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ロカール日常シリーズ ▶️50話
【Mニュートの皮の納品】#2 仕事なのに甘やかされています
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「えー、それで、当支部としてもね、所属する冒険者がS級に昇格するチャンスがあるなら応援したいと考えています。とは言え、先ずは君たちのパーティランクがAに上がらないことには話にならない。」
眼鏡をクイッってしたイグナーツさんが、依頼書を取り出した。
「そこで、我々、冒険者ギルドロカール支部全面バックアップの下、君達に用意した依頼が、これ。」
「これって…」
「げ。」
「マドンの滝じゃーん!やだー!」
「文句は受け付けない。成功報酬も破格、ランクも上がりやすいB難度の依頼だ。…健闘を祈っているよ。」
そう言って、イグナーツさんがグイッと押し付けてきた依頼書を、兄は大人しく受け取った。受け取ったのに、ギルドを出たところで大きいため息。
「うー、なんだかんだ、面倒くさい仕事を押し付けられただけのような気がする…」
「そうだよもう!シオンが、イグナーツさんにもっと強く出ないからー!僕ら、ロカールの主戦力だよ?ちょっと良いように使われすぎ。舐められてるんじゃなーい?」
「う。そうかも、だけど。でもさ、俺達、イグナーツさんには、本当、お世話になったからさ。」
兄の言葉に、横で頷く。右も左も分からない、世間知らずだった私たち兄妹が、冒険者としてやっていけるようになったのはイグナーツさんのおかげ。鬱陶しい兄の「教えて教えて攻撃」に、嫌な顔もせずに付き合ってくれた唯一の人。
「…私、頑張ります。マドンの滝、風魔法で割ってでも、皆を守りますから。」
「気合入ってんなー、セリ。」
「割るのはやりすぎー!うーん、でも、そうだね。セリちゃんとルキの昇級のため、だもんね?まあ、それならしょうがない、がんばろー☆」
「おー。」
たどり着いたマドンの滝。目の前には崖一面を覆う瀑布。
「えーっと、依頼内容としては、ビッグニュートの皮を五枚ってことだから、あー、つまり…」
「…滝の裏、マドンの洞窟に入らないといけない。…やっぱり、滝を割って、」
「いやいやいや。そんなことしたら、周りにどれだけ迷惑かけると思ってるの。駄目だからね?セリ。」
「…」
通常、滝の裏にある洞窟に入るには滝を突っ切るしかない。滝の水量が少ない季節はまだ、それでもいいのだけれど─
「…ナノヌーンは、強敵。」
「う。俺も、あれはマジで苦手。物理防御上げても、魔法防御上げても、完璧には防げないんだよなー。絶対、どっか、血ぃ吸われるし…」
「…兄さん、思い出させないで。」
滝の水中に存在するナノヌーンはまさに、目に見えないサイズのヒル。滝の飛沫に触れただけで、気づけば身体に張り付いて血を吸ってくる。サイズがサイズなだけに、いくら吸われようと致命傷になることはないけれど、血を吸って百万倍以上に膨らんだソレが全身に取り付いた状態は視覚的に恐ろしいことになる。
(…駄目、思い出しちゃ駄目。)
苦い記憶にモザイクをかけて、覚悟を決める。
「…兄さん。なるべく、どっちの防御も上げて、速度も。」
「おーけー、妹よ。…一人で逝かせはしないからな。」
「うん。」
兄妹で、決死の覚悟を決めていたところに、ルキの声がした。
「…なぁ、んな嫌なら、俺、一人で行ってくるけど?」
「っ!駄目!ルキだけ、そんな目に合わせられない!」
「いや、多分、シオンに速度強化かけてもらえば、ナノヌーンに張り付かれる前に、滝突っ切れるから。」
「!」
「あー!確かに☆ルキ単独なら、それくらいのスピードで行けそう!うん、よし☆ここはルキ一人にお任せしよう、ね?メガニュートだって、ルキなら楽勝だし?」
「でも…」
「なにー?セリちゃんは、ルキがメガニュートに負けちゃうと思うの?」
「それは、無いです…」
小型犬サイズのサンショウウオみたいなメガニュートに魔法攻撃は通りづらい。その代わり、物理攻撃は面白いくらいに通るから、ルキがやられる心配は全くしていない。
「…でも、パーティランク昇格のための依頼なのに、ルキだけに負担をかけるのは…」
「あー、んなこと気にしてたのか?」
「だって、そんなのズルいじゃないですか。」
「ズルくはねーだろ?それこそ、パーティなんだからさ、苦手な部分を仲間同士で補い合うってだけの話。今回は俺の得意分野っぽいから、俺がやるってだけで、な?」
「…ルキはちょっと、仲間を甘やかし過ぎだと思います。」
「おー、甘えとけ甘えとけ。その内、俺の方が甘やかしてもらうからなー。」
「…」
そう言って、人の頭をポンポンしたルキは、付与魔法をかけてもらいに兄の方へ近寄っていった。その姿を後ろからポーっと見てたら、
