【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン

文字の大きさ
上 下
42 / 174
ロカール日常シリーズ ▶️50話

【ゴブリンの討伐】#5 性別詐称のしっぺ返し

しおりを挟む
「狙われてたねー、セリちゃん☆」

「…狙う?…命を?」

「違う違ーう!」

いつもの大熊亭、いつものジュース。さっぱり目の柑橘類の味を口にして、さっきまでの気持ち悪さが漸く治まってきた。

「…やっぱ、アレ、仕掛けて来てたか?」

「来てた来てた、間違いなし!」

ルキが渋い顔して、エルが黒い笑顔で楽しそうに笑っている。その横で、良く分かっていない間抜け顔の兄妹二人。

「セリ、お前、今後、気を付けろよ?あーいうのにフラフラっていっちまうと、後が最悪だからな?」

「あーいうの…?」

「お前、誘われてたんだよ。あの女の魔力に当てられてた。」

「魔力で、誘う?…魅了とか、そういうこと、ですか…?」

モンスター相手にそういう魔術が存在することは知っている。だけど、人相手に?

「…それは、犯罪では?」

「まあな。本気で魔術かけてきてりゃ、犯罪。捕まえてギルドにつき出せばいいだけの話なんだけどさ。」

「あーいうのはグレーゾーンだから厄介なんだよねー☆」

「だな。魔術は発動してない。けど、魔力にある程度の意図をこめて相手にぶつける。そうすっと、その魔力に当てられて、こう、フラフラーっと…」

「…」

心配そうなルキの目が、「大丈夫か?あの女に誑かされてないか?」って聞いてきてる。

「…あの、フラっとはなってないです。ただ、気持ち悪くて…」

「は?え、マジか?って、おい、じゃあ、こんなとこで飯食ってる場合じゃないだろ。帰って寝るか、病院、」

「大丈夫だよー☆セリちゃんの場合は、あの女の魔力に対する抵抗が強すぎただけだろうから!」

「ああ、魔力抵抗。」

人、一人一人で異なる魔力。攻撃魔法に転換しなくても、各々が身に纏う魔力が干渉し合うことはある。魔力が強ければ強いほど、他者の魔力をはね除ける力も大く、魔法防御においては非常に有利、なのだけど。

「…盲点、でした。」

認識阻害系の魔術は常時展開しているものの、まさかこんな形で、しかも女性からアプローチを掛けられるとは思ってもいなかった。

「まあ、俺やエルが側に居る時は大丈夫だろうけど、一人になる時は気を付けろよ?あの女、また何か仕掛けてくるだろうからさ。」

「大丈夫、です。何をされてるのかが分かれば、対処のしようはありますから。」

「あー、そうな。セリの実力、疑ってるわけじゃねぇよ?けど、セリ、たまにボーッとしてっからなぁ。」

「…」

それは、否定出来ない。でも、その「ボーッと」の理由は、大抵、目の前のあなたのせい─

「あのさぁ、ごめん、俺、まだよく分かってないんだけど。結局、あの魔導師の子はセリにコナかけて何がしたかったの?」

「うーん。どっちかなぁ?微妙なとこ☆」

「アレはなぁ。ただ単に、今日のセリの実力見てセリを気に入っただけか、気に入って、本気であっちのパーティに引き抜くつもりだったか…」

「えー?引き抜き?なにそのハニトラみたいなの。」

「みたい、じゃなくて、実際そーなの!そういうことも世の中あるんだから!シオンだって他人事じゃないんだよ?」

「えー?」

納得いかない、みたいな兄の態度。私も、ちょっと引いている。前世では未体験なゾーン。今世でも、少し、世間知らずだという自覚はあったけれど、まさかそんなことがあるなんて。

「…まあ、基本、冒険者なんて男社会だからな。そん中で生き抜くためにアレコレやる女も居るってことだよ。」

「僕、男にやられたことあるよ☆」

「…」

「…」

さらっととんでもない情報をぶっ込んで来たエルに、私とルキの時が止まった。それをぶち壊したのは、呂律の怪しい兄の言葉。

「えーえー、でもさぁー、あの子別にソロじゃないんだよー?三人パーティだよー?他の二人、嫌じゃないの、そういうの?ってか、普通、止めない?」

「だねー?シオンだったら止めるよね?絶対☆」

「…」

絶対、の辺りでこっちを向いたエルの目がニンマリ笑ってる。エルの言葉にウンウン頷いていた兄が、ジョッキをあおった。

「俺はやだね!そういうの!セリには、絶対、そんなことさせない!無理無理!」

「おー☆流石、シオンお兄ちゃん!セリちゃんを守れるのは、お兄ちゃんだけだねー?」

「…二人とも、酔ってるの?」

聞かなくても分かるけど、一応。

人の性別が疑われそうな発言を堂々とする酔っぱらい達から、ルキに視線を移す。

(…気づいた、かな?)

