上 下
15 / 174
ロカール日常シリーズ ▶️50話

【聖職者さんの護衛】#3 寝起きドッキリ、大成功

しおりを挟む
(遅い。流石に遅すぎる…)

寝起きが鬼のように悪い兄。朝が駄目だというわけではないが、自分のタイミングでしか目を覚まそうとしない。兄を起こすという特殊勤務は前世で諦めた。だから、いつもなら自力で起きてくるまで放っておくのだけれど。

(…依頼、見に行く時間、無くなっちゃう。)

これはもう腹を括るしかないかと、重い腰を上げて兄の部屋へと向かった。

「…兄さん、起きて。朝、というか、もう昼。」

部屋の外、全力のノックの後に、そう声をかけてみるも、返事はない。

(…想定内。)

だから、部屋の扉を開けた。何の警戒もなく、バーンと。だけど、「起きろー」と一応、言ってみるつもりだった口は、「お」の形のまま固まった。

「…」

「…ん?あー、はよ、セリ。」

「…」

「今、何時?てか、外、メッチャ明るいなぁ、おい。…あー、悪い、寝過ごした。」

「…」

「シオンは、…って、駄目だ、コレ。まだ、当分起きねぇわ。」

「…」

「俺、一回、家帰ってまた戻って来るからさ。ギルド、二人で行こうぜ。依頼確認しに。」

「…」

「あ、セリ、朝飯食ったか?まだだったら、俺、ついでに何か買ってくっから、ここで一緒に食っていい?」

「…」

「って、セリ?おーい、聞いてっかー?」

「…何で…」

何で、ルキがここに。兄さんの部屋に、上半身裸で寝ていたのか。喋りながらシャツを着こんだルキの腹筋が服の下に隠されていく様子を、マジマジとかぶり付きで見てしまった。

見てしまってから言うのはアレだけど、

「…ルキ、昨日、泊まったんですか?」

「ああ、まあ、そんなつもりは無かったんだけど。成り行きで。」

(…危なかった。)

既に出かける準備も万端の魔導師スタイルになっていて良かった。危うく、ヨレヨレ部屋着の休日スタイルをルキに見られるところだった。

(女子バレするにしても、それはスゴく嫌。というか、駄目だと思う。)

私の乙女心は守られた。

腹筋が隠されたおかげで漸くルキの顔を見ることが出来るようになったので、顔を上げる。

「…兄さんが、迷惑をかけたんじゃないんですか?」

「ん?ああ、まあ、何か、シオンのやつ、昨日は変な飲み方したせいで、グダグダになっててさ。ここまで連れ帰ったはいいんだけど、なかなか離してくんなくて。」

「…」

「仕方ないから、床で雑魚寝した。」

(…兄さん、ズルい。)

おかげで身体が痛いと笑うルキには申し訳ないが、兄が羨ましい。その兄本人は、まだ床で寝こけたまま。「ベッドに運んでやるか」というルキの優しい言葉は丁寧に辞退して、ルキを朝食に誘った。

(そのまま、寝違えるがいい…)

妹の嫉妬心により、床に取り残された兄は幸せそうな顔で眠っている。

「…セリ、いいのか?俺が朝飯食って。これ、シオンの分だろ?」

「いいんです。兄の分は起きたら作りますから。」

兄が自分で。

「そか?じゃあ、ありがたく頂きます。」

「はい。どーぞ。」

朝はコーヒー派だというルキに、日頃の十倍は丁寧にドリップしたコーヒーを出す。

(…いい。何か、新婚さんみたい。)

それもこれも、兄のはた迷惑のせいではあるけれど。

「…ルキ、兄がご迷惑をかけて、すみませんでした。あの、連れ帰ってくれてありがとうございます。」

「いいって、そんなん。気にすんな。それに、今回のこれは、シオンばっかを責めれないっつーか。まあ、あいつもショックだったんだろうな、と…」

「ショック…?」

「ああ…。…なぁ、セリ。」

「はい。」

「セリってさぁ…」

「?」

「…あー、やっぱ、いい。悪い、何でもない。そんなん、個人の嗜好、自由だもんな。」

「??」

「俺は、まあ、うん、悪くないと思う。そういうのもアリだと思うし、な。」

「???」

一人、納得したように頷くルキに、?が積み重なる。ルキの、困ったような、優しい瞳に見つめられていた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました! 死んだら私も異世界転生できるかな。 転生してもやっぱり腐女子でいたい。 それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい…… 天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生! 最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。 父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!? ※BL要素ありますが、全年齢対象です。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

