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S級試験 ▶34話
#6 そんな変化も気に入っている(ルキ視点)
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カッシュの言葉に、一瞬で色んな思いが渦巻いた。
あの頃の、何が正解なのかも分からずに、取る選択、全てが間違ってる気がして、追い詰められて、結局、「だったら、もういいい」と、何より大切だったはずのものを手放した時の喪失感。手放した後も、「どうすりゃ良かった?」と後悔し続けて、「戻れるものなら」と何度も願った。
願った思いに停滞していた自分が、セリ達との出会いにまた一歩踏み出して、それでやっとここまで―
「…勝手、過ぎんだろうが。」
「…すまん。…俺が、間違ってた。」
「…」
カッシュの言葉は、あの時ずっと望んでいたもの。「悪かった」と、「やり直そう」と、どれだけこじれようと、また、一緒にやっていけるんじゃないかと―
「…帰ってきてくんねぇか?」
「…」
「言ったようにさ、腹に子どもいるから、リリーが冒険者辞めたがってんだ。…俺とミランダだけじゃやってけねぇし、お前が帰ってきてくれりゃあ…」
「…新しいメンバーは?俺が抜けた後、入れなかったのか?」
「ああ、まぁ、一応、何人か試しで組んではみたけどな…」
「…」
「上手くいかなかった」と言うカッシュに対して浮かんだのは、「ほら、見たことか」という思い。当時も、自分以上にカッシュ達と上手くやっていける人間がいるとは思えなかったし、実際、そう口にもした。それでも、自分を切り捨てる選択をしたのは、目の前の男自身。
「…戻るつもりはねぇよ。」
「…どうすりゃ、戻ってきてくれる?お前が戻ってきてくれんなら、いくらでも頭下げる。」
「んなもん、」
「後悔してんだよ、ずっと。」
「…」
「お前が出てった後から、ずっと。…まだ、お前とリリーのこと疑ってた時も、お前を追い出したのは間違いだったんじゃねぇかって。何か、他にもっとやりようあったはずだろ?って…」
ジッと、握りしめたままのジョッキを見ながら思いを吐露するカッシュの姿には、確かに悔恨の念が見えた。自分と同じ、こいつも色々悩んで、自分が馬鹿やったって思ってんなら、それはもう、それでいいかと思えて―
「はー、もう、いいや。」
「…」
「なんか、めんどくせぇってか、お前の気持ちは分かったからさ、もういい、謝んな。別に、今更謝られてもなってのも、正直あるし。」
「ルキ、」
「許せってんなら、お前がやったことは許す。勝手に人のこと疑って、俺を切り捨てたことはな?けど、どう考えても、今更、パーティに戻るって選択肢はねぇよ。」
「…」
「俺は俺で今のパーティが気に入ってるし、上手くやってる。抜けたいとは全く思わねぇくらい満足してる。」
「…それは、俺らと組んでた時よりもか?」
「はぁっ?」
気持ちの悪いことを言ってくるカッシュに、自然に、眉間に力が入る。
「やめろ、ウゼェこと言うな。」
「…」
「んなもん、お前らと組んでた時は、それが最高だと思ってたからお前らと組んでたんだろうが。」
「…」
「けど、今の俺はアイツらと組んでんのが最高に楽しい。別に、お前らと比べるとかじゃなくな?」
「…ああ。」
「てか、なに言わせんだよ、俺、今、クッソ恥ずかしいこと言わされてんじゃねぇ?」
「お前が勝手に言ってんだろ?」
「うっせ。」
また、黙って酒を飲み始めたカッシュの横顔に、小さく嘆息して、
「まぁ、お前が頭下げてまで誘ってくれたこと自体は、まぁ、アレだけどさ…」
「何だよ、あれって。」
「察しろ。…けどさ、お前が思ってるほど、今のパーティだって緩くはねぇんだよ。実際、うちのパーティA級だからな?S級試験受けに来てんだから、分かんだろ。」
「…だな。」
「だから、まぁ、俺はうちのメンバーとS級冒険者を目指す。お前はお前で、ミランダ達とS級目指しゃいい。…そこは、なんも変わんねぇだろ?」
「…変わんねぇ、か?」
「変わんねぇよ。目指してるもんは。」
「…」
黙ったカッシュに付き合って、最後の一杯を飲み干す。ジョッキが開いたタイミングで、腰を上げた。
「んじゃ、俺、帰るわ。明日あるしな。」
「ああ…」
「明日も会うかもしんねぇけど、向こう帰るまでに時間会えば、もう一回くらい飲みいこうぜ?」
「…ルキ、お前さ、試験受かったらどうすんだ?」
「あ?」
「S級、受かっても帰んの?ロカールに。」
「ああ、まぁ、本気で受かるか分かんねぇけど、どっちにしろロカールには帰る。」
「…そっか。」
カッシュの呟きにうなずいて、背を向ける。歩き出そうとしたところで、聞こえた声に振り向いた。
「ルキ、お前、俺らが去年試験に落ちたこと、知ってたか?」
「…」
一拍だけ、間が開いた。問いに対する答えが、過去に対する未練のような気がして―
