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S級試験 ▶34話
#4 試験一日目、恐れていた再会
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静寂に包まれた試験会場に、ペン先が走る僅かな音と、時折、紙をめくる音が聞こえる。S級試験一日目、筆記試験は三つの部屋に別れて行われている。
(…難しい。)
思考問題はほとんど無し、純粋に知識を問われる問題の羅列に、早くも心が折れそうになっていた。見たことも聞いたことも無い現象や被害から、該当モンスターを回答する、或いは、提示されたモンスターの特徴を複数回答する試験内容。
(…知らないモンスターばっかり。)
爪痕すらも残せそうにない状況に、腹を括る。
(…とにかく、全部埋める。問題も、全部覚えて帰る。)
なけなしの集中力で問題に挑んだ。
「セリ、こっち。」
「ルキ?」
「おう。お疲れ。」
「…ルキも。」
散々な結果に終わった筆記試験、かなり凹んだままの足取りでダラダラと試験会場から出ようとしたところで、別部屋で試験を受けていたルキが待っていてくれた。
(…外で合流しようって、言っていたのに。)
「すみません、待たせてしまいまいしたか?」
「いや、こっち早く終わっただけ。セリんとこまだだったからさ、ここで待っとくことにした。」
「…ありがとうございます。」
「ん。…どうだった?」
「…」
試験の結果を聞いてくるルキの言葉に、俯く。
「…惨敗、でした。」
「そっか。」
「…」
ルキに、頭をグイっと撫でられた。
「ま、かなり難しかったしなぁ。…けど、明日の実技終わるまでは諦めんなよ?」
「…はい。」
「おし!んじゃ、昼飯食って帰ろうぜ。シオン達、好き勝手観光してるって言ってたからな、今日は二人で…」
「?」
不自然に途切れたルキの言葉。不思議に思って、目線を上げる。ルキが見ている方向、会場を後にする冒険者達の流れに逆らうようにして、こちらに向かってくる男の人が見えた。
(ああ…)
覚悟はしていた、居るだろうって思っていたから。記憶にあるのと、そう変わらない姿、かつて、ロカールで何度も目にした「その人」が近づいて来る。
ルキの視線が、彼から離れない─
「…よぉ、ルキ。」
「カッシュ…」
ルキと、よく似た雰囲気、同じくらいの長身。対峙する二人の間に、少しだけ、緊張が走る。
─大剣のカッシュ
かつての、ルキのパーティ仲間、暁星のリーダー剣士の姿に、恐怖に似た不安が込み上げてくる。
「…昨日、お前のこと見かけてさぁ。ソロでやってると思ってたからな。…まさか、ここで会うとは思ってなかった。」
「…ああ。」
「あー…、お前、この後、時間ある?」
「いや。」
ルキの視線がこちらを向く。それにつられてこちらを向いた男と目線が合って、一瞬でそらされた。
「んじゃ、夜、時間作れよ。久しぶりに飲もうぜ。」
「…」
「…お前に話したいこと、あるからさ。」
男の、怖いくらいに真剣な眼差しと声。隣に立つルキの口から「分かった」という言葉が聞こえるのを、どこか遠くに聞いていた。
(…難しい。)
思考問題はほとんど無し、純粋に知識を問われる問題の羅列に、早くも心が折れそうになっていた。見たことも聞いたことも無い現象や被害から、該当モンスターを回答する、或いは、提示されたモンスターの特徴を複数回答する試験内容。
(…知らないモンスターばっかり。)
爪痕すらも残せそうにない状況に、腹を括る。
(…とにかく、全部埋める。問題も、全部覚えて帰る。)
なけなしの集中力で問題に挑んだ。
「セリ、こっち。」
「ルキ?」
「おう。お疲れ。」
「…ルキも。」
散々な結果に終わった筆記試験、かなり凹んだままの足取りでダラダラと試験会場から出ようとしたところで、別部屋で試験を受けていたルキが待っていてくれた。
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「すみません、待たせてしまいまいしたか?」
「いや、こっち早く終わっただけ。セリんとこまだだったからさ、ここで待っとくことにした。」
「…ありがとうございます。」
「ん。…どうだった?」
「…」
試験の結果を聞いてくるルキの言葉に、俯く。
「…惨敗、でした。」
「そっか。」
「…」
ルキに、頭をグイっと撫でられた。
「ま、かなり難しかったしなぁ。…けど、明日の実技終わるまでは諦めんなよ?」
「…はい。」
「おし!んじゃ、昼飯食って帰ろうぜ。シオン達、好き勝手観光してるって言ってたからな、今日は二人で…」
「?」
不自然に途切れたルキの言葉。不思議に思って、目線を上げる。ルキが見ている方向、会場を後にする冒険者達の流れに逆らうようにして、こちらに向かってくる男の人が見えた。
(ああ…)
覚悟はしていた、居るだろうって思っていたから。記憶にあるのと、そう変わらない姿、かつて、ロカールで何度も目にした「その人」が近づいて来る。
ルキの視線が、彼から離れない─
「…よぉ、ルキ。」
「カッシュ…」
ルキと、よく似た雰囲気、同じくらいの長身。対峙する二人の間に、少しだけ、緊張が走る。
─大剣のカッシュ
かつての、ルキのパーティ仲間、暁星のリーダー剣士の姿に、恐怖に似た不安が込み上げてくる。
「…昨日、お前のこと見かけてさぁ。ソロでやってると思ってたからな。…まさか、ここで会うとは思ってなかった。」
「…ああ。」
「あー…、お前、この後、時間ある?」
「いや。」
ルキの視線がこちらを向く。それにつられてこちらを向いた男と目線が合って、一瞬でそらされた。
「んじゃ、夜、時間作れよ。久しぶりに飲もうぜ。」
「…」
「…お前に話したいこと、あるからさ。」
男の、怖いくらいに真剣な眼差しと声。隣に立つルキの口から「分かった」という言葉が聞こえるのを、どこか遠くに聞いていた。
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