異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~

リコピン

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最終章 望まぬ再会と望んだ未来

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一時いっときの恥ってものは無いと思う。本当に恥ずかしい思いをしたら、それはもう、夜中に思い出して「あ“ー!」って言いたくなる類いの黒歴史、もう、自分の中だけでは一生の恥だから。

だけど、それでも、それがわかっていても、避けては通れないものっていうのは人生の中に確実に存在していて、つまり、だから―

(みんなにどんな顔して会えばいいのっ!?)





一週間の(強制)お篭り生活で爛れた毎日を過ごした後、起きたらユーグが居なかったという状況。身支度を済ませて階下に降りようとして、はたと気づいた。

(え?これ、みんなに会って何て言うの?挨拶…、第一声は?)

時間は深夜、まではいかない一歩手前、お店はもう閉めてるはずだけど、トキさんはまだ確実にいるだろう時間。ガット達は―

(…どうだろう。ご飯食べに来てたとしても、もう帰ってる?)

紳士なトキさんだけならまだ何とかなると、一縷の望みをかけて階段を下りた。





「…」

「…」

「…」

「…」

(っ!居たたまれないから!何か言って!)

向けられた四者四様の視線。生温いものから、呆れやらドン引きやら、その中でも、

(ボルドの!ボルドの、労りの視線が一番居たたまれない!)

「…クロエは、ご飯ちゃんと食べれた?何か、お腹に入れる?」

「いえ、あの。お腹は。…飲み物だけください。」

「うん。ちょっと持っててね?」

優しいトキさんの、「疲労回復にいいもの作るから」と続いた言葉は聞こえかったことにする。

「…ここ、座んなよ。」

「…ありがとう。」

ルナールが、席を譲ってくれた。ユーグの隣。嬉しいんだけど、その親切は有難いんだけど、今は、ちょっと、並んで座らされるのは。

再びの居たたまれなさに、絶賛もじもじタイムに入ろうとしたところで、

「…そう言えば、気になってたんですけど。」

沈黙を破るようにして、ルナールが話題を提供してくれた。これは合コンでモテるタイプだと、ルナールの評価を上方修正しておく。

「さっきトキさんの言ってた、『ダグさんのため』ってどういう意味だったんですか?」

「ああ。」

途中参加者の宿命、話題についていけない私は話の聞き役に徹するつもりでいたけれど、

「うーん、でも、それは俺が勝手に思い込んでただけだから。」

「?」

トキさんの視線がこちらを確認してくる。

「君とユーグの馴れ初めの話だよ。ハルハテで会ったっていう。」

「ああ!」

思い出した。そう言えば、マリーヌに思いっきり毒を注がれて、かなり凹まされていたんだった。マリーヌが言っていた「ダグの夢だった」という話に繋がる話かと、トキさんに前のめりで迫る。

「私も聞きたいです!その話!」

「え。でも…本当に俺の思い込みだったんだよ?」

「はい。でも、その、ダグさんのことも知りたいですし。」

私はもう、一週間前の私とは違う。一週間かけて、それはもう何というか、ちょっと無理かもってくらいにはユーグに惜しみない愛情を注がれ、認識を改めざるを得なかった、まさに、Newクロエ。恐れるものなど―皆への第一声を済ました今は―何も無いと言える。

そんなこちらの意志を汲み取ってくれたらしいトキさんが、それでも、ちょっとだけ躊躇ってから口を開いた。

「…ダグは、クロエと同じ、ハルバナル地方出身で、ハルハテの『妻乞つまごい』を知っていて、…それに、俺やユーグを行かせたがってたんだ。」

「え?トキさんもだったんですか?」

「うん。俺がつがいを見つけてからは、標的はユーグだけになったけどね。…ユーグのために、あの、ガランテ?だっけ?あれも用意してたくらいで。」

「え!あのガランテ、ダグさんが用意されたものだったんですか!?」

「うん。骨組み、土台部分だけね。」

横から、「ガランテって何?」と聞いてくるルナール達にその説明をしながら、ユーグのガランテが伝統に則り、彼の「家族」が用意したものだったということに小さな感動を覚えていた。ユーグの幸福を願って用意されたガランテ、それを―

