異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~

リコピン

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第三章 夏祭りと嫉妬する心

3-11 Side M

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一目見た時からわかっていた。

あの雄は、私のものだと―





「ッキャァァアアア!!」

「何だっ!?」

客をもてなすラウンジ。一夜の夢を買いに来た男達が、酒を片手に今宵の蝶を品定めするこの場に、いくつもの悲鳴が上がった。

「…これは、何事かしら?」

向けた視線の先、美しい獣がグラスを蹴散らしテーブルの上に降り立つ。掴んでいた男の身体を無造作に放り投げ、飛んできた身体にまた周囲から悲鳴が上がった。

「ユーグ…」

「…」

名を呼べば、鋭い視線に囚われる。男から立ち昇る怒気は、この身を溶かす媚薬。

「一体、これはどういうことかしら?彼は何者?何があなたの機嫌を損ねているの?」

「…手を出すな。あれは俺のものだ。」

「…あら。困ったわ。あなたが、何の話をしているのか…」

男の口にした、「俺のもの」という言葉に、僅かに気分がささくれ立つ。彼の言う「あれ」、彼の傍に居るというだけの、彼の本性を理解しようともしないただの人間―

「…でも、そうね。あなたが言うなら、きっと、このお店の誰かがあなたのものに手を出してしまったのね。」

「…」

「ごめんなさい、ユーグ。こちらできちんと対処すると約束するわ。だから、どうか、許してくれる?」

「…」

黙ったまま、抑えきれない怒気をぶつけてくる男を見つめる。ゾクゾクするような視線に晒され、身体が歓喜の悲鳴を上げる。

(ああ、素敵…)

ユーグの怒気に触れ、それでも恐れを感じないのは、理解しているから。

彼がどれほどの怒りを湛えていようと、その力が私に及ぶことは無い。他の誰にその怒りをぶつけようと、

ユーグは私を許すー

絶対的な確信を持ったそれに、陶然と二人の時間に身を任せる。

暫し見つめ合った後、ユーグが視線を逸らした。

「…」

「あら?もう、お帰りになるの?」

何も言わず背を向けた男に、自然、口角が上がる。

(やっぱり、あなたは…)

「ねぇ、ユーグ?今日はこんなことになってしまって残念だわ。でも、どうか、また遊びにいらしてね?」

「…」

去り行く男の背中を最後まで見送って、さて、とその場の後始末を考える。

(…ユーグにも、ああ言ってしまったし、流石にあの子達はなんとかしないと駄目ね…)

彼の怒りに触れたのだ。稼ぎは良かったので気に入っていた子達だが、このまま店で飼い続けるわけにはいかないだろう。こんな事態を引き起こした張本人達、少しは期待し、今回は手も貸してやったというのに。結局、無力な女の一人も消すことができなかった。

(本当に、やっとが消えたと思っていたのに、今度はあんな女に邪魔されるなんて。)

それでも、もう、あと少し―

ユーグの傍に居るせいで、少々、手間はかかるが、何の力も持たない女を排除することなど容易いもの。諦めるつもりはない。取り返してみせる。今度こそ完全に手に入れる。あの美しい獣は私のもの、私だけの雄なのだから―




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