「…知ってた。」
「そっか…」
今度こそ、背を向けて歩き出す。店を出て、宿へと向かう足取りが自然と早くなっていった。
あの頃の、何が正解なのかも分からずに、取る選択、全てが間違ってる気がして、追い詰められて、結局、「だったら、もういいい」と、何より大切だったはずのものを手放した時の喪失感。手放した後も、「どうすりゃ良かった?」と後悔し続けて、「戻れるものなら」と何度も願った。
願った思いに停滞していた自分が、セリ達との出会いにまた一歩踏み出して、それでやっとここまで―
「…勝手、過ぎんだろうが。」
「…すまん。…俺が、間違ってた。」
「…」
カッシュの言葉は、あの時ずっと望んでいたもの。「悪かった」と、「やり直そう」と、どれだけこじれようと、また、一緒にやっていけるんじゃないかと―
「…帰ってきてくんねぇか?」
「…」
「言ったようにさ、腹に子どもいるから、リリーが冒険者辞めたがってんだ。…俺とミランダだけじゃやってけねぇし、お前が帰ってきてくれりゃあ…」
「…新しいメンバーは?俺が抜けた後、入れなかったのか?」
「ああ、まぁ、一応、何人か試しで組んではみたけどな…」
「…」
「上手くいかなかった」と言うカッシュに対して浮かんだのは、「ほら、見たことか」という思い。当時も、自分以上にカッシュ達と上手くやっていける人間がいるとは思えなかったし、実際、そう口にもした。それでも、自分を切り捨てる選択をしたのは、目の前の男自身。
「…戻るつもりはねぇよ。」
「…どうすりゃ、戻ってきてくれる?お前が戻ってきてくれんなら、いくらでも頭下げる。」
「んなもん、」
「後悔してんだよ、ずっと。」
「…」
「お前が出てった後から、ずっと。…まだ、お前とリリーのこと疑ってた時も、お前を追い出したのは間違いだったんじゃねぇかって。何か、他にもっとやりようあったはずだろ?って…」
ジッと、握りしめたままのジョッキを見ながら思いを吐露するカッシュの姿には、確かに悔恨の念が見えた。自分と同じ、こいつも色々悩んで、自分が馬鹿やったって思ってんなら、それはもう、それでいいかと思えて―
「はー、もう、いいや。」
「…」
「なんか、めんどくせぇってか、お前の気持ちは分かったからさ、もういい、謝んな。別に、今更謝られてもなってのも、正直あるし。」
「ルキ、」
「許せってんなら、お前がやったことは許す。勝手に人のこと疑って、俺を切り捨てたことはな?けど、どう考えても、今更、パーティに戻るって選択肢はねぇよ。」
「…」
「俺は俺で今のパーティが気に入ってるし、上手くやってる。抜けたいとは全く思わねぇくらい満足してる。」
「…それは、俺らと組んでた時よりもか?」
「はぁっ?」
気持ちの悪いことを言ってくるカッシュに、自然に、眉間に力が入る。
「やめろ、ウゼェこと言うな。」
「…」
「んなもん、お前らと組んでた時は、それが最高だと思ってたからお前らと組んでたんだろうが。」
「…」
「けど、今の俺はアイツらと組んでんのが最高に楽しい。別に、お前らと比べるとかじゃなくな?」
「…ああ。」
「てか、なに言わせんだよ、俺、今、クッソ恥ずかしいこと言わされてんじゃねぇ?」
「お前が勝手に言ってんだろ?」
「うっせ。」
また、黙って酒を飲み始めたカッシュの横顔に、小さく嘆息して、
「まぁ、お前が頭下げてまで誘ってくれたこと自体は、まぁ、アレだけどさ…」
「何だよ、あれって。」
「察しろ。…けどさ、お前が思ってるほど、今のパーティだって緩くはねぇんだよ。実際、うちのパーティA級だからな?S級試験受けに来てんだから、分かんだろ。」
「…だな。」
「だから、まぁ、俺はうちのメンバーとS級冒険者を目指す。お前はお前で、ミランダ達とS級目指しゃいい。…そこは、なんも変わんねぇだろ?」
「…変わんねぇ、か?」
「変わんねぇよ。目指してるもんは。」
「…」
黙ったカッシュに付き合って、最後の一杯を飲み干す。ジョッキが開いたタイミングで、腰を上げた。
「んじゃ、俺、帰るわ。明日あるしな。」
「ああ…」
「明日も会うかもしんねぇけど、向こう帰るまでに時間会えば、もう一回くらい飲みいこうぜ?」
「…ルキ、お前さ、試験受かったらどうすんだ?」
「あ?」
「S級、受かっても帰んの?ロカールに。」
「ああ、まぁ、本気で受かるか分かんねぇけど、どっちにしろロカールには帰る。」
「…そっか。」
カッシュの呟きにうなずいて、背を向ける。歩き出そうとしたところで、聞こえた声に振り向いた。
「ルキ、お前、俺らが去年試験に落ちたこと、知ってたか?」
「…」
一拍だけ、間が開いた。問いに対する答えが、過去に対する未練のような気がして―
「…知ってた。」
「そっか…」
今度こそ、背を向けて歩き出す。店を出て、宿へと向かう足取りが自然と早くなっていった。
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