35 / 56
最終章 望まぬ再会と望んだ未来
4-1
しおりを挟む
「さて、今日も気合入れて、お肉買いに行きますか。」
月兎亭の扉を開け、朝の太陽が光差す町の中を歩きだす。時折吹き抜ける風に冷たさが混じり始め、季節はそろそろ秋、私がフォルトに来てから四ヶ月、あの夏祭りの夜から二ヶ月が経とうとしていた―
「クロエちゃん、こっちのクズ肉、良かったら持ってくかい?」
「え?良いんですか?」
「いいよ。いっつもたくさん買ってってくれるからね。おまけだよ。」
「わぁ、ありがとうございます!」
「重いから、気を付けるんだよ!」
「はい!」
いつものコース、お肉屋での買い出しで思いがけず大量のおまけを貰い、気分が上がった。
(あー、でもこのままだと文句言う子がいるからなぁ。…なんとか、塊肉っぽく…)
最近になって漸く、町中の一人歩きを許してもらえるようになり、商店街への買い出しは専ら私一人が担当するようになった。お店の人達とも顔馴染みになり、時々はこうしておまけまでもらえる仲の人達も出来た。
(何より、一人で出来ることがあると居候感が減って、気持ち的にすごい楽になったよね。)
ボルドやトキさんの付き添い無しの買い出し。トキさんの代わりに店の買い出しも出来るようになってからは、トキさんの出勤時間は多少遅くなり、トキさん本人には「とても助かる」とのお言葉を頂いている。どうやら、番さんと一緒に居られる時間が増えて嬉しいらしい。後は、もちろん、こうやって青少年組のランチ作りも続けているから、彼らの胃袋を掴もう作戦も着々と進行中だ。
ただ、一つだけ、大きな問題があるとしたら―
(…ユーグの、ユーグのスキンシップ過剰が止まらない!!)
夏祭りの夜、ユーグにそれまでより深く触れられるようになってから、気づけばそれが標準仕様。毎晩、いいように翻弄されて、半分、気絶するようにして眠りにつくこともある。
(なのに、最後まではしないし、何故か、キスもされないけど…)
多分、それが、匂いづけの延長、…もしくは、ユーグ的には匂いづけの範囲内なんだろうとはわかっていても、こちらはバリバリに意識してしまうし、何ならもう、本当、ムラムラして仕方ない―
(って駄目!こんな大通りのど真ん中で真っ昼間から思い出しちゃ駄目!)
ピンクがかってきた思考を慌てて脳内から追い出し、歩く速度を速める。そうして無心で身体を動かせば、徐々にクリアな思考は戻ってきたけれど。
(…失敗。やっぱり、ちょっと重い。)
抱える荷物、欲張って―遠慮なんて一切せずに―くれるという量のお肉を全て頂いてきたから、地味に掌が痛い。
「ちょっと、休憩…」
通りの端っこ、人の流れを邪魔しない場所に引っ込んで、荷物の袋を足元に下ろす。荷物が食い込んでいた手をフルフルと払って、通りを行きかう人をぼんやりと眺めた。
(もう、女の人の装いが秋だぁ。私もそろそろ、秋服買わないと…)
そうやって、なんとなく眺めていた人の流れ、目に入った人の姿に、瞠目する。
「え…?」
思わず漏れた声、聞こえたわけでなはいだろうけれど、こちらの凝視する視線に気が付いたのか、男がこちらを振り向いた。
「!」
「!」
互いに認識し合って、やはり思った通りの人物だったことに驚愕する。
「クロエ!?」
騎士服を来た男が、巡回中であったのだろう仲間たちに何かを告げると、こちらへと走り寄って来た。その姿に、懐かしさと同時、どことなく居心地の悪さを感じている内に、男が目の前に迫り、
