絡み付いてこようとする女魔導師を避けながら聞いた彼女の話に、不安が確信に変わった。
「師匠、まさか、また…」
「ああ。ダンジョン全体の観測がメインではあるが、コアの調査も行う予定だ。」
「っ!?」
返って来た返事に血の気が引く。
(どうしよう…)
一瞬、迷ったけれど、
「っ!」
「あ!セリ君!?」
戦略的撤退。私一人の力で師匠を止めるなんて無理。急いで、兄の元へと駆け戻った。エルとルキ、それからイグナーツさんと話をしていた兄が、慌てるこちらを心配そうな顔で出迎えてくれて、
「なに?セリ、どうしたの?あの人、なんでここに、」
「師匠、星の人達とダンジョンに潜るって…」
「星?ああ、黎明の星の子達と?…え?なんで?」
「『コアの調査』…」
「…」
兄が固まった。それから、師匠の方を確かめて、隣でハテナ顔をしてるイグナーツさんを確かめて─
「…ちょっと、俺、あの人に一言言ってくる、」
意を決して、歩き出そうとしたところを、
「あー、待って待って、シオン君。もう、ダンジョン開ける時間だから、皆、移動しちゃうよ?君らも、出遅れないようにしないと。」
「っ!?」
引き止められたイグナーツさんの言葉通り、ダンジョンが開放されたのか、冒険者の波が動き出した。当然、その流れには、師匠の姿もあって、
「セリ!追っかけよう!」
「うん。」
「え?おい、セリ?シオン?」
「ごめん、エル!ルキ!付き合って!」
「えー、うん、まぁ、何か面白そうだからいいけど?」
「…あいつらに、追跡かけりゃいいのか?」
慌しい出発、駆けだした兄が、見送ってくれるイグナーツさんを振り返り─
「イグナーツさん!今日、戻ったら、話あるんで!」
「ああ、うん?了解した。気を付けて、」
「大丈夫です!ダンジョンは、絶対、俺らが守ってみせます!」
「えっ!?シオン君っ!?何それ!どういう意味!?」
イグナーツさんの叫びを背中で聞きながら、速度強化をかけた兄の後を追った。
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