上 下
47 / 56
後日談

1-2

しおりを挟む
無事、運営費を運営できるようになって一安心したのも束の間、今度は別の問題があることに気づいてしまった。

「…トキさん、雑費って、本当に少額、これは小口現金で対処できてしまうのでは…」

「うん。そうなんだよね。」

カウンターの中、夜の店の仕込みをしながら、トキさんが苦笑する。

「昔は、団への依頼の度に家壊したり、家畜殺しちゃう馬鹿がいて、その割に納入品とかは買取価格下がるようなものしか納入できなかったもんだから、補償やら補填やらが大変だったんだけど…」

「…」

「最近はそういうことも減って、まともに仕事できてるからね。大きなお金が必要になるのは、たまに、かな。」

「それは…、努力、されたんですね…?」

「うん、しっかりしたから。」

「…」

そうか、トキさんが教育したのか。誰かな、ガットやルナールだろうか。

「…えと、じゃあ、この大金、どうします?こんなに貯めててもどうしようもないというか、不安になるというか。」

「クロエの好きにしていいよ。」

「え!?」

「大きな買い物してもいいし、みんなに還元してもいいし。…クロエなら、そう悪い使い方はしないでしょう?」

「…それは、ちょっと、プレッシャーですけど。」

でも、それだけ信頼してもらえているということが嬉しくて、

「…何か、考えてみます。」

皆のためにできることを。






「ガットとルナールは、同い年なんだよね?団に入ったのも同時だった?」

「あ?んだ、いきなり?」

「うん。ちょっとした情報収集といいますか…」

お金の使い道について、ボンヤリとだけれど、思い付いたことがある。ただ如何せん、団のみんなについての情報が少なすぎる。先ず、そこを何とかせねばと、手始めに、遅い昼食を取りに来た若者三人に声をかけるところから始めてみた。

「それで?二人って同期?どっちかが先輩?」

「俺だな!俺が先だった!俺のが上!」

「…三日くらいの違いでしょ?誤差みたいなもんだよ。」

「同期かぁ。えと、今、二人とも十七でしょ?団に入って何年目?」

「三年目。…入った時、確かまだ十五だったから。」

「へぇ…」

こちらの世界では、大体、十五前後で成人と見なされている。多分、法律があるわけではないし、それよりもっと早く働き始めている人も大勢いるから、大体、という大雑把なくくりになってしまうけれど。

「あれ…?うちの団って、年齢制限ってあるの?何歳以下はダメ、とか。」

「無いんじゃねぇの?」

「聞いたことないね。…入りたいと思った奴はトキさんに声かけて、団長とトキさんが『戦える』って判断すれば入れる、って感じだからね。」

「へぇ…」

くろがねの牙は少数精鋭―今、団員は全部で十六人―だから、もっと厳しい入団条件なんかがあるのかと思っていた。

「…俺らん時は、あれだったなぁ。トキさんが仕掛けた全力の罠屋敷から、三日以内に脱出すりゃぁ、入れてもらえるっつー…」

「…十回くらい死んだと思ったよね。」

「…」

全然、厳しかった。

「ボ、ボルドは?ボルドが入団したのは一番最近、だよね?」

一人、黙々と肉を頬張っていたボルドに話を振れば、

「…付与魔法有りで、魔の森に三日間。」

「三日!それは確かに、付与魔法がないと厳しいね。」

「…攻撃力低下の付与魔法だった。」

「…」

滅茶苦茶、厳しかった。

(え?鬼なの?うちの旦那と旦那の友人は鬼か何かなの?)

戦慄の事実にガチ目に引いてしまっていたら、「トキさんはちゃんと付き添ってくれた」、「万が一の時は助けてもらえた」という、一応のフォローが入ったので、うん、まあ―

「ていうかさぁ、そんなのトキさんに聞きなよ。トキさんなら全部知ってんだし、一発で答えてくれるでしょ?」

「うん、そうなんだけど、…トキさんは只今、とてもお忙しい身なので。」

「…ああ。」

近づいてくる季節にソワソワしている可愛いウサギさんの時間を、これ以上、拘束するわけにはいかない。今日も、夜のお店の開店までの僅かな時間を縫って、何やら春の準備に奔走しているのだから。

「あ。そうだ。それとね、ちょっと三人の意見が聞きたいというか、」

「?」

「できれば、君たちのマネー教育にも踏み出したいと思ってるんだけど、」

「…なに?」

訝しむ四つと、きょとんが可愛い二つの瞳に見つめられ、「さぁ、それでは、私の壮大な計画を聞いてもらおうか!」と意気込んだところで、ガットとルナールの顔色が変わった。立ち会がる彼らの姿に、いつか見た光景だと思いながらも、彼らの視線の先を追う。

勢いよく開け放たれた店の扉、飛び込んできたのは―



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】スクールカースト最下位の嫌われ令嬢に転生したけど、家族に溺愛されてます。

永倉伊織
恋愛
エリカ・ウルツァイトハート男爵令嬢は、学園のトイレでクラスメイトから水をぶっかけられた事で前世の記憶を思い出す。 前世で日本人の春山絵里香だった頃の記憶を持ってしても、スクールカースト最下位からの脱出は困難と判断したエリカは 自分の価値を高めて苛めるより仲良くした方が得だと周囲に分かって貰う為に、日本人の頃の記憶を頼りにお菓子作りを始める。 そして、エリカのお菓子作りがエリカを溺愛する家族と、王子達を巻き込んで騒動を起こす?! 嫌われ令嬢エリカのサクセスお菓子物語、ここに開幕!

【完結】親に売られたお飾り令嬢は変態公爵に溺愛される

堀 和三盆
恋愛
 貧乏な伯爵家の長女として産まれた私。売れる物はすべて売り払い、いよいよ爵位を手放すか――というギリギリのところで、長女の私が変態相手に売られることが決まった。 『変態』相手と聞いて娼婦になることすら覚悟していたけれど、連れて来られた先は意外にも訳アリの公爵家。病弱だという公爵様は少し瘦せてはいるものの、おしゃれで背も高く顔もいい。  これはお前を愛することはない……とか言われちゃういわゆる『お飾り妻』かと予想したけれど、初夜から普通に愛された。それからも公爵様は面倒見が良くとっても優しい。  ……けれど。 「あんたなんて、ただのお飾りのお人形のクセに。だいたい気持ち悪いのよ」  自分は愛されていると誤解をしそうになった頃、メイドからそんな風にないがしろにされるようになってしまった。  暴言を吐かれ暴力を振るわれ、公爵様が居ないときには入浴は疎か食事すら出して貰えない。  そのうえ、段々と留守じゃないときでもひどい扱いを受けるようになってしまって……。  そんなある日。私のすぐ目の前で、お仕着せを脱いだ美人メイドが公爵様に迫る姿を見てしまう。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

処理中です...