【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン

文字の大きさ
上 下
58 / 174
S級試験 ▶34話

#6 そんな変化も気に入っている(ルキ視点)

しおりを挟む
カッシュの言葉に、一瞬で色んな思いが渦巻いた。

あの頃の、何が正解なのかも分からずに、取る選択、全てが間違ってる気がして、追い詰められて、結局、「だったら、もういいい」と、何より大切だったはずのものを手放した時の喪失感。手放した後も、「どうすりゃ良かった?」と後悔し続けて、「戻れるものなら」と何度も願った。

願った思いに停滞していた自分が、セリ達との出会いにまた一歩踏み出して、それでやっとここまで―

「…勝手、過ぎんだろうが。」

「…すまん。…俺が、間違ってた。」

「…」

カッシュの言葉は、あの時ずっと望んでいたもの。「悪かった」と、「やり直そう」と、どれだけこじれようと、また、一緒にやっていけるんじゃないかと―

「…帰ってきてくんねぇか?」

「…」

「言ったようにさ、腹に子どもいるから、リリーが冒険者辞めたがってんだ。…俺とミランダだけじゃやってけねぇし、お前が帰ってきてくれりゃあ…」

「…新しいメンバーは?俺が抜けた後、入れなかったのか?」

「ああ、まぁ、一応、何人か試しで組んではみたけどな…」

「…」

「上手くいかなかった」と言うカッシュに対して浮かんだのは、「ほら、見たことか」という思い。当時も、自分以上にカッシュ達と上手くやっていける人間がいるとは思えなかったし、実際、そう口にもした。それでも、自分を切り捨てる選択をしたのは、目の前の男自身。

「…戻るつもりはねぇよ。」

「…どうすりゃ、戻ってきてくれる?お前が戻ってきてくれんなら、いくらでも頭下げる。」

「んなもん、」

「後悔してんだよ、ずっと。」

「…」

「お前が出てった後から、ずっと。…まだ、お前とリリーのこと疑ってた時も、お前を追い出したのは間違いだったんじゃねぇかって。何か、他にもっとやりようあったはずだろ?って…」

ジッと、握りしめたままのジョッキを見ながら思いを吐露するカッシュの姿には、確かに悔恨の念が見えた。自分と同じ、こいつも色々悩んで、自分が馬鹿やったって思ってんなら、それはもう、それでいいかと思えて―

「はー、もう、いいや。」

「…」

「なんか、めんどくせぇってか、お前の気持ちは分かったからさ、もういい、謝んな。別に、今更謝られてもなってのも、正直あるし。」

「ルキ、」

「許せってんなら、お前がやったことは許す。勝手に人のこと疑って、俺を切り捨てたことはな?けど、どう考えても、今更、パーティに戻るって選択肢はねぇよ。」

「…」

「俺は俺で今のパーティが気に入ってるし、上手くやってる。抜けたいとは全く思わねぇくらい満足してる。」

「…それは、俺らと組んでた時よりもか?」

「はぁっ?」

気持ちの悪いことを言ってくるカッシュに、自然に、眉間に力が入る。

「やめろ、ウゼェこと言うな。」

「…」

「んなもん、お前らと組んでた時は、それが最高だと思ってたからお前らと組んでたんだろうが。」

「…」

「けど、今の俺はアイツらと組んでんのが最高に楽しい。別に、お前らと比べるとかじゃなくな?」

「…ああ。」

「てか、なに言わせんだよ、俺、今、クッソ恥ずかしいこと言わされてんじゃねぇ?」

「お前が勝手に言ってんだろ?」

「うっせ。」

また、黙って酒を飲み始めたカッシュの横顔に、小さく嘆息して、

「まぁ、お前が頭下げてまで誘ってくれたこと自体は、まぁ、アレだけどさ…」

「何だよ、あれって。」

「察しろ。…けどさ、お前が思ってるほど、今のパーティだって緩くはねぇんだよ。実際、うちのパーティA級だからな?S級試験受けに来てんだから、分かんだろ。」

「…だな。」

「だから、まぁ、俺はうちのメンバーとS級冒険者を目指す。お前はお前で、ミランダ達とS級目指しゃいい。…そこは、なんも変わんねぇだろ?」

「…変わんねぇ、か?」

「変わんねぇよ。目指してるもんは。」

「…」

黙ったカッシュに付き合って、最後の一杯を飲み干す。ジョッキが開いたタイミングで、腰を上げた。

「んじゃ、俺、帰るわ。明日あるしな。」

「ああ…」

「明日も会うかもしんねぇけど、向こう帰るまでに時間会えば、もう一回くらい飲みいこうぜ?」

「…ルキ、お前さ、試験受かったらどうすんだ?」

「あ?」

「S級、受かっても帰んの?ロカールに。」

「ああ、まぁ、本気で受かるか分かんねぇけど、どっちにしろロカールには帰る。」

「…そっか。」

カッシュの呟きにうなずいて、背を向ける。歩き出そうとしたところで、聞こえた声に振り向いた。

「ルキ、お前、俺らが去年試験に落ちたこと、知ってたか?」

「…」

一拍だけ、間が開いた。問いに対する答えが、過去に対する未練のような気がして―

「…知ってた。」

「そっか…」

今度こそ、背を向けて歩き出す。店を出て、宿へと向かう足取りが自然と早くなっていった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

処理中です...