【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン

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S級試験 ▶34話

#27 【お詫び】この度は…

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「兄さん、こっちのお肉、食べてみる?柔らかくて美味しいよ?」

「…」

「あ、私が切るね?」

「…」

「キャセロールも食べる?よそおうか?」

「…」

「あ!飲み物!お代わりする?同じのでいい?」

「…」

背後を振り返り、店内を見回して、店員さんを呼ぶ。

「すみませーん!」

こちらに気づいて注文を取りに来てくれた店員さんに、追加の飲み物を注文してから、向かいの席の兄を見る。

(…うん、まだ、目が据わってる。)

絶賛、可愛い妹キャンペーン実施中だというのに、なかなか兄の機嫌が治らない。

(まぁ、流石に、今回は私が悪かったから…)

ザーラさんに性別気づかれていたこと、エルには恋バナついでに報告したのに、兄に伝えることはすっかり忘れていた。

(でも、だって、あまりその必要性を感じなかったというか…)

そう、心の中で言い訳して。でも、これは絶対、口にしちゃいけないやつだと思うので、ひたすらに謝った後は、兄のご機嫌取りに専念している。

四人でランチに入ったカフェテラスで、兄の好きそうなものを並べて、昼間からお酒も飲ませて、なのに─

「…シオン、そろそろ許してあげたら?セリちゃんだって悪気は、」

「悪気が無いから質が悪いんでしょ!俺、お兄ちゃんだよ?なんで、エルが知ってて、俺が知らされてないの!?」

「えー…、面倒くさい。」

仲裁に入ろうとしてくれたエルが、一瞬でその役目を放棄した。

(…申し訳ない。)

流石に、本日二度目ともなると、エルも本気にはなれないらしい。未だプリプリ怒っている─でも、しっかりご飯は食べてる─兄を、暫く放置して、様子を見ようかな?と思ったところで、

「…シオン君は、セリ君のこと、とっても大事にしてるのね?だから、凄く心配しちゃうのかしら?」

「…」

微笑ましい、みたいなザーラさんの視線と言葉に晒されて、一瞬、「うっ」となった。

(気恥ずかしい…)

兄も、微妙な顔になっている。それに、エルが追い打ちをかけるようにして、

「シオンはシスコンだからねー☆」

「違うから…、そんなんじゃないから…」

揶揄う言葉を、兄が直ぐさま否定する。私も、隣でうんうん頷いて、

「兄は、どちらかと言うと、マザコン、」

「セリさんっ!?」

「?」

兄の、悲鳴のような声に驚いた。

「え?兄さん、ひょっとして自覚なかったの?だって、」

「セリセリセリ!?何言ってんの?お前、ホント、何言っちゃってくれてんの!?身内の言葉がどんだけ重いか分かってる!?」

兄が、「驚愕」みたいな顔してくるけど、私の方が驚きだ。マザコンを自覚して、むしろ、誇りに思ってるくらいだと思ってたのに。

「…だって、兄さん、母さんに、私のこと頼むって言われたから、ずっと私の面倒見てくれてるでしょう?」

「っ!?マザーって、そっちのマザー!?」

「?」

兄の意味不明な言葉に、一瞬、戸惑ったけれど、

「あ…」

直ぐに、兄の言いたいことが分かった。

「…うん、そっちのマザー。…兄さん、大好きだったよね?」

「…」

兄の言う「そっち」は、前世の母親のこと。シングルマザーで私と兄を育てた母は、口癖のように、「サヤカを頼む」と兄に言っていた。私に向かっては、「お兄ちゃんをよろしく」と。

私も、母が大好きだった。

(…懐かしいな。)

母親と聞いて、私が思い浮かべるのは前世の母親の姿だけ。バリバリ働きながらも、家族との時間や自分の趣味やお洒落、何でも楽しんでいた人。長く伸ばした真っ直ぐな髪と、綺麗にネイルされた指先─

「…ザーラさんと母さん、ちょっとだけ似てない?」

「…」

何となく浮かんだ思い、兄に同意を求めれば、兄が増々、微妙な顔になった。

「…いや、まぁ、似てる似てないはともかく、『母親に似てる』とか言われたら、ザーラさん、嫌だろ。母親とか、おばさんだぞ、おばさん。」

「あ…」

そこまでは考えていなかった。焦って、ザーラさんに言い訳の言葉を並べる。

「ごめんなさい、あの、似てるのは雰囲気とか、そういうことで、見た目…、年齢的なことは、勿論、別で、ザーラさんの方がずっと…」

自分でも、何言ってるんだ?に成りかけたところで、ザーラさんが「ふふ」っと笑ってくれた。

「気にしないで?むしろ、光栄だわ。二人のお母様に似てるんでしょう?」

「はい…」

「…きっと、素敵な方だったのね?」

「…」

以前、師のもとに身を寄せることになった経緯を話した際、両親を亡くしたことにも触れたから、ザーラさんは母が故人だということを知っている。正確には、それは、現世での両親のことではあるけれど─

「自慢の、大好きな母でした…」

「…じゃあやっぱり、凄く光栄。ね?」

ザーラさんの笑みに釣られて笑う。

横から、呆れたようなエルの声。

「あーあ、すっかりなついちゃって…」

それは私のことかと確かめる意味でエルを振り向けば、

「セリちゃんって、何やかんやで、年上に可愛がられてるよねー。」

「…」

「シオン以外に、ルキやらザーラさんやら、お兄ちゃんお姉ちゃんがいっぱい☆」

「…私の兄は、兄だけです。」

「ふーん?でも、大好きなんでしょ?ルキのことも、ザーラさんのことも☆」

「…」

否定は出来ないけれど、素直に「うん」と頷くと、余計に揶揄われそうで黙り込む。

「それで?どっちが本命?」

「本命…?」

「そ☆セリちゃんは、ルキとザーラさん、どっちが好きなの?」

「…」

(…結局、揶揄われてる。)

分かってはいるけど、エルのニヤニヤ笑いに反抗心がムクムクと湧き上がってきた。それでも、

(『ルキが好き』)

そう言い切る勇気はなくて、せめてもの抵抗─

「…私は、異性愛者です。」

つい先日も口にした台詞、虚勢を張り切れずに目を逸らす。

(恥ずかしい…)

兄やザーラさんの前で何を言わすんだと思いながら、爆笑し出したエルを睨んでおいた。




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