「クロエ!やっぱり!お前、こんなとこで何やってんだ!?」
「…久しぶり、ホルス。」
見上げる長身、ユーグより背は低いが体格はいい。王立騎士団の制服を身にまとい。腰には装飾の施された剣が下げられている。
(…へぇー、一応、本当に騎士様なんだ。)
二度と会うこともないだろうと思っていた元婚約者の、戦う騎士然とした姿は初めて目にするもの。王都に出ていって以来、一度も帰ってくることのなかったホルスに会うのは五年ぶり、だろうか。
(まぁ、別にまた会いたかったか?って聞かれると微妙なとこだけど。)
そんな、若干、薄情なことを考えていた私に対して、ホルスが少し困ったような顔をする。
「…クロエ、お前、まさか、俺を追いかけてこんなとこまで来ちまったのか?」
「…は?」
(ちょっと、何を言われたのかわからない…)
いや、聞こえていたのは聞こえていた。ただ、一応は幼馴染、産まれた時からの付き合いである男が、再会早々、こんな勘違いした台詞を吐くような男だったとは―
「親父に聞いたのか?俺がここに赴任になったって?…だからってお前、態々、」
「聞いてないよ。聞くわけないでしょ。別に、ホルスを追いかけてここに居るわけないじゃない。」
「…」
全否定すれば、目の前の男が鼻白んだ。
「…だったら、何でお前がこんな、…掃き溜めみたいな場所に…」
「…」
言葉の最後、吐き捨てるように言われた一言に、知らず、眉間に皺が寄る。
「…結婚したの。」
「…は?」
「だから、結婚して、この町に来たの。」
「結婚って…。お前、嘘つくにしても、もう少し、マシな、」
「嘘じゃない。こんなことで嘘つく意味なんて無いでしょう?」
「…仮に、結婚が本当だとしても、こんな町に住んでるような男なんて、ろくな奴じゃないだろう?」
「どういう意味よ?」
今度こそ、聞き捨てならない言葉に、頭に血が上る。
「何だよ、だって、そうだろうが。こんな、魔の森しかないような辺境。犯罪者みたいな奴らがうろうろしてるようなとこだぞ?こんなとこに居る奴らなんか、底辺も底辺じゃないか。」
「っ!最っ低!あんたこそ、最っ低!」
「!っあ、おい!クロエ!」
「二度と私の前に現れないで!」
言い捨てて、荷物を引っ掴んで歩き出す。腹が立って仕方なかった―
この町がちょっと他と違うのは百も承知だ。私だって、この町の第一印象は最悪。こんなところでやっていけるのかと不安でたまらなかったくらい。でも、そんな自分のことは棚上げしても、ユーグや鉄の牙のみんな、町の人達も、全部まとめて否定するホルスが許せなかった。
「待てよ!クロエ!」
「…離して。」
追いつかれ、掴まれた腕に立ち止まる。振り返って告げた拒絶の言葉は、無視された。
「何をそんな急に怒り出してんだよ?お前、昔はもっと、」
「言ったよね?私、結婚してこの町にいるの。夫は当然この町の人なの。それを馬鹿にされて、何で怒らないと思うわけ?」
「…それ、本当は嘘じゃないのか?」
「はぁ?」
「いや。俺に捨てられて、お前、むきになってるとか、」
「離して!」
思いっきり振り払った腕、だけど、男の力でしっかりと掴まれてしまっている腕は簡単には自由にならない。
「…クロエ、俺さ、これでも反省してんだよ。だからさ、また前みたいに仲良く、」
「ほんっと、最っ低!!」
叫んだと同時、ホルスの身体が後ろに吹っ飛んだ。
(えっ!?)