捨てられ妻ですが、ひねくれ伯爵と愛され家族を作ります

リコピン
恋愛
旧題:三原色の世界で 魔力が色として現れる異世界に転生したイリーゼ。前世の知識はあるものの、転生チートはなく、そもそも魔力はあっても魔法が存在しない。ならばと、前世の鬱屈した思いを糧に努力を続け、望んだ人生を手にしたはずのイリーゼだった。しかし、その人生は一夜にしてひっくり返ってしまう。夫に離縁され復讐を誓ったイリーゼは、夫の従兄弟である伯爵を巻き込んで賭けにでた。 シリアス―★★★★☆ コメディ―★☆☆☆☆ ラブ♡♡―★★★☆☆ ざまぁ∀―★★★☆☆ ※離婚、妊娠、出産の表現があります。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~

リコピン
恋愛
前世、会社勤務のかたわら婚活に情熱を燃やしていたクロエ。生まれ変わった異世界では幼馴染の婚約者がいたものの、婚約を破棄されてしまい、またもや婚活をすることに。一風変わった集団お見合いで出会ったのは、その場に似合わぬ一匹狼風の男性。(…って本当に狼獣人!?)うっかり惚れた相手が生きる世界の違う男性だったため、番(つがい)やら発情期やらに怯え、翻弄されながらも、クロエは幸せな結婚生活を目指す。 シリアス―★☆☆☆☆ コメディ―★★★★☆ ラブ♡♡―★★★★☆ ざまぁ∀―★★☆☆☆ ※匂わす程度ですが、性的表現があるのでR15にしています。TLやラブエッチ的な表現はありません。 ※このお話に出てくる集団お見合いの風習はフィクションです。 ※四章+後日談+番外編になります。

【完結】ちびっこ錬金術師は愛される

あろえ
ファンタジー
「もう大丈夫だから。もう、大丈夫だから……」 生死を彷徨い続けた子供のジルは、献身的に看病してくれた姉エリスと、エリクサーを譲ってくれた錬金術師アーニャのおかげで、苦しめられた呪いから解放される。 三年にわたって寝込み続けたジルは、その間に蘇った前世の記憶を夢だと勘違いした。朧げな記憶には、不器用な父親と料理を作った思い出しかないものの、料理と錬金術の作業が似ていることから、恩を返すために錬金術師を目指す。 しかし、錬金術ギルドで試験を受けていると、エリクサーにまつわる不思議な疑問が浮かび上がってきて……。 これは、『ありがとう』を形にしようと思うジルが、錬金術師アーニャにリードされ、無邪気な心でアイテムを作り始めるハートフルストーリー!

駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月
ファンタジー
 大学入試試験中の僕、「黒江 一(くろえ はじめ)」は、試験最後の一問を解き、過去最高の出来になるであろう試験結果に満足して、タイムアップの時を待ち軽く目をつぶった……はずだった。  真っ黒な空間で、三年前に死んだ幼馴染『斎藤 一葉(さいとう かずは)』の姿をしたそいつは、遅刻するからと、そのまま僕を引き連れてどこかへと移動していく。  そいつは女神候補生の『アリアンロッド』と名乗り、『アイオライト』という世界に僕を連れて行く。『アイオライト』は、女神への昇級試験なのだそうだ。『アリアンロッド』が管理し、うまく発展させられれば、試験は合格らしい。  そして、僕は遅刻しそうになって近道を通ろうとした『アリアンロッド』に引っ掛けられ、地球から消滅してしまったようだが、こいつ僕のことを蟻とかと一緒だと言い切り、『試験会場への移動中のトラブルマニュアル』に従って、僕を異世界『アイオライト』に転生させやがった。こちらの要望を何一つ聞かず、あいつ自身の都合によって。  大学に合格し、ノンビリするはずの僕は、この世界でどうなるんだろう…… ※ 表紙画像は『プリ画像 yami』さん掲載の画像を使用させていただいております。 * エロはありません。グロもほとんど無いはず……

処理中です...