上 下
20 / 174
ロカール日常シリーズ ▶️50話

【Fバード討伐】#4 うちの魔導師が分かりやす過ぎるんだが(ルキ視点)

しおりを挟む
(…にしてもセリのやつ、胸すぎだろ。)

自分の隣には、ローブを脱いだ女魔導師。ローブの下からは、かなり露出の激しい服が出てきた。その女の胸元を、セリが反対隣からガン見しているもんだから、かなりハラハラ、気が気じゃなかった。

(バレてねぇ、とは思うけど。…セリ、こういうのが趣味か?)

人の趣味にどうこう言うつもりは無い、が、それでも、セリには「この女は止めておけ」と言いたい。

(依頼中も何も考えてなさそうだったけど、シオンの付与にイチャモンつけるってのがあり得ねぇ。)

自分達が無傷で済んだ理由が全く分かっていないような奴らなど、セリに相応しいわけがない。

(…まぁ、呪術師なんてのは地味だし、シオンはあの性格だからな。)

緊張感無くいつも笑っているせいか、どこか抜けて見えるシオン。顔はいいはずなのに、それでも「出来る男」の姿からは程遠く、その実力は過小評価されがちだったりする。

(…俺との初対面の時もなぁ。)

思い出し、思わず口元がニヤける。セリとシオンとの出会い。度肝を抜かれ、一瞬で二人に心惹かれた─



─あ!あの、双剣使いのルキくんだよね?ごめん、今、ちょっといいかな?

─…いいように見えっか?マッシブベアに襲われてるとこだぞ?

─ああ!うん、そうだよね!忙しいよね!でも、ごめん!こっちもちょっと焦ってて!勝手だけど、『防御力強化!』『速度強化!』『攻撃力強化!』

─…何のつもりだ?

─ごめーん!でも、こいつやるの手伝うからさ!うちのい、…弟助けてくれない!?

─は?

─あそこ!サンドビーの山みたいなの出来てるでしょっ!あの中にいるの!うちの弟!

─はぁっ!?



(…あん時ゃ、「その弟、死んでんだろ?」って思ったけどな。)

サンドビーの針攻撃を一切通さないだけの物理防御力の強化。それを付与した男は、サンドビーの山から救出した弟、涙目になっていたセリにしこたま怒られていた。



─バカっ!兄さんのバカ!だから、言った!私、無理って言った!

─ごめん!ごめんってセリ!あ!でも、ほら、彼!セリが気にしてた、双剣のルキくん!彼が助けてくれたんだよ?お兄ちゃん、頑張って勧誘したんだよ!

─え…?…ルキ、さん。…えっと、あの、勧誘って、え?…ひょっとして、私達とパーティ、組んでもらえる、とか、そういう話ですか?

─は?…いや、俺は別に、

─そう!そうなんだよ!いやー!良かった!良かったね、セリ!ずっと、ルキくんとパーティ組みたいって言ってたもんな!

─…うん。…あの、ルキさん、兄がすみません。でも、あの、ありがとうございます。嬉しいです。これから、よろしくお願いします。



そう言って頭を下げたセリ。顔を上げた時に見せた泣き笑いの笑顔に、結局、「違う」とは言い出せず。二人と─既に勧誘済みだったエルも入れて─パーティを組むことになった。

(ほんと、あん時は、気づけばって感じで流されたな…)

エルでは無いが、その頃の自分は古巣のパーティを抜けたばかり。色々ごたついた後だったこともあり、暫くはソロで、そう思っていた矢先の出来事だった。

その後、正式にパーティを組んだ時にその話をしたセリに、シオンはまたしこたま怒られていたが─

(何か、セリのあの、泣きそうな顔見てたらほっとけなかったっつーか、…すげぇ喜ばれて違うとは言えなかった、…って、あー、いや、うん、違うな。普通に嬉しかったんだわ、俺。)

今更、それに気づいて、何とも言えない羞恥に襲われる。

(…恥ず。…けど、まぁ、だから、なんだ。つまり、その大事な弟分がこんなのに引っかかったりしたら最悪だってことだよな。)

誤魔化すようにそう結論づけて、自分の隣、女を武器に距離を近づけようとしてくる魔導師を振り払う。

「触んな。うっとうしい。」

「えーっ!ヒドい!私はただ、ルキと仲良くなりたいだけなのにぃ!」

「いや、別にあんたらとお近づきになるつもりねぇから。」

(悪ぃな、セリ。お前は気に入ってたのかもしんねーけど。)