まさか、また指輪の付与魔法が発動したのかと、一瞬、血の気が引いたが―
「ねぇ、本当、何してんの、あんた。…団長の女だって自覚ちゃんとある?」
「ルナール…」
「んで?こいつ、何?お前に手ぇ出したわけ?なら、ここで殺っちまうけど。」
「!?ガット!駄目!」
屈み込み、倒れたホルスの首筋に大ぶりのナイフを押し当てるガットを焦って止める。
「違うから!昔の知り合い!同じ村の人なの!」
「あ?」
「その昔の知り合いと、あんた、何してたわけ?」
「何もしてないよ!さっき偶然会って、話をしてただけで!」
「腕、ひっ掴まれて?」
「っ!?」
ガットにナイフを首筋に当てられたまま、青ざめた顔でこちらを見るホルスと視線が合う。
「…それは、ちょっと行き違いがあったから。…でも、もう、大丈夫というか。話も終わったし…」
「…」
とにかく、最低発言野郎だとしても、流石に友人の家族でもあるホルスをここでやられてしまうのは困る。その必死さが伝わったのか、ルナールがため息をついた。
「…まぁ、あんたがそう言うなら。」
「チッ!しゃーねぇなぁ。」
立ち上がり、ヒュンと一振りでナイフを消したガットが、睨むようにホルスを見下ろしてから、こちらを向いた。
「…帰んぞ。」
「うん…」
歩き出したガット。一度だけホルスを振り返ってから、先を行くガットの後を追う。横に並んだルナールが、手に持っていた荷物を横から奪うようにして持ってくれた。礼を言えば、首を振られて、
「別に。…で?あんたの何なの?あの男。」
「何って…」
「ただの知り合いなんかじゃないでしょ?そんなの見ればわかるんだから、さっさと吐きなよ。」
ルナールの追求に、何とも落ち着きの悪いその単語を口にした。
「…元、婚約者、だった人。」
「はぁあっ!?あんた、そんな男と会ってたわけ?」
「会ってたんじゃなくて、本当に、買い物帰りに偶然会っただけなんだってば。」
訝しむルナールの視線にむきになって答えれば、逡巡したルナールが不機嫌そうに聞いてくる。
「…団長は?知ってんの?」
「婚約者がいたことは知ってる。…けど、この町に居るってことは知らない、というか、私もさっき会ったばかりだから…」
まだ、知らせるも何もない、という状況。それをそのまま伝えたところで、ルナールも漸く納得してくれたらしい。嘆息して、忠告をくれた。
「…団長とトキさんにはちゃんと、伝えときなよ?」
「うん。」
「あと、あんたは、あんまりフラフラしないでよね。」
「…わかった。」
フラフラしているつもりはないのだけれど、それがルナールなりの心配から来る言葉なのだと思うから、素直に頷いた。
月兎亭の扉を開け、朝の太陽が光差す町の中を歩きだす。時折吹き抜ける風に冷たさが混じり始め、季節はそろそろ秋、私がフォルトに来てから四ヶ月、あの夏祭りの夜から二ヶ月が経とうとしていた―
「クロエちゃん、こっちのクズ肉、良かったら持ってくかい?」
「え?良いんですか?」
「いいよ。いっつもたくさん買ってってくれるからね。おまけだよ。」
「わぁ、ありがとうございます!」
「重いから、気を付けるんだよ!」
「はい!」
いつものコース、お肉屋での買い出しで思いがけず大量のおまけを貰い、気分が上がった。
(あー、でもこのままだと文句言う子がいるからなぁ。…なんとか、塊肉っぽく…)
最近になって漸く、町中の一人歩きを許してもらえるようになり、商店街への買い出しは専ら私一人が担当するようになった。お店の人達とも顔馴染みになり、時々はこうしておまけまでもらえる仲の人達も出来た。
(何より、一人で出来ることがあると居候感が減って、気持ち的にすごい楽になったよね。)
ボルドやトキさんの付き添い無しの買い出し。トキさんの代わりに店の買い出しも出来るようになってからは、トキさんの出勤時間は多少遅くなり、トキさん本人には「とても助かる」とのお言葉を頂いている。どうやら、番さんと一緒に居られる時間が増えて嬉しいらしい。後は、もちろん、こうやって青少年組のランチ作りも続けているから、彼らの胃袋を掴もう作戦も着々と進行中だ。
ただ、一つだけ、大きな問題があるとしたら―
(…ユーグの、ユーグのスキンシップ過剰が止まらない!!)
夏祭りの夜、ユーグにそれまでより深く触れられるようになってから、気づけばそれが標準仕様。毎晩、いいように翻弄されて、半分、気絶するようにして眠りにつくこともある。
(なのに、最後まではしないし、何故か、キスもされないけど…)
多分、それが、匂いづけの延長、…もしくは、ユーグ的には匂いづけの範囲内なんだろうとはわかっていても、こちらはバリバリに意識してしまうし、何ならもう、本当、ムラムラして仕方ない―
(って駄目!こんな大通りのど真ん中で真っ昼間から思い出しちゃ駄目!)