隣に座るユーグの横顔を見つめる。

「…わざわざ、運んだの?ハルハテまで?」

「…バラしてな。」

それでも、あんなかさばるものを遥々運んで、それをまた一人組み立てて、飾りつけたのだと思うと、心の奥、込み上げてくるものがある。

「…」

「…はなむけだ。」

そう言って弛んだ眼差しに、心臓がきゅんとした。ユーグがどれだけダグさんを大切に思っていたのかを知れば、私たちの結婚の理由がダグさんの遺志によるものだとしても、もう、それでいいと思えてきた。

それに、そもそも、ユーグがハルハテに来たこと自体がダグさんの遺志によるものなのだから、私は彼に感謝をするべきなのだ。

(ユーグに出会わせてくれて、ありがとうございます!)

心からのお礼を言って、トキさんの作ってくれたグラスに口をつける。そうして、今、ユーグの隣に居られる幸運を嚙み締めていれば、

「…なぁ。ちょっと、すげぇ気になる、ってか、いや、想像つかねぇんだけどさ。」

ガットが言いにくそうに、だけど、我慢できない感じで聞いてきた。

「そのさ、飾りって、花飾んだろ?…団長が?花?」

「ああ。」

確かに、それはちょっと、私の想像力でもかなり難しい範囲だと思って笑った。

「違うよ。ユーグのはね、何か、もっとこう、うん、渋かった。」

「…渋かったってなに?」

ルナールの問いに、言葉を選んで回答する。

「えっと、もっと大人っぽい色使い?暗色が多かったっていうか。」

「…花じゃないよね、それ。具体的に何。何の色なわけ?」

これ以上の誤魔化しは無理かと、ユーグのガランテに飾られていた斬新な装飾の数々を思い出してみる。脳裏に焼き付いて、今でもはっきりと思い出せる彼のガランテ。

「…確か、これくらいの灰色の石で、白の模様?こんな感じのが書かれていたのと、」

「え…?」

空中に模様を描きながら説明する。

「あとは、茶色の毛皮で、内側が銀に近い灰色ものとか。」

「え…?」

「まあ、ちょっと、独特ではありましたけど、って、トキさん?」

ガランテの装飾には似つかわしくない石やら毛皮やらの説明に驚いているのだろうかと、先ほどから珍しく驚きの声を上げているトキさんに視線を向けて、こっちが驚いた。

「え?あの?トキさん?」

「…」

完全に顔色を失っているトキさんに焦る。

「トキさん、どうしたんですか?私、何か、」

星状せいじょう石に、氷結熊の毛皮…」

「はっ!?」

「え…?」

トキさんの呟きに、今度は青少年三人が絶句した。その意味がわからずにユーグを見るが、こちらは全くの平常運転。つまり、我関せずの無表情で―

「クロエ!その石と毛皮!どうしたの!?今どこにある!?」

「え?え?」

トキさんの叫びに慌ててみんなを見回せば、こちらは引き気味な反応を見せている。

「え?なに?どういうこと?これ、どういう反応なの?」

「…あんたも、相当、抜けてるってか、無知だよね。」

ヤレヤレみたいな態度で怖いことを言うルナール。ガットまでが、怒りというより呆れを見せて―

「今、お前が言ったそれ、かなりのレア素材だぞ?」

「家一軒、…二軒は建つね。」

「!?」

信じられない言葉に、今度こそ、思いっきりユーグを振り向いて凝視する。

(だって、だって、あれって確か…)

ユーグはあれを―

「…あの、使用済みのガランテは、焚き上げ、…一か所にまとめて焼いちゃう、んです、けど…」

「!?」

絶句したトキさんの顔をまともに見れない。もう、本当にどうしたら良いのか。

責める視線で、ユーグの横顔を見つめ続ければ―

「…餞だ。」

そう言ったユーグの口元が緩く、笑みを刻んで見えた。




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