これ以上、こいつらに付き合う義理もない。セリを拾って帰るかと、シオンとエルに目配せすれば、頷いて返される。「じゃあな」、そう言って席を立とうとした瞬間、あり得ない言葉が聞こえた─

「ねえ、ルキぃ。こんな人達のパーティ抜けて、私達と組まない?」

「はぁあ?」

「おい、アイラ、止めろって。こんなとこで引き抜きはマズいだろ。場所考えろ。」

「えー、だって、ヴィムー。このままじゃ、ルキが可哀想だよぉ。こーんな奴らに言いように使われてぇー。」

(…ヤるか。)

パーティメンバーの前での勧誘というだけでもあり得ない行為。更に仲間を馬鹿にされて笑っていられるほど、生憎、人間出来ていない。腰の双剣に手が伸びそうになったところで、必死に首を横に振るシオンが視界に入った。その横で、黒い顔して笑うエルが親指を立てている。

「ああ、悪い悪い。こいつ、酔ってんだよ。許してやってくれ、な?」

「…」

悪びれた様子もなくそう言った剣士の男が、ニヤリと笑う。

「いや、けどさ、実際のとこ、俺もアイラとは同意見なんだわ。」

「…」

「あんたさ、そんだけの実力、こんなとこで腐らせんのもったいないだろ?」

「…」

「俺ら、本気でこの世界の天辺目指してるわけ。俺とアイラは冒険者初めてまだ一年も経たねぇけど、既にCランク。ヘルマンも、もう直ぐDランクに上がる予定だしな。」

「…まぁ、二人には、多少、出遅れてはいますが、私も直ぐに追いつくつもりでいます。」

それまで黙って酒を飲んでいた僧侶の男が、眼鏡を押し上げて口を挟んできた。

「な?ヘルマンもこう言ってるみたいに、俺らには上を目指す意志がある。こんなとこで、Cランク程度で満足してるパーティとは違ってさ。…なぁ、ルキ、あんただってそうなんじゃねぇか?あんた、こんなとこで満足してるような男じゃねぇだろ?」

「…」

一瞬だけ、かつての仲間、共に故郷を出て、同じ高みを目指した男の顔が浮かんだ。でも、それも本当に一瞬のこと─

「…馬鹿か、お前ら。俺が満足してないだ?んなもん、」

勝手に決めんな。そう言いかけて、視界に入った人影。いつの間に戻ってきていたのか、こちらを見つめて呆然と立ち尽くすセリの姿。その顔面は蒼白に染まって─

(…ばぁか、何て顔してんだよ。)

絶望、みたいな顔して、今にも泣きだしそうなセリに苦笑する。

「…シオン、エル。俺ら、先に帰るな。」

「うん、オッケー☆」

「りょうかーい。」

「なっ!?はぁっ!?ちょ、待てよ!ルキ!話はまだ!」

「はいはーい☆君たちには、僕からちょーっと大切なお話があるからね?…大人しく座ってろよ。」

「っ!?」

エルの威圧一つに動けなくなった男どもを放って席を立つ。

「…ほら、セリ。んなとこでボーっとしてんな。帰ろうぜ。」

「ルキ…、あの、でも…」

「ん?何だよ?帰んねぇの?」

「…帰り、ます。…ルキと一緒に。」

「ん。なら、行こうぜ?」

歩き出せば、セリは大人しく後をついてきた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました! 死んだら私も異世界転生できるかな。 転生してもやっぱり腐女子でいたい。 それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい…… 天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生! 最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。 父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!? ※BL要素ありますが、全年齢対象です。

異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~

リコピン
恋愛
前世、会社勤務のかたわら婚活に情熱を燃やしていたクロエ。生まれ変わった異世界では幼馴染の婚約者がいたものの、婚約を破棄されてしまい、またもや婚活をすることに。一風変わった集団お見合いで出会ったのは、その場に似合わぬ一匹狼風の男性。(…って本当に狼獣人!?)うっかり惚れた相手が生きる世界の違う男性だったため、番(つがい)やら発情期やらに怯え、翻弄されながらも、クロエは幸せな結婚生活を目指す。 シリアス―★☆☆☆☆ コメディ―★★★★☆ ラブ♡♡―★★★★☆ ざまぁ∀―★★☆☆☆ ※匂わす程度ですが、性的表現があるのでR15にしています。TLやラブエッチ的な表現はありません。 ※このお話に出てくる集団お見合いの風習はフィクションです。 ※四章+後日談+番外編になります。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する

もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。 だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

処理中です...