ピンクがかってきた思考を慌てて脳内から追い出し、歩く速度を速める。そうして無心で身体を動かせば、徐々にクリアな思考は戻ってきたけれど。
(…失敗。やっぱり、ちょっと重い。)
抱える荷物、欲張って―遠慮なんて一切せずに―くれるという量のお肉を全て頂いてきたから、地味に掌が痛い。
「ちょっと、休憩…」
通りの端っこ、人の流れを邪魔しない場所に引っ込んで、荷物の袋を足元に下ろす。荷物が食い込んでいた手をフルフルと払って、通りを行きかう人をぼんやりと眺めた。
(もう、女の人の装いが秋だぁ。私もそろそろ、秋服買わないと…)
そうやって、なんとなく眺めていた人の流れ、目に入った人の姿に、瞠目する。
「え…?」
思わず漏れた声、聞こえたわけでなはいだろうけれど、こちらの凝視する視線に気が付いたのか、男がこちらを振り向いた。
「!」
「!」
互いに認識し合って、やはり思った通りの人物だったことに驚愕する。
「クロエ!?」
騎士服を来た男が、巡回中であったのだろう仲間たちに何かを告げると、こちらへと走り寄って来た。その姿に、懐かしさと同時、どことなく居心地の悪さを感じている内に、男が目の前に迫り、
「クロエ!やっぱり!お前、こんなとこで何やってんだ!?」
「…久しぶり、ホルス。」
見上げる長身、ユーグより背は低いが体格はいい。王立騎士団の制服を身にまとい。腰には装飾の施された剣が下げられている。
(…へぇー、一応、本当に騎士様なんだ。)
二度と会うこともないだろうと思っていた元婚約者の、戦う騎士然とした姿は初めて目にするもの。王都に出ていって以来、一度も帰ってくることのなかったホルスに会うのは五年ぶり、だろうか。
(まぁ、別にまた会いたかったか?って聞かれると微妙なとこだけど。)
そんな、若干、薄情なことを考えていた私に対して、ホルスが少し困ったような顔をする。
「…クロエ、お前、まさか、俺を追いかけてこんなとこまで来ちまったのか?」
「…は?」
(ちょっと、何を言われたのかわからない…)
いや、聞こえていたのは聞こえていた。ただ、一応は幼馴染、産まれた時からの付き合いである男が、再会早々、こんな勘違いした台詞を吐くような男だったとは―
「親父に聞いたのか?俺がここに赴任になったって?…だからってお前、態々、」
「聞いてないよ。聞くわけないでしょ。別に、ホルスを追いかけてここに居るわけないじゃない。」
「…」
全否定すれば、目の前の男が鼻白んだ。
「…だったら、何でお前がこんな、…掃き溜めみたいな場所に…」
「…」
言葉の最後、吐き捨てるように言われた一言に、知らず、眉間に皺が寄る。
「…結婚したの。」
「…は?」
「だから、結婚して、この町に来たの。」
「結婚って…。お前、嘘つくにしても、もう少し、マシな、」
「嘘じゃない。こんなことで嘘つく意味なんて無いでしょう?」
「…仮に、結婚が本当だとしても、こんな町に住んでるような男なんて、ろくな奴じゃないだろう?」
「どういう意味よ?」
今度こそ、聞き捨てならない言葉に、頭に血が上る。
「何だよ、だって、そうだろうが。こんな、魔の森しかないような辺境。犯罪者みたいな奴らがうろうろしてるようなとこだぞ?こんなとこに居る奴らなんか、底辺も底辺じゃないか。」
「っ!最っ低!あんたこそ、最っ低!」
「!っあ、おい!クロエ!」
「二度と私の前に現れないで!」
言い捨てて、荷物を引っ掴んで歩き出す。腹が立って仕方なかった―
この町がちょっと他と違うのは百も承知だ。私だって、この町の第一印象は最悪。こんなところでやっていけるのかと不安でたまらなかったくらい。でも、そんな自分のことは棚上げしても、ユーグや鉄の牙のみんな、町の人達も、全部まとめて否定するホルスが許せなかった。
「待てよ!クロエ!」
「…離して。」
追いつかれ、掴まれた腕に立ち止まる。振り返って告げた拒絶の言葉は、無視された。
「何をそんな急に怒り出してんだよ?お前、昔はもっと、」
「言ったよね?私、結婚してこの町にいるの。夫は当然この町の人なの。それを馬鹿にされて、何で怒らないと思うわけ?」
「…それ、本当は嘘じゃないのか?」
「はぁ?」
「いや。俺に捨てられて、お前、むきになってるとか、」
「離して!」
思いっきり振り払った腕、だけど、男の力でしっかりと掴まれてしまっている腕は簡単には自由にならない。
「…クロエ、俺さ、これでも反省してんだよ。だからさ、また前みたいに仲良く、」
「ほんっと、最っ低!!」
叫んだと同時、ホルスの身体が後ろに吹っ飛んだ。
(えっ!?)
