異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~

リコピン

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後日談

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散々、醜態を晒してしまった後、「久しぶりに帰ってきたんだ、一杯付き合え」とユーグを連れ出そうとしたドルンさんについてやってきた月兎つきうさぎ亭。どうやら先に一度ここに来ていたらしいドルンさんのために、トキさんが集めていたメンバーを見て驚いた。全員が、顔なじみのくろがねの牙の団員で―

「え!ドルンさんて、あのドルンさんだったんですか!?」

「あ?どの俺だよ?」

カウンター席でグラスを傾けながら笑うドルンさん。彼の目じりの皺がセクシーだと思いながら、「なるほど」と納得した。ユーグのことを昔から知っているような口ぶりで、団長であるユーグに砕けた態度をとっていた彼が、鉄の牙最古参の一人であるドルンさん。ダグさんの盟友だったという―

「…あの、お名前だけはかねがね…」

「ああ、団に所属しながら国中フラフラしてる放蕩者だってか?」

「…まぁ。」

否定はしない。トキさん辺りはもっと辛辣な言い方をしていたし。

(でも、それも「しょうがない人なんだ」って、凄く楽しそうに笑って言ってたんだけど。)

さっきから次々に挨拶に来る団の人たちの態度や、トキさんが用意する今まで見たことのない料理、それをドルンさんが嬉しそうに食べてる様子を見ていれば、彼が「どうしようもない人」という評価で、でも慕われているんだなってのが伝わってくる。

(うん、トキさんがツンデレに見える。)

カウンター越しの二人の会話を横から楽しんでいれば、

「で?今回は何で帰って来たんですか?」

トキさんの、ちょっと突き放したような言い方。それにも、ドルンさんは笑って答えた。

「ああ。団を辞めようと思ってな。」

「は?」

驚いたトキさんの声、私も、いきなりの宣言に内心驚いていたけれど、ドルンさんはしてやったりの顔を浮かべて、

「足をやっちまったんだよ。…傭兵としては致命的なやつ。」

「…いつ?」

「先月、王都の方ででっかい捕り物やってたんで、ちょっと首突っ込んでみたんだが、…まぁ、失敗した。」

言って、肩をすくめておどけて見せるドルンさんに悲壮感はない。だけど―

「…辞めて、どうするつもりです?」

「んなの、決まってんだろうがよ。金が尽きるまでは飲んだくれて、後はまた、好きなようにその辺フラフラするさ。」

「…」

黙ってしまったトキさん。隣で聞いてたはずのユーグも、何も言わない。

そのまま、「あいつらにも挨拶してくるわ」と言って席を立ったドルンさんの背中を見送ってから、口を開いた。

「あの、傭兵の引退後って…」

言っていて、自分でもいい想像はできないそれを、トキさんに尋ねれば、

「…傭兵なんてのはほとんどが仕事中、戦闘中に死んでいくようなものなんだよ。怪我で引退しても、結局、できることなんて限られてるから、無理をして死ぬ、とかね?」

「…」

「後は、金が尽きての野垂れ死に、かな?」

冷めたようなトキさんの口ぶりに、これが彼らの世界での「当たり前」なんだということが分かる。

(…前に、お金を貯めるっていう考え方もないって言ってたな。)

だけど―

黙ってしまったトキさんの手はさっきから止まったまま。視線がドルンさんを追っている。

(…心配なら、心配だって言えばいいのに。)

それが、傭兵団らしくない思考で、ドルンさんの傭兵としての誇りを傷つけるのだとしても。

(私は、嫌だ。)




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