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後日談
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無事、運営費を運営できるようになって一安心したのも束の間、今度は別の問題があることに気づいてしまった。
「…トキさん、雑費って、本当に少額、これは小口現金で対処できてしまうのでは…」
「うん。そうなんだよね。」
カウンターの中、夜の店の仕込みをしながら、トキさんが苦笑する。
「昔は、団への依頼の度に家壊したり、家畜殺しちゃう馬鹿がいて、その割に納入品とかは買取価格下がるようなものしか納入できなかったもんだから、補償やら補填やらが大変だったんだけど…」
「…」
「最近はそういうことも減って、まともに仕事できてるからね。大きなお金が必要になるのは、たまに、かな。」
「それは…、努力、されたんですね…?」
「うん、しっかり教育したから。」
「…」
そうか、トキさんが教育したのか。誰かな、ガットやルナールだろうか。
「…えと、じゃあ、この大金、どうします?こんなに貯めててもどうしようもないというか、不安になるというか。」
「クロエの好きにしていいよ。」
「え!?」
「大きな買い物してもいいし、みんなに還元してもいいし。…クロエなら、そう悪い使い方はしないでしょう?」
「…それは、ちょっと、プレッシャーですけど。」
でも、それだけ信頼してもらえているということが嬉しくて、
「…何か、考えてみます。」
皆のためにできることを。
「ガットとルナールは、同い年なんだよね?団に入ったのも同時だった?」
「あ?んだ、いきなり?」
「うん。ちょっとした情報収集といいますか…」
お金の使い道について、ボンヤリとだけれど、思い付いたことがある。ただ如何せん、団のみんなについての情報が少なすぎる。先ず、そこを何とかせねばと、手始めに、遅い昼食を取りに来た若者三人に声をかけるところから始めてみた。
「それで?二人って同期?どっちかが先輩?」
「俺だな!俺が先だった!俺のが上!」
「…三日くらいの違いでしょ?誤差みたいなもんだよ。」
「同期かぁ。えと、今、二人とも十七でしょ?団に入って何年目?」
「三年目。…入った時、確かまだ十五だったから。」
「へぇ…」
こちらの世界では、大体、十五前後で成人と見なされている。多分、法律があるわけではないし、それよりもっと早く働き始めている人も大勢いるから、大体、という大雑把なくくりになってしまうけれど。
「あれ…?うちの団って、年齢制限ってあるの?何歳以下はダメ、とか。」
「無いんじゃねぇの?」
「聞いたことないね。…入りたいと思った奴はトキさんに声かけて、団長とトキさんが『戦える』って判断すれば入れる、って感じだからね。」
「へぇ…」
鉄の牙は少数精鋭―今、団員は全部で十六人―だから、もっと厳しい入団条件なんかがあるのかと思っていた。
「…俺らん時は、あれだったなぁ。トキさんが仕掛けた全力の罠屋敷から、三日以内に脱出すりゃぁ、入れてもらえるっつー…」
「…十回くらい死んだと思ったよね。」
「…」
全然、厳しかった。
「ボ、ボルドは?ボルドが入団したのは一番最近、だよね?」
一人、黙々と肉を頬張っていたボルドに話を振れば、
「…付与魔法有りで、魔の森に三日間。」
「三日!それは確かに、付与魔法がないと厳しいね。」
「…攻撃力低下の付与魔法だった。」
「…」
滅茶苦茶、厳しかった。
(え?鬼なの?うちの旦那と旦那の友人は鬼か何かなの?)
戦慄の事実にガチ目に引いてしまっていたら、「トキさんはちゃんと付き添ってくれた」、「万が一の時は助けてもらえた」という、一応のフォローが入ったので、うん、まあ―
「ていうかさぁ、そんなのトキさんに聞きなよ。トキさんなら全部知ってんだし、一発で答えてくれるでしょ?」
「うん、そうなんだけど、…トキさんは只今、とてもお忙しい身なので。」
「…ああ。」
近づいてくる季節にソワソワしている可愛いウサギさんの時間を、これ以上、拘束するわけにはいかない。今日も、夜のお店の開店までの僅かな時間を縫って、何やら春の準備に奔走しているのだから。
「あ。そうだ。それとね、ちょっと三人の意見が聞きたいというか、」
「?」
「できれば、君たちのマネー教育にも踏み出したいと思ってるんだけど、」
「…なに?」
訝しむ四つと、きょとんが可愛い二つの瞳に見つめられ、「さぁ、それでは、私の壮大な計画を聞いてもらおうか!」と意気込んだところで、ガットとルナールの顔色が変わった。立ち会がる彼らの姿に、いつか見た光景だと思いながらも、彼らの視線の先を追う。
勢いよく開け放たれた店の扉、飛び込んできたのは―
「…トキさん、雑費って、本当に少額、これは小口現金で対処できてしまうのでは…」
「うん。そうなんだよね。」
カウンターの中、夜の店の仕込みをしながら、トキさんが苦笑する。
「昔は、団への依頼の度に家壊したり、家畜殺しちゃう馬鹿がいて、その割に納入品とかは買取価格下がるようなものしか納入できなかったもんだから、補償やら補填やらが大変だったんだけど…」
「…」
「最近はそういうことも減って、まともに仕事できてるからね。大きなお金が必要になるのは、たまに、かな。」
「それは…、努力、されたんですね…?」
「うん、しっかり教育したから。」
「…」
そうか、トキさんが教育したのか。誰かな、ガットやルナールだろうか。
「…えと、じゃあ、この大金、どうします?こんなに貯めててもどうしようもないというか、不安になるというか。」
「クロエの好きにしていいよ。」
「え!?」
「大きな買い物してもいいし、みんなに還元してもいいし。…クロエなら、そう悪い使い方はしないでしょう?」
「…それは、ちょっと、プレッシャーですけど。」
でも、それだけ信頼してもらえているということが嬉しくて、
「…何か、考えてみます。」
皆のためにできることを。
「ガットとルナールは、同い年なんだよね?団に入ったのも同時だった?」
「あ?んだ、いきなり?」
「うん。ちょっとした情報収集といいますか…」
お金の使い道について、ボンヤリとだけれど、思い付いたことがある。ただ如何せん、団のみんなについての情報が少なすぎる。先ず、そこを何とかせねばと、手始めに、遅い昼食を取りに来た若者三人に声をかけるところから始めてみた。
「それで?二人って同期?どっちかが先輩?」
「俺だな!俺が先だった!俺のが上!」
「…三日くらいの違いでしょ?誤差みたいなもんだよ。」
「同期かぁ。えと、今、二人とも十七でしょ?団に入って何年目?」
「三年目。…入った時、確かまだ十五だったから。」
「へぇ…」
こちらの世界では、大体、十五前後で成人と見なされている。多分、法律があるわけではないし、それよりもっと早く働き始めている人も大勢いるから、大体、という大雑把なくくりになってしまうけれど。
「あれ…?うちの団って、年齢制限ってあるの?何歳以下はダメ、とか。」
「無いんじゃねぇの?」
「聞いたことないね。…入りたいと思った奴はトキさんに声かけて、団長とトキさんが『戦える』って判断すれば入れる、って感じだからね。」
「へぇ…」
鉄の牙は少数精鋭―今、団員は全部で十六人―だから、もっと厳しい入団条件なんかがあるのかと思っていた。
「…俺らん時は、あれだったなぁ。トキさんが仕掛けた全力の罠屋敷から、三日以内に脱出すりゃぁ、入れてもらえるっつー…」
「…十回くらい死んだと思ったよね。」
「…」
全然、厳しかった。
「ボ、ボルドは?ボルドが入団したのは一番最近、だよね?」
一人、黙々と肉を頬張っていたボルドに話を振れば、
「…付与魔法有りで、魔の森に三日間。」
「三日!それは確かに、付与魔法がないと厳しいね。」
「…攻撃力低下の付与魔法だった。」
「…」
滅茶苦茶、厳しかった。
(え?鬼なの?うちの旦那と旦那の友人は鬼か何かなの?)
戦慄の事実にガチ目に引いてしまっていたら、「トキさんはちゃんと付き添ってくれた」、「万が一の時は助けてもらえた」という、一応のフォローが入ったので、うん、まあ―
「ていうかさぁ、そんなのトキさんに聞きなよ。トキさんなら全部知ってんだし、一発で答えてくれるでしょ?」
「うん、そうなんだけど、…トキさんは只今、とてもお忙しい身なので。」
「…ああ。」
近づいてくる季節にソワソワしている可愛いウサギさんの時間を、これ以上、拘束するわけにはいかない。今日も、夜のお店の開店までの僅かな時間を縫って、何やら春の準備に奔走しているのだから。
「あ。そうだ。それとね、ちょっと三人の意見が聞きたいというか、」
「?」
「できれば、君たちのマネー教育にも踏み出したいと思ってるんだけど、」
「…なに?」
訝しむ四つと、きょとんが可愛い二つの瞳に見つめられ、「さぁ、それでは、私の壮大な計画を聞いてもらおうか!」と意気込んだところで、ガットとルナールの顔色が変わった。立ち会がる彼らの姿に、いつか見た光景だと思いながらも、彼らの視線の先を追う。
勢いよく開け放たれた店の扉、飛び込んできたのは―
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