まさか、また指輪の付与魔法が発動したのかと、一瞬、血の気が引いたが―
「ねぇ、本当、何してんの、あんた。…団長の女だって自覚ちゃんとある?」
「ルナール…」
「んで?こいつ、何?お前に手ぇ出したわけ?なら、ここで殺っちまうけど。」
「!?ガット!駄目!」
屈み込み、倒れたホルスの首筋に大ぶりのナイフを押し当てるガットを焦って止める。
「違うから!昔の知り合い!同じ村の人なの!」
「あ?」
「その昔の知り合いと、あんた、何してたわけ?」
「何もしてないよ!さっき偶然会って、話をしてただけで!」
「腕、ひっ掴まれて?」
「っ!?」
ガットにナイフを首筋に当てられたまま、青ざめた顔でこちらを見るホルスと視線が合う。
「…それは、ちょっと行き違いがあったから。…でも、もう、大丈夫というか。話も終わったし…」
「…」
とにかく、最低発言野郎だとしても、流石に友人の家族でもあるホルスをここでやられてしまうのは困る。その必死さが伝わったのか、ルナールがため息をついた。
「…まぁ、あんたがそう言うなら。」
「チッ!しゃーねぇなぁ。」
立ち上がり、ヒュンと一振りでナイフを消したガットが、睨むようにホルスを見下ろしてから、こちらを向いた。
「…帰んぞ。」
「うん…」
歩き出したガット。一度だけホルスを振り返ってから、先を行くガットの後を追う。横に並んだルナールが、手に持っていた荷物を横から奪うようにして持ってくれた。礼を言えば、首を振られて、
「別に。…で?あんたの何なの?あの男。」
「何って…」
「ただの知り合いなんかじゃないでしょ?そんなの見ればわかるんだから、さっさと吐きなよ。」
ルナールの追求に、何とも落ち着きの悪いその単語を口にした。
「…元、婚約者、だった人。」
「はぁあっ!?あんた、そんな男と会ってたわけ?」
「会ってたんじゃなくて、本当に、買い物帰りに偶然会っただけなんだってば。」
訝しむルナールの視線にむきになって答えれば、逡巡したルナールが不機嫌そうに聞いてくる。
「…団長は?知ってんの?」
「婚約者がいたことは知ってる。…けど、この町に居るってことは知らない、というか、私もさっき会ったばかりだから…」
まだ、知らせるも何もない、という状況。それをそのまま伝えたところで、ルナールも漸く納得してくれたらしい。嘆息して、忠告をくれた。
「…団長とトキさんにはちゃんと、伝えときなよ?」
「うん。」
「あと、あんたは、あんまりフラフラしないでよね。」
「…わかった。」
フラフラしているつもりはないのだけれど、それがルナールなりの心配から来る言葉なのだと思うから、素直に頷いた。
11
お気に入りに追加
1,584
あなたにおすすめの小説
できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……
木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。
恋人を作ろう!と。
そして、お金を恵んでもらおう!と。
ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。
捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?
聞けば、王子にも事情があるみたい!
それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!
まさかの狙いは私だった⁉︎
ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。
※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。
異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる