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ロカール日常シリーズ ▶️50話
【チャジユ草の採取】#1 冒険者の基本、が既にズレてる?
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「どうもー、座右の銘は『為せば成る』!呪術師のシオンです!」
「…座右の銘は『実るほど頭を垂れる稲穂かな』、魔導師のセリです。」
「人生の目標は『紅顔の美少年』!ヒーラーのエルちゃんです!」
「死ぬまで『我武者羅』!シーフのルキです!」
「「「「四人合わせて、『深淵をのぞく四翼の風』です!」」」」
「え、え、え…?」
(…申し訳ない。)
ギルドの新人さん、今日初めて受付を担当してくれた女の子が戸惑っている。どうしていいのか分からない様子の彼女に、指名依頼が出ていないかを尋ねれば、慌てて確認を取りに行ってしまった。
その背中を見送ってから、隣のエルに視線を向ける。
「…エルの『紅顔の美少年』は座右の銘なんでしょうか?」
「いいでしょ?人生の目標ってことだから!老いても美少年☆」
「老いても…」
エルならやれそうで怖い。
「っていうかー、それ言うんだったら、ルキの『我武者羅』も大概じゃない?」
「あ?好きな言葉って意味なら有りだろ?」
「…『我武者羅』は、いいと思います。一生懸命な感じで。」
「えー!?セリちゃんのヒイキが過ぎる!ルキばっかり!」
「別に、そんなことは…」
グダグダしていたら、受付の子が慌てて戻ってきた。
「すみません!お待たせしました!深淵をのぞく四翼の風さん!」
「…」
何でだろう。パーティ名なのに、フルで呼ばれることが滅多に無いせいか、微妙に居心地が─
「えっと!出ていました、指名依頼!こちらの採取依頼です!ギルドからの指名で、深淵をのぞく四翼の風の皆さんに受けて頂ければと!」
「えー?また、ギルドから?最近、そればっかり。」
「…エル、文句を言わないでください。」
「だってー。」
「あ、あの…?」
「あー、はいはい!了解!了解です!受けます!依頼、受けますから!」
エルの態度に委縮してしまった受付の子に、兄が慌ててフォローに入る。
「あ、…はい、あの、よろしくお願いします。」
「はいはい!おけです!任せといてね!」
兄に促されるまま依頼書を差し出した彼女に、小さく会釈した。
(…頑張って。)
冒険者ギルドというクセの強い職場。エルや兄みたいなのは序の口、これから大変だと思うから。同年代の新人さんに、少し前の自分の姿を重ねてエールを送った。
「だるーい。めんどーい。早く帰りたーい。」
「…エル、口ではなく手を動かして下さい。」
「えー。セリちゃん、よくこんな面白くもない仕事頑張れるよねー?」
「面白くない、ですか?…私は結構、好きなんですけど。」
エルの言葉に自分の手元、たった今、引っこ抜いたばかりのチャジュ草を見る。今回の採取依頼品、回復薬の原料になるチャジュ草は野草の中でもかなり見つけやすい部類に入る。
「セリって、昔から黙々と作業こなすの好きだもんなー。庭の草むしりとか。」
「…うん、楽しい。」
そういう兄は、エル同様、こうした作業が好きではない。直ぐに飽きてしまうのだ。実際、今も既に飽きているのが丸わかりのやる気のなさ。
気になって、隣のルキに聞いてみる。
「…ルキも、好きではないですか?採取依頼。」
「ん?…あー、まぁ、別に好き好んではやんねぇかな。…てか、俺、初めてかも、チャジュ草採取の依頼とか。」
「え…?…初めて、なんですか?」
「だなぁ。ガキの頃に小遣い稼ぎに集めてたりはしたけど、冒険者なってから依頼でってのは無いな。」
ルキの言葉に驚いた。
「…私、イグナーツさんに、『チャジュ草採取は冒険者の基礎』、『新人冒険者は誰もが通る道』って教わったんですけど。」
「んー?まあ、冒険者ってか、誰でもガキの頃に通ってる道なんじゃねぇの?」
「ちょ、マジで!?俺とセリ、冒険者なってから暫くはずっと草ばっかむしってたんだけど!?エルもルキもやってないの!?」
「えー?別に、必須ではないしー?」
「冒険者の基礎ってことも無いんじゃね?」
エルとルキに否定され、兄がショックを受けている。
「シオンもセリちゃんも、それ絶対騙されてるよ☆新人の頃から、イグナーツさんにいい様に使われてたんじゃなーい?」
「グッ!?騙されてるなんてことは無いっ!と思う!」
(うん…)
いい様には使われてるかもだけど、騙されてはない。…と思いたい。
新人の頃は、それこそ受ける依頼は全てイグナーツさんに見繕ってもらっていたくらいだけれど、「嫌だ」「無理だ」と思うような依頼をやらされたことは無かった。