「ふふふー。甘やかされてるのは、僕たちっていうより、セリちゃん、なんじゃないかなー☆」
「…」
余計な一言を言わずにおられない友人のせいで、調子に乗った私の心臓が、勝手にドキドキしだした。
眼鏡をクイッってしたイグナーツさんが、依頼書を取り出した。
「そこで、我々、冒険者ギルドロカール支部全面バックアップの下、君達に用意した依頼が、これ。」
「これって…」
「げ。」
「マドンの滝じゃーん!やだー!」
「文句は受け付けない。成功報酬も破格、ランクも上がりやすいB難度の依頼だ。…健闘を祈っているよ。」
そう言って、イグナーツさんがグイッと押し付けてきた依頼書を、兄は大人しく受け取った。受け取ったのに、ギルドを出たところで大きいため息。
「うー、なんだかんだ、面倒くさい仕事を押し付けられただけのような気がする…」
「そうだよもう!シオンが、イグナーツさんにもっと強く出ないからー!僕ら、ロカールの主戦力だよ?ちょっと良いように使われすぎ。舐められてるんじゃなーい?」
「う。そうかも、だけど。でもさ、俺達、イグナーツさんには、本当、お世話になったからさ。」
兄の言葉に、横で頷く。右も左も分からない、世間知らずだった私たち兄妹が、冒険者としてやっていけるようになったのはイグナーツさんのおかげ。鬱陶しい兄の「教えて教えて攻撃」に、嫌な顔もせずに付き合ってくれた唯一の人。
「…私、頑張ります。マドンの滝、風魔法で割ってでも、皆を守りますから。」
「気合入ってんなー、セリ。」
「割るのはやりすぎー!うーん、でも、そうだね。セリちゃんとルキの昇級のため、だもんね?まあ、それならしょうがない、がんばろー☆」
「おー。」
たどり着いたマドンの滝。目の前には崖一面を覆う瀑布。
「えーっと、依頼内容としては、ビッグニュートの皮を五枚ってことだから、あー、つまり…」
「…滝の裏、マドンの洞窟に入らないといけない。…やっぱり、滝を割って、」
「いやいやいや。そんなことしたら、周りにどれだけ迷惑かけると思ってるの。駄目だからね?セリ。」
「…」
通常、滝の裏にある洞窟に入るには滝を突っ切るしかない。滝の水量が少ない季節はまだ、それでもいいのだけれど─
「…ナノヌーンは、強敵。」
「う。俺も、あれはマジで苦手。物理防御上げても、魔法防御上げても、完璧には防げないんだよなー。絶対、どっか、血ぃ吸われるし…」
「…兄さん、思い出させないで。」
滝の水中に存在するナノヌーンはまさに、目に見えないサイズのヒル。滝の飛沫に触れただけで、気づけば身体に張り付いて血を吸ってくる。サイズがサイズなだけに、いくら吸われようと致命傷になることはないけれど、血を吸って百万倍以上に膨らんだソレが全身に取り付いた状態は視覚的に恐ろしいことになる。
(…駄目、思い出しちゃ駄目。)
苦い記憶にモザイクをかけて、覚悟を決める。
「…兄さん。なるべく、どっちの防御も上げて、速度も。」
「おーけー、妹よ。…一人で逝かせはしないからな。」
「うん。」
兄妹で、決死の覚悟を決めていたところに、ルキの声がした。
「…なぁ、んな嫌なら、俺、一人で行ってくるけど?」
「っ!駄目!ルキだけ、そんな目に合わせられない!」
「いや、多分、シオンに速度強化かけてもらえば、ナノヌーンに張り付かれる前に、滝突っ切れるから。」
「!」
「あー!確かに☆ルキ単独なら、それくらいのスピードで行けそう!うん、よし☆ここはルキ一人にお任せしよう、ね?メガニュートだって、ルキなら楽勝だし?」
「でも…」
「なにー?セリちゃんは、ルキがメガニュートに負けちゃうと思うの?」
「それは、無いです…」
小型犬サイズのサンショウウオみたいなメガニュートに魔法攻撃は通りづらい。その代わり、物理攻撃は面白いくらいに通るから、ルキがやられる心配は全くしていない。
「…でも、パーティランク昇格のための依頼なのに、ルキだけに負担をかけるのは…」
「あー、んなこと気にしてたのか?」
「だって、そんなのズルいじゃないですか。」
「ズルくはねーだろ?それこそ、パーティなんだからさ、苦手な部分を仲間同士で補い合うってだけの話。今回は俺の得意分野っぽいから、俺がやるってだけで、な?」
「…ルキはちょっと、仲間を甘やかし過ぎだと思います。」
「おー、甘えとけ甘えとけ。その内、俺の方が甘やかしてもらうからなー。」
「…」
そう言って、人の頭をポンポンしたルキは、付与魔法をかけてもらいに兄の方へ近寄っていった。その姿を後ろからポーっと見てたら、
「ふふふー。甘やかされてるのは、僕たちっていうより、セリちゃん、なんじゃないかなー☆」
「…」
余計な一言を言わずにおられない友人のせいで、調子に乗った私の心臓が、勝手にドキドキしだした。
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