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後日談

1-4 Side T

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「…で、今度は一体なんなの?」

ほんの少し、店を開けただけ。その短時間に、何故こうも頻繁に問題を起こすことができるのか。頭痛のする事態に思いっきり嘆息する―

「…アセナ、君が帰ってきてたのは知らなかったけど、…君、ここで何してるの?」

「私は…」

「えっと、トキさん、彼女はその、私の銀行口座の件で、ちょっと誤解があって。あ、でも、もう、ちゃんと話し合ったので、それは…」

「そう。…じゃあ、ガット、ルナール、お前達が俺を呼び戻した理由は?」

「…」

「…」

店の隅、互いに目配せしながら、役目を押し付け合う二人を見据える。

「俺の用事を邪魔してまで呼び戻した理由がちゃんとあるんだな?団の伝達鳥を使ってまで呼び戻した理由が?」

「っ!?」

「それはっ!」

多分に私情が混じっている自覚はあるが、忙しいこの時期、やっと取れた時間に成すべきことは山ほどある。いくら時間があっても足りないと思っているというのに。それを-

その思いを、二人に向けた視線に込めれば、

「やっ!違うんっすよ!?俺らじゃなくてクロエがっ!てか、俺らの手に負える問題じゃなくて!」

「…本当に、この人、何で知らないのか、というか、何で気付かないのか。本当、意味がわからないんです。」

「つって、俺らが教えて良いもんかもわかんねぇし、だから、トキさんに頼るしか…」

「…」

どうやら―珍しいことに―本当に困り果てているらしい二人の姿に、抱えた怒りをどうにか飲み込んだ。改めて、彼らの言葉の意味を問いただす。

「…それで、クロエが何を知らないって?」

「…」

「…この人、『自分は団長の番じゃない』って言ったんです。」

「…」

「…」

「…ん?あれ、ごめん、幻聴かな。もう一回、言ってくれる?」

「トキさん、幻聴じゃないっすよ。こいつ、全く自覚無しっす。てか、団長も何で言ってないんすかね?」

「…」

束の間も、現実を逃避させてくれない言葉に、クロエの方へと視線を向ける。一瞬、身を震わしたように見えたクロエ。

「えと、トキさん…。今の話の流れからすると、もしかして…」

「…」

期待と不安と。揺れる眼差しに両方を乗せた彼女に、何と言ってやるべきか。

(…というか、本当に、何で本人が何も言ってないの。)

彼女をとらえた男が、未だにその事実を伝えていなかったことに驚くが、

(いや、でも、ユーグだからな…)

「そういう可能性もある」ということに思い至るべきだったのかもしれない。そして恐らく、これから先もあの男がそれを口にすることはないのだろう。

だったらー

「…そうだよ。」

「!」

「クロエは、ユーグの番。あいつの半身だ。」

「っ!」

語ることをしない男の代わりに告げた真実に、途端、声もなく涙を流し始めたクロエ。

(…これは、泣いちゃうんだ。)

どれだけ怯え不安を覗かせようと涙を流すことはしない彼女が、それでも、ユーグに関してだけは容易く涙を見せる。

止めどなく溢れる雫が、クロエの頬を伝う。その姿を、綺麗だと思った。彼女の見せる感情の美しさ。追い詰められるほどにユーグを想う気持ちの発露。

「っ、わ、私っ!」

嗚咽混じりに何かを言おうとし、失敗したクロエの顔がクシャリと歪む。

「私、ずっと、ずっと、怖くて!ユーグが、ユーグに、いつか、番が見つかって、私はもう要らないって、そう言われたら、どうしようってっ!」

「うん…」

「よか、良かった。わた、私、ずっと、ユーグとずっと一緒に居られる、居て良いってこと…、良いんですよね?」

「うん。…居てあげてよ。」

「っ!」

とうとう、本気で泣き出した彼女の肩に触れる。他のおとこの番に接するには、少し、近すぎる距離で。

(…本当に、可哀想な子。)

人間は、本能で番を選ぶ獣人とは違う。唯一と定めたつもりで心変わりするのが人間という生き物だから。

(…だから、獣人の番っていうのは、人間にとっては不幸でしかないと思うんだけどね…)

それに気づかず、己を捕らえる檻を恋しいと言って泣くクロエ。そんな彼女が自身の不幸を知らぬまま檻の中に居続けることを願ってしまう自分も、大概だとは思うけれどー

(ま、結局はユーグ次第ってことだよね…)

捕らえた檻で、どれだけ彼女を満たせるか。逃げ出すことなど思いつきもしないくらいに、愛せばいい-



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