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最終章 望まぬ再会と望んだ未来

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魔物の最後の一頭が倒れ、討伐隊から張り詰めた空気が消えた。

町中から歓声が上がる。無事を喜び合う人達に、討伐隊のメンバーが次々に囲まれていく。興奮冷めやらぬ彼らの周りには、頬を染め、瞳を輝かせた女性達の姿。言葉を交わし、触れ合い、抱き締め合う。

遠目に、数人の女性がユーグへと近づいていく光景を眺める。

(ああ、これが…)

マリーヌの言っていた、討伐隊を待っていた彼女達が望むもの。

(…ユーグ。)

ずっと、紫紺が向けられている。

なのに、あの場所、ユーグに駆け寄っていけないのは何故なんだろうー

(ユーグ。)

どうしても、音に出来ない彼の名前、何度も呼んでるのに。

それでも、聞こえないはずの彼の名に、ユーグがこちらへ向かって歩き出した。真っ直ぐに、逸らされない眼差しのまま。

彼の隣、置いていかれまいとして伸ばされた女性の手が、次の瞬間には、乱暴に振り払われる。

「…どけ、邪魔だ。」

(っ!)

安堵するはずの場面、女性を追い払うユーグに安心して、良かったと、そう思うべきなのに。

身体が、小さく震えている。

(…知らない。)

魔物相手に吼える彼も、女性を乱暴に扱う彼も。全然知らない、ユーグの姿。

「っ!」

「…」

目の前まで近づいたユーグが立ち止まる。見下ろしてくるその人は、誰よりも帰りを待ち望んでいた人。ユーグは、ユーグのはずなのに。だから、お帰りなさいって、無事で良かったって、そう言って-

「…」

「…あ。」

何かを言おうとした直前、ユーグの背後から近づいて来た人に視線を奪われた。

「ユーグ?」

華やかに笑うその人は、恐れることなくユーグに触れる。

「無事で良かったわ。あなたの帰り、ずっと、待ちわびていたの。」

ユーグの腕を、スルリと絡めとる白い腕。押し付けられる肢体、媚態を露にする美しい人の笑み。だけど、ユーグは彼女を見ない。

それでも、彼女は笑んだまま-

「ねぇ、ユーグ?あなたももう、わかっているでしょう?残念だけど、クロエさんじゃ駄目なのよ。…この人には無理。」

「っ!」

ユーグの隣に立つマリーヌに、言い返す言葉を、何か。なのに―

「…私を選んで、ユーグ。私なら、あなたを最後まで満足させてあげられるわ。」

「っ!」

(嫌!!それだけは絶対に!!)

ユーグを見上げる。

(行かないでっ!)

彼女を選ばないでとその瞳に縋ってしまう。紫紺は、ずっと逸らされないまま―

「…離れろ。」

「ユーグ!?」

「触るな。」

マリーヌを振り払った腕、逸らされない瞳には、初めて目にする熱が宿っている。怖いくらいの―

「…勘違いするな、選ぶのは俺じゃない。」

「…」

「選ぶのはお前だ、クロエ…」

「!?」

(どうして…?)

どうして?何で?どうして、そんなをするの―?

「っ!私はっ!」

痛いのは嫌だ、怖いのも嫌。だけど―

涙が、勝手にボロボロこぼれ出した。

「っ、最初から、最初から、ユーグを選んでるよ!」

「…」

「ユーグが好きで、ユーグだけを見て、ユーグがいるから、怖いのだって、全部全部我慢して!」

ずっと、ずっと探してた。あなただけを求めてた。だから選んだ、一目でわかった、「この人だ」って。

あなたに出逢うために、私はこの世界にいる―

「っ!」

流れる涙を袖で拭う。ユーグが選んでいいと、そう言ってくれるのなら、

「ユーグに触らないで!」

「なっ!?」

マリーヌに向かって叫ぶ。

「ユーグに近づかないで!ユーグは私の夫なんだから!」

吠えるのも、牽制するのも、妻である私の権利だ。

「っ、怯えるしか能の無い人間に、ユーグの何がわかるの、」

「わからなくても、私はユーグがいいの!ユーグしか要らない!」

怖いものは怖い。だけど―

(牙をむいたユーグを、格好いいと思った私も、確かにいるんだから。)

ユーグを見上げる。ずっと、黙ったままの彼と目が合った。

「…いいんだな?」

「…うん。」

熱のこもった紫紺に頷けば、

「…覚悟はしておけ。」

「…」

ユーグが笑った。狼が、牙を剥くみたいな、獰猛な笑み-

「加減は出来ない。」

「キャアッ!?」

突然の浮遊感。ユーグに横抱きにされたのだと気づき、その胸元にしがみつく。

「っ!?」

走り出したユーグ、しがみつく手に力がこもる。視界の隅に、笑顔の消えたマリーヌの顔が見えた。その手が、こちらへと伸ばされ―

「待って!」

「…」

「嫌よっ!駄目、行かないでユーグ!行っては駄目!!あなたは私のものよっ!!」

半狂乱になって叫ぶマリーヌの声は、ユーグには届いていない。振り返ることも無く、前だけ向いて走る顔を見上げる。ユーグを求める叫び声が、瞬く間に遠ざかっていった。




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