(…むしろ、無茶言うのは兄さんの方だったし。)
ただ、自分達の無知さ、エルやルキとの感覚のズレを感じて、ちょっとだけモヤっとした。
「…座右の銘は『実るほど頭を垂れる稲穂かな』、魔導師のセリです。」
「人生の目標は『紅顔の美少年』!ヒーラーのエルちゃんです!」
「死ぬまで『我武者羅』!シーフのルキです!」
「「「「四人合わせて、『深淵をのぞく四翼の風』です!」」」」
「え、え、え…?」
(…申し訳ない。)
ギルドの新人さん、今日初めて受付を担当してくれた女の子が戸惑っている。どうしていいのか分からない様子の彼女に、指名依頼が出ていないかを尋ねれば、慌てて確認を取りに行ってしまった。
その背中を見送ってから、隣のエルに視線を向ける。
「…エルの『紅顔の美少年』は座右の銘なんでしょうか?」
「いいでしょ?人生の目標ってことだから!老いても美少年☆」
「老いても…」
エルならやれそうで怖い。
「っていうかー、それ言うんだったら、ルキの『我武者羅』も大概じゃない?」
「あ?好きな言葉って意味なら有りだろ?」
「…『我武者羅』は、いいと思います。一生懸命な感じで。」
「えー!?セリちゃんのヒイキが過ぎる!ルキばっかり!」
「別に、そんなことは…」
グダグダしていたら、受付の子が慌てて戻ってきた。
「すみません!お待たせしました!深淵をのぞく四翼の風さん!」
「…」
何でだろう。パーティ名なのに、フルで呼ばれることが滅多に無いせいか、微妙に居心地が─
「えっと!出ていました、指名依頼!こちらの採取依頼です!ギルドからの指名で、深淵をのぞく四翼の風の皆さんに受けて頂ければと!」
「えー?また、ギルドから?最近、そればっかり。」
「…エル、文句を言わないでください。」
「だってー。」
「あ、あの…?」
「あー、はいはい!了解!了解です!受けます!依頼、受けますから!」
エルの態度に委縮してしまった受付の子に、兄が慌ててフォローに入る。
「あ、…はい、あの、よろしくお願いします。」
「はいはい!おけです!任せといてね!」
兄に促されるまま依頼書を差し出した彼女に、小さく会釈した。
(…頑張って。)
冒険者ギルドというクセの強い職場。エルや兄みたいなのは序の口、これから大変だと思うから。同年代の新人さんに、少し前の自分の姿を重ねてエールを送った。
「だるーい。めんどーい。早く帰りたーい。」
「…エル、口ではなく手を動かして下さい。」
「えー。セリちゃん、よくこんな面白くもない仕事頑張れるよねー?」
「面白くない、ですか?…私は結構、好きなんですけど。」
エルの言葉に自分の手元、たった今、引っこ抜いたばかりのチャジュ草を見る。今回の採取依頼品、回復薬の原料になるチャジュ草は野草の中でもかなり見つけやすい部類に入る。
「セリって、昔から黙々と作業こなすの好きだもんなー。庭の草むしりとか。」
「…うん、楽しい。」
そういう兄は、エル同様、こうした作業が好きではない。直ぐに飽きてしまうのだ。実際、今も既に飽きているのが丸わかりのやる気のなさ。
気になって、隣のルキに聞いてみる。
「…ルキも、好きではないですか?採取依頼。」
「ん?…あー、まぁ、別に好き好んではやんねぇかな。…てか、俺、初めてかも、チャジュ草採取の依頼とか。」
「え…?…初めて、なんですか?」
「だなぁ。ガキの頃に小遣い稼ぎに集めてたりはしたけど、冒険者なってから依頼でってのは無いな。」
ルキの言葉に驚いた。
「…私、イグナーツさんに、『チャジュ草採取は冒険者の基礎』、『新人冒険者は誰もが通る道』って教わったんですけど。」
「んー?まあ、冒険者ってか、誰でもガキの頃に通ってる道なんじゃねぇの?」
「ちょ、マジで!?俺とセリ、冒険者なってから暫くはずっと草ばっかむしってたんだけど!?エルもルキもやってないの!?」
「えー?別に、必須ではないしー?」
「冒険者の基礎ってことも無いんじゃね?」
エルとルキに否定され、兄がショックを受けている。
「シオンもセリちゃんも、それ絶対騙されてるよ☆新人の頃から、イグナーツさんにいい様に使われてたんじゃなーい?」
「グッ!?騙されてるなんてことは無いっ!と思う!」
(うん…)
いい様には使われてるかもだけど、騙されてはない。…と思いたい。
新人の頃は、それこそ受ける依頼は全てイグナーツさんに見繕ってもらっていたくらいだけれど、「嫌だ」「無理だ」と思うような依頼をやらされたことは無かった。
(…むしろ、無茶言うのは兄さんの方だったし。)
ただ、自分達の無知さ、エルやルキとの感覚のズレを感じて、ちょっとだけモヤっとした。
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