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ロカール日常シリーズ ▶️50話
【商人さんの護衛】#4 妹の居ぬ間の攻防 (シオン視点)
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至福─
宿泊を決めた宿の大浴場、男三人という色気の無さではあるけれど、つかる湯の心地よさに前世日本人の魂が「極楽極楽」と叫んでいる。
(…セリは、どうしてっかなー。)
一人置いて来た妹のことが、頭をかすめる。
(…夜中、混浴の方でも連れてってやるか。俺が見張りに立って…)
溶けそうな脳でそんなことを考えていたら─
「…シオン、あのさ、セリって、身体、何か傷あるとかそういう、…どっか悪いのか?」
「は?…え?無いけど?何で?」
突然のルキの言葉に、脳が覚醒した。
「んー、いや、温泉入んないってのもそうだけど、そういや、野宿ん時とか、川入るのも嫌がんなーっと思って。」
「あー。」
鋭いのか鈍いのか。セリのことを良く見ているくせに、肝心なところには気づいていない様子のルキに笑う。
「セリのあれは、そういうんじゃないよ。まぁ、なんていうか…」
本当、なんていうか迷う。
(え?あれ、何て言おう?これ、どうやって誤魔化せば…)
焦る状況に、助け船?らしきものを出してくれたのはエルだった。
「セリちゃんは魔導師だからね☆」
「は?なに?魔導師だと何かあんの?」
「魔導師のローブの下は秘密がいっぱい☆だから、ローブを脱ぐのが嫌なんだよ!」
「へー、俺、それ、初めて聞いたわ。」
(いや、確実に嘘だろ…)
ルキはたまに馬鹿、…正直だと思う。
「だから、ルキも、セリちゃんのローブ、無理やり脱がせたりしちゃ駄目だよ☆」
「しねぇーよ!」
セリの性別を知っていて、際どいセリフを吐くエルが悪い顔をして笑っている。
(セリのあの恰好もなぁ…)
兄として、思うところはまぁまぁある。
(前…、前世ではあそこまでは無かったんだけど。何をどうやって、ああいう結論になったのか。)
思い出すのは子どもの頃、こちらの世界の親を亡くして放り込まれた孤児院があまりにもアレだったので、セリを連れて逃げ出そうとした時のこと─
─…お兄ちゃんは、「お兄ちゃん」なの?
─ん?え?なになに?禅問答?俺、これからセリナ連れて決死の脱走試みるところなんだけど。話なら後で、
─オオサキハルト
─っ!?
─…やっぱり、お兄ちゃんは「お兄ちゃん」なんだ
─…セリナ、…サヤカ、なのか?
─うん。…久しぶり、お兄ちゃん
─え?いや、え?久しぶりではないわけなんだが、ちょっと待て、俺、今、混乱してる
─分かった。お兄ちゃんが混乱してる間に、私は覚悟を決める
─は?え?何?何の覚悟決めるのかな?セリナさん?
─私、今日から男になる
─は?
─逃げるんだよね?これから二人で生きてくんだよね?
─あ、うん、まぁ?その予定ではありますが、
─じゃあ、男になる。お兄ちゃん、…兄さんの足手まといにならないよう、今日から男になるから
─え、ちょっと待て、セリナ、
─セリ
─は?
─今日から、私はセリだから
(…いや、やっぱ、今思い出してみても、何でそういう結論になんのか…)
我が妹ながら、思考が時々おかしな方向に飛ぶというか、変に思い切りが良いというか。
(セリは、俺のこと、手がかかるって思ってそうだけど。セリの方がよっぽど…)
「…セリってさぁ、たまに意味不明な行動とる時あんだろ?」
「ほんと、それなっ!」
自分の思いを代弁してくれたルキに全力で同意する。
「えー!?セリちゃん、とっても分かりやすいじゃない☆まさに恋する、」
「よーし!おーけー!そこまでだっ!」
「ふふふふ。」
(っこいつ!態とっ!?)
セリとルキの仲を応援しているつもりなのか何なのか、アウトギリギリのところを攻めてくるエルの笑顔が黒い。応援する気持ちは本物なのだとしても、本人が全力で楽しんでいる。
「…セリって、好きな女がいんの?」
「ッグゥッ!?」
「…なんて声出してんだよ、シオン。…なに?セリが惚れてるのって、そんなヤバい女なわけ?」
「っ!?それはっ…」
セリの好きな男本人が不機嫌そうに聞いてくるから、言葉に詰まった。その隙をエルにつかれ─
「ルキー、駄目だよー。セリちゃんが好きなのが女の子だって決めつけるのは☆」
「は?」
「僕と同じ可能性もあるんだから、相手は男の子☆かもよ?」
「…まさか、お前ら…」
「あー!ないない!それは無いからね?僕とセリちゃんは純粋なお友達☆んー、僕にとっては、大事ないもう、」
「っだっしゃあ、らー!?」
「…シオン、お前、本当、どうしたんだよ。のぼせたんだったら、さっさと上がれ?」
心配そうに言ってくるルキには悪いが、爆笑しているエルとルキをここで二人きりにするわけにはいかない。
(のぼせようが、茹ろうが!)