少しの期待と、心臓痛くなるくらいの不安。

バレたらバレたで、カミングアウトするタイミングなのかもしれないと思いながら─

「お前らなぁ、人が真剣な話してんのに…」

「えー!?俺だって、めっちゃ真剣!」

(…気づかない、かぁ…)

ルキはただ、あきれた眼差しを二人に向けているだけ。そのことに、少し落胆して、やっぱり、凄く安堵した。

「はいはーい☆真剣な話はもう終わり終わり!それより、僕、気になってたんだけどー?」

「…なんだよ?」

「ルキは、あの魔導師の子にフラフラーっとはならなかったの?この前、ルキもおんなじようなことされてたでしょ?」

「ああ、あれな。」

「っ!?」

「けど、まあ、あそこまであからさまだと、逆に警戒心しか持てないっつーか。」

「ふーん?」

ルキとエルのやり取りに驚いて、それから、かなり落ち込んだ─

(…気づかなかった。)

女魔導師の魔力の流れ。ちゃんと見ていれば、気づいたかもしれない。なのに、そんなこと思い付きもしないで、ただ、嫉妬に駆られていただけ。自分の未熟さに思いっきり落ち込んだ。

(…もし、これが、ザーラさんだったら。)

以前、魔力の流れだけで私の想いに気づいたザーラさん。もし、私が彼女のように魔導師として振る舞うことが出来ていたら─

「本当に、一瞬もフラッと来なかったー?あの身体と魔力にやられて、ちょっとならいいかなー?みたいな?」

「ねえよ。何でだよ。」

「ふーん?…良かったね、セリちゃん?」

「…」

エルの言葉に、意識を引き戻される。

「気にしてたもんねー、あの子のこと。睨んでたし。…どうやら、ルキの眼中には無いみたいだよ?」

悪戯っぽく笑って、ウインクまでしてくるエル。アルコールに染まった頬で本当に可愛くキラキラ笑うから、つられて笑う。

「…はい。良かった、です。」

「セリ、まだ気にしてたのか?前言ったろ?本当、マジで無いからな?」

「良かった、です。」

繰り返して、ルキを見上げる。苦笑したルキの手が、また人の頭を撫でていった。

撫でて、それからポロッと。何でもないことみたいに、ルキが軽く口にした言葉─

「まあ、そもそもの話さ、パーティ内に女が居るってだけで、俺、無理だからな。」

「えっ!?」

「ちょっ!?何それ!?俺、聞いてない!何で!?何で無理なの!?そこんとこ詳しく!?」

「…」

エルが呆然として、兄が慌てふためいて、私は─

(私は…、どんな顔、してるんだろう?)

酷い顔、してるかもしれない。こちらを案じる兄とエルの視線を感じる。

エルの口からひっくい声が出てきた。

「…ルキ、チャチャっと吐いて。…何で?何で女の子居たら駄目なの?前のパーティ、居たよね?女の子。」

「なんだよ急に。こえーな。…まあ、居たけど。居たから、揉めたっつーか。俺がパーティ抜ける原因にもなったっつーか。」

「…ルキ、パーティリーダーと揉めたんじゃなかったっけ?リーダー、男、だったでしょ?」

「ああ、直接揉めたのはダチだった男の方だけど、まあ、その揉めた原因がパーティに居たダチの女のことで…」

「なるほど…」

「そういうことかー。」

「…」

パーティ内での色恋沙汰。それで揉めるという話はよく耳にする。

「まあ、だから、今は男だけのが気楽だなーと、…セリとシオンに誘われた時も、そう思ったんだよなー。」

「なるほど…」

「思っちゃったかー。」

「…」

気遣う視線が二つ。感じながらも顔を上げられなくなった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

処理中です...