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ダンジョン調査 ▶29話

#2 地下ダンジョン、それはつまり、洞窟、ですよね…?

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「あのー、ちなみになんですけど…」

イグナーツさんの依頼という名の強要に、兄が果敢に立ち向かおうとしている。

「そのダンジョンが発生したのって、正確には、いつ頃だったんですか?」

確かに気になるけど、そこは突いて大丈夫なの?と思ってしまう兄の質問に、イグナーツさんが首をかしげる。

「さあ?いつだろう?」

「え!?」

「うーん、正確な時期は不明だね。だって、ダンジョンがいつ発生したのかなんて、ずっと見てたわけでもないんだから分からないでしょう?」

「…」

「あ、ちなみに、ダンジョンの報告があったのは、五日前かな?」

「っ!?」

「やだーっ!」

あからさまに怪しい日付を、悪びれもせずシレッと答えるイグナーツさん。兄だけじゃなく、エルまで悲鳴を上げている。

(…五日前、ルキがS級に合格した二日後…)

どう考えても─

「もう、やだー!やってる!この人、絶対やってるよー!」

「やってるって、失礼だなぁ、エル君は。僕が何をやってるって言うの?」

「発見報告から五日で、そんな手際よく本部から調査権奪えるわけないじゃーん!仕込んでた!この人、絶対、仕込んでたからー!」

「そう言われても、困るなー。僕は報告が上がって来た時点で、速やかに為すべき対応をしたよ?…まぁ、報告が上がるまでに若干の、」

「聞きたくない!そういうギルドの内情とか!知りたくないから!」

エルの必死の抵抗。私も聞きたくなくて、エルに同調する。

「…そう?知りたくない?じゃあ、うん、そういう裏方のことは、僕らの方に任せておいて。で、どうだろう?調査の方は受けてもらえるかな?」

「…」

イグナーツさんが話の冒頭で、「拒否権は無い」と言っていたけれど、話を聞いた後では、確かに、拒否権はあって無いようなものだと思う。

(…多分、イグナーツさんのことだから、色々、もう動いてるはず。)

調査も、その後の運営に関しても。

そうなると、前世日本人、「いい奴」代表みたいな兄に、この依頼を断れるはずもなく─

「…分かりました。受けます、その依頼。」

(…やっぱり。)

腰が引けまくりの承諾ではあったけれど、兄の口から「イエス」の返事が出てしまった。ルキとエルも、それに異議を唱えることはしない。

(多分、二人も、ダンジョン調査自体はやってみたいんだろうな…)

だから、ここで私が反対することは出来ない。

ダンジョン調査に関して、ちょっと、どころか、凄く大きな不安を抱えているとしても─

(…どうしよう。)

イグナーツさんが、調査依頼に関する具体的な内容─マッピングやダンジョンコアの保護に関する説明─を話し始めた横で、内心、頭を抱える。

「ああ、そうだ。それから、あと一つ、留意しておいて欲しいことがあるんだった。」

「…何?重要な話を後出ししないで欲しいんだけど?」

「はは。そんなに警戒しないでよ。当然、君らなら問題無いと思っているよ?」

エルの不機嫌を、イグナーツさんが一蹴した。

「三日後、君らの調査開始に合わせて、ロカール所属のC級以上のパーティに対して、ダンジョン入場を解禁する予定なんだ。それを頭の片隅にでも入れておいて欲しい。」

「…調査と同時に探索開始させちゃうってこと?」

「うん。うちの支部でのダンジョン独占が許可されているのが三カ月しかなくて。君達の調査にひと月半かかるとして、残りのひと月半だけじゃあ、あまりにうまみが少ないんだよね。」

「…」

「C級以上のパーティであれば、功を焦ることなく、上層階の探索を適度に進めてくれるはずだから。勿論、探索に際しては、自己責任を誓約させるし、当然、君達が他のパーティに後れを取ることなんて無いでしょう?」

「…」

「君達は君達で調査を進めてくれればいいだけ、何も問題は無いよね?」

最後、プレッシャーのようにして言われたイグナーツさんの言葉に、エルの綺麗な顔が、思いっきり歪んでいた。








依頼の受注契約を結んだところで、調査用の魔道具の貸し出しのため、一階窓口へと移動し、イグナーツさんに説明を受け始めた兄。その背中を眺めながら、小声で、隣に立つルキとエルに尋ねてみる。

「…ルキとエルは、ダンジョンに入ったことありますか?」

「あるよー。聖騎士団に居た頃に、神殿ダンジョンに何回か調査で行ったことある。」

「俺も。…あるにはあるけど、海底ダンジョンで特殊だったからな。今回みたいな地上の、てか、地下か?地下ダンジョンに潜ったことはねぇな。」

「それで言うなら、僕だって、新規ダンジョンに潜るのは始めてだよ?」

「だよなー。まさか、人生で、未踏破ダンジョンに挑むことになるとは思わなかったわ。」

「まぁね。あの人のやり方はどうかと思うけど、…楽しみではあるよね。」

やっぱり、かなり嬉しそう。二人がウキウキしているのが伝わってくる。そこに水を差すことも出来ず、どうしたものかと困り果てていたところで、背後から名前を呼ばれた。

「…セリ君。」

「!ザーラさん!」

振り返った先で、ニッコリ笑って「帰還報告終わったの?」と聞いてくるザーラさんが、女神に見えた。

「あの、ザーラさん!ザーラさんは、ダンジョン入った経験ってありますか?」

「ええ、地下ダンジョンなら、何度か、」

「ザーラさん、お話が!ご相談があります!お時間少し頂けませんか!?」

「?…ええ、構わないけど…」

ザーラさんが困惑しているのが申し訳ない。でも、こちらも切羽つまっていた。

「あの、じゃあ、どこかで、二人で…」

「…うちに来る?」

「行きます!」

お誘いに、瞬時に飛びついた。

(三日しかない。それまでに何か、何とか対策を…)

隣で戸惑っているエルとルキをフォローする余裕もなくて─

「エル、ルキ、すみません。先に帰ります。」

「え、ちょっと、セリちゃん、」

「兄にも、先に帰ると伝えておいて下さい。」

「セリ、」

「ルキ、また明日。」

強引に別れの言葉を告げて、ザーラさんの背を押す勢いでギルドを後にした。




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