兄として、妹の秘密は全力で守った。
宿泊を決めた宿の大浴場、男三人という色気の無さではあるけれど、つかる湯の心地よさに前世日本人の魂が「極楽極楽」と叫んでいる。
(…セリは、どうしてっかなー。)
一人置いて来た妹のことが、頭をかすめる。
(…夜中、混浴の方でも連れてってやるか。俺が見張りに立って…)
溶けそうな脳でそんなことを考えていたら─
「…シオン、あのさ、セリって、身体、何か傷あるとかそういう、…どっか悪いのか?」
「は?…え?無いけど?何で?」
突然のルキの言葉に、脳が覚醒した。
「んー、いや、温泉入んないってのもそうだけど、そういや、野宿ん時とか、川入るのも嫌がんなーっと思って。」
「あー。」
鋭いのか鈍いのか。セリのことを良く見ているくせに、肝心なところには気づいていない様子のルキに笑う。
「セリのあれは、そういうんじゃないよ。まぁ、なんていうか…」
本当、なんていうか迷う。
(え?あれ、何て言おう?これ、どうやって誤魔化せば…)
焦る状況に、助け船?らしきものを出してくれたのはエルだった。
「セリちゃんは魔導師だからね☆」
「は?なに?魔導師だと何かあんの?」
「魔導師のローブの下は秘密がいっぱい☆だから、ローブを脱ぐのが嫌なんだよ!」
「へー、俺、それ、初めて聞いたわ。」
(いや、確実に嘘だろ…)
ルキはたまに馬鹿、…正直だと思う。
「だから、ルキも、セリちゃんのローブ、無理やり脱がせたりしちゃ駄目だよ☆」
「しねぇーよ!」
セリの性別を知っていて、際どいセリフを吐くエルが悪い顔をして笑っている。
(セリのあの恰好もなぁ…)
兄として、思うところはまぁまぁある。
(前…、前世ではあそこまでは無かったんだけど。何をどうやって、ああいう結論になったのか。)
思い出すのは子どもの頃、こちらの世界の親を亡くして放り込まれた孤児院があまりにもアレだったので、セリを連れて逃げ出そうとした時のこと─
─…お兄ちゃんは、「お兄ちゃん」なの?
─ん?え?なになに?禅問答?俺、これからセリナ連れて決死の脱走試みるところなんだけど。話なら後で、
─オオサキハルト
─っ!?
─…やっぱり、お兄ちゃんは「お兄ちゃん」なんだ
─…セリナ、…サヤカ、なのか?
─うん。…久しぶり、お兄ちゃん
─え?いや、え?久しぶりではないわけなんだが、ちょっと待て、俺、今、混乱してる
─分かった。お兄ちゃんが混乱してる間に、私は覚悟を決める
─は?え?何?何の覚悟決めるのかな?セリナさん?
─私、今日から男になる
─は?
─逃げるんだよね?これから二人で生きてくんだよね?
─あ、うん、まぁ?その予定ではありますが、
─じゃあ、男になる。お兄ちゃん、…兄さんの足手まといにならないよう、今日から男になるから
─え、ちょっと待て、セリナ、
─セリ
─は?
─今日から、私はセリだから
(…いや、やっぱ、今思い出してみても、何でそういう結論になんのか…)
我が妹ながら、思考が時々おかしな方向に飛ぶというか、変に思い切りが良いというか。
(セリは、俺のこと、手がかかるって思ってそうだけど。セリの方がよっぽど…)
「…セリってさぁ、たまに意味不明な行動とる時あんだろ?」
「ほんと、それなっ!」
自分の思いを代弁してくれたルキに全力で同意する。
「えー!?セリちゃん、とっても分かりやすいじゃない☆まさに恋する、」
「よーし!おーけー!そこまでだっ!」
「ふふふふ。」
(っこいつ!態とっ!?)
セリとルキの仲を応援しているつもりなのか何なのか、アウトギリギリのところを攻めてくるエルの笑顔が黒い。応援する気持ちは本物なのだとしても、本人が全力で楽しんでいる。
「…セリって、好きな女がいんの?」
「ッグゥッ!?」
「…なんて声出してんだよ、シオン。…なに?セリが惚れてるのって、そんなヤバい女なわけ?」
「っ!?それはっ…」
セリの好きな男本人が不機嫌そうに聞いてくるから、言葉に詰まった。その隙をエルにつかれ─
「ルキー、駄目だよー。セリちゃんが好きなのが女の子だって決めつけるのは☆」
「は?」
「僕と同じ可能性もあるんだから、相手は男の子☆かもよ?」
「…まさか、お前ら…」
「あー!ないない!それは無いからね?僕とセリちゃんは純粋なお友達☆んー、僕にとっては、大事ないもう、」
「っだっしゃあ、らー!?」
「…シオン、お前、本当、どうしたんだよ。のぼせたんだったら、さっさと上がれ?」
心配そうに言ってくるルキには悪いが、爆笑しているエルとルキをここで二人きりにするわけにはいかない。
(のぼせようが、茹ろうが!)
兄として、妹の秘密は全力で守った。
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