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最終章 望まぬ再会と望んだ未来

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「あー、腹減ったー、肉ー。」

「!?」

「はぁー、もぉー、マジであり得ない。何なのアレ。ホンットに…」

「!お帰りなさい!」

ホルスに別れを告げ、帰ってきた月兎うきうさぎ亭。日が暮れ始めた頃に、いつもの賑やかさでドヤドヤと扉を開けて入ってきた二人、その後からノッソリと入ってきたボルドを出迎える。

(…あれ?)

その後に続くかと思われていた二人の姿が見当たらずに、三人を振り仰いだ。

「ユーグとトキさんは?」

「あー。団長達はギルド。」

「騎士団連中との『お話し合い』があるから、暫く帰ってこないよ。」

「だから、取り敢えず肉」と言う二人プラス一人のために、温めるだけにしてあった料理をテーブルに並べていく。

「…討伐、何か、大変だったみたいだね?怪我してる人達、結構いたよ?」

「まぁなあー。今回は数がマジでヤベェよ。雑魚もあそこまで集まるとクソウゼェ。」

「それって、いつもとは違うってこと?…大丈夫なの?」

「あ?んー、まあ、ウゼェからシンドイっつーだけで、雑魚は雑魚だからな。」

ローストした肉の塊に齧り付きながら答えてくれるガットは、だけど、いつもの元気にはほど遠くて、それだけでこちらは不安になってくる。確かめるようにルナールの方にも視線を向ければ、鬱陶しそうにしながらも口を開いたルナール。

「…元々、討伐部隊を出すのは繁殖期で増えた魔物の間引きが目的なわけ。だから、この時期の魔物が多いっていうのは、まぁ、当然なんだけどさ…」

「それでもいつもよりも多い、…繁殖が異常ってこと?」

「まぁ、ね…」

言って、こちらも疲れぎみに突き刺した肉を口元に運ぶ姿を見守った。

(…ボルドも、いつもより、背中、丸まってるし。)

これほどの「疲れ」を初めて見せる三人に、それ以上はもう何も言えずに、ただひたすら、彼らの空腹を満たすべく料理を出し続けた。そうして、彼らが食事を終える頃に漸く、そのいつもと変わらない食欲に安堵するだけの余裕も戻ってきた。

「後はトキさんにでも聞いて」と言って席を立つ彼らを見送りに出れば、歩き始めた他の二人から離れ、こちらへと身を寄せたルナール。

「…ルナール?」

どこか不機嫌そうな彼の名を呼べば、

「…ねぇ。おれ、あんたに言ったよね?フラフラするなって?」

「え?」

「臭い。アイツの臭いがする。」

「あ!」

言われて、何のことだか気づく。

「え、あ、でも、会ってしゃべっただけで、触られるようなことは…」

「俺や団長は人より鼻が利くから分かるんだよ。不快。…それ、団長が帰ってくる前に落としときなよ。」

「…うん。ありがとう。」

どうやら、怒っているのではなく、心配してくれているらしいとわかって、思わず笑う。それに、嫌そうに顔をしかめて背を向けたルナール、一度だけ、ヒラリと手を振ってから、夜の闇の中へ消えて行った。








(…眠れない。)

三人を見送った後、結局、深夜近くになっても帰ってこないユーグをベッドの中で待つ内、次々、浮かんでくる不安に目が冴えきってしまった。

(ガット達三人に怪我は無かった。)

だから、多分、ユーグとトキさんも大丈夫。

(三人とも何も言ってなかったし。)

何も言われなかったと言えば、昼間のこと。マリーヌから聞いた話。討伐隊の出迎えに集まっていた女の子達。

(あの中に、多分、ユーグを待っていた子もいる。)

怪我人が多かったことで城門前は混乱していたから、彼女達が最後まで残っていたかはわからない。もし、ユーグを待って残っている子がいたら―

(…でも、ガットが、ユーグ達はギルドだって言ってたから。)

きっと、大丈夫。きっと、帰ってきてくれる。

そうやって、浮かんでくる不安を一つずつ潰しながら、自分に言い聞かせていれば、待ち望んだ瞬間、部屋の扉が静かに開いた。

「…ユーグ、お帰りなさい。」

「…」

扉の前で立ち止まったままのユーグに、ベッドから抜け出して近寄っていく。弱い部屋の灯りでは、近づいても、その姿をきちんと確認は出来ないけれど。

(…怪我は、してないみたい。良かった。)

触れて確かめたい気持ちはあるのに、この期に及んでまだ、自分からユーグに触れる勇気が無い。

「…討伐、大変だったってガット達から聞いて、ユーグは大丈夫だったんだよね?怪我は?してない?」

「ああ…」

「!…ユーグ?」

伸ばされた手、突然、ユーグに抱え上げられた。性急さも荒々しさもない、だから、怖くは無いけれど、いつもと違う様子の彼の姿に少しだけ不安になる。運ばれた先はベッドの上、胡座をかいたユーグの膝の上に乗せられた。見上げれば、近い距離、でも、見惚れるには、彼の瞳が真剣すぎて―

「ユーグ…?」

「…魔の森に、王が現れた。」

「!?」

唐突な、でも、簡単に想像出来てしまうくらいに不穏な響きを持つ単語に、目の前、ユーグの服の胸元を握りしめた。

「…魔物が増えてるのは、その『王』が居るから…?」

「ああ…」

「…王って、どんな…」

「魔物は魔物だが、強さが違う。」

「それって…」

(ユーグは、…みんなは勝てるの?倒せるの?)

言葉を飲み込んだのは、否定されるのが怖かったから。

「…明日から、数日かけて王を狩る。」

「数日…」

帰ってこない。ユーグがー

「…ここも、危険だ。」

「そんなに、強いの…?」

そんなのと、ユーグは戦うのー?

「町を出たいなら、そうしろ。」

「…」

「お前が選べ。」

(ああ、ユーグが…)

ユーグが、こんなにいっぱい喋ってくれてるのにー

(それが、こんな話だなんて…)

目の奥、込み上げてくる涙が溢れそうになるのを必死にこらえる。

「…行かない。」

「…」

「どこにも行かないよ。…待ってる。」

「…」

「ここで待ってる、から、帰ってきて。ユーグ、絶対、絶対に帰ってきて。」

「ああ…」

そう、約束してくれたユーグの身体に手を伸ばす。背中に回した手で、ユーグに抱きついた。熱と感触で、そこにユーグが居ることを確かめて。この約束は絶対だと、自分自身に言い聞かせて―



翌朝、ユーグは団の皆を連れて、王を狩りに向かったー




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