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第三章 夏祭りと嫉妬する心
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「…どうしたい、って言うのは…?」
「ルナール達はユーグの妻である君を危険に晒したからね。その責任を取る必要がある。彼らにどう責任をとらせるか、クロエの希望はある?」
「!ちょっと待って下さい!悪いのはデリア達で、三人は、」
「もちろん、彼女達にも相応の対処はするつもりだよ。けどね、関係ないんだ。」
「え?」
「彼女達が何をしようと、彼ら三人は君を守らなくちゃいけなかった。それに失敗した以上、その責任をとるのは彼ら自身、でしょう?」
「!」
温度の無い声で告げられた言葉に、理解した。トキさんが言わんとすることを。
彼らの世界では、「敵対する者が居る」ことは前提でしかないのだ。当然のものとして存在する脅威に、対処できることもまた当然で、それが出来なければ―
「…あの、でも、三人をどうしたいとかは、私、無いです。」
「…それで済む話じゃないのはわかるよね?結果として、君が自力で逃げ出したから大事には至らなかっただけで、一歩間違えば、君は死んでいたかもしれない。」
「でも…」
「わかった。じゃあ、彼らの処分はこっちで勝手に決めておくよ。それでいいかな?」
「!」
処分という言葉にゾッとした。彼らの腫れ上がった顔に視線が行く。多分、殴られた痕、トキさんがやったのか、ユーグがやったのか。だけど、彼らの「処分」はこれから課されるのだという。それはきっと、こんなものでは済まない―
「あの、トキさん!でも、本当に違うんです!そもそもお祭りに行きたいって言ったのは、私で!」
「そう?でも、それだとルナールが嘘をついてるってことになるけど…」
「っ!確かに、きっかけはルナールだったかもしれません!彼が『行かないのか』って誘ってくれたから!」
「誘う?それは、脅しじゃなくて?だって、君、祭りに行く気はなかったよね?」
「脅されてません!行くって決めたのは自分の意志です!」
ルナールの言葉に挑発はされたけれど、でもそれは―
「発破をかけてくれたんです!…ユーグに…。…ルナールは、ユーグのこと、私にちゃんと見るようにって。ユーグのこと、もっとちゃんと知って、ユーグのこと、理解できるようにって…」
「…」
庇うための言い訳に聞こえるかもしれないけれど、でも、結局、本当にそういうことなのだ。
「トキさん、ごめんなさい。」
言って、頭を下げた。
「私の我儘に三人を巻き込みました。だから、怒られるのも、処分を受けるのも私です。」
「…俺が、君を処分したり出来ないって、わかって言ってるよね?」
「…」
「わかって」いるわけではない。その証拠に、こんなにも、震えるほどにトキさんが怖い。だけど、これは違う。これは駄目だ。自分の情けなさがルナールの行動を招いた。その結果を三人に押し付けるなんて、そんなのどう考えても間違っているから。黙って頭を下げ続ければ、
「…はぁ、もう、わかった。」
トキさんのため息が聞こえた。
「クロエ、頭上げて。…仕方ないから、今回の件はこれ以上は不問にする。」
「トキさん…、ありがとうございます。」
「うん。けど、クロエ、君が今回のこれを自分の責任だって言うなら、これからは自分の行動が及ぼす範囲っていうのをもっと考えてから行動するようにしてね。」
「はい。」
答えれば、確認するように頷いたトキさんの視線が三人に向かう。
「お前達三人は、当分、ギルドの依頼には参加させない。そうだね、一カ月はクロエの護衛について。」
「「「はい。」」」
三人の返事にも頷いたトキさんは最後に一つ大きくため息をついてから、
「…俺はユーグの方のフォローに行ってくるよ。…クロエ。」
「はい。」
「ひょっとしたら、ユーグ、今日は戻って来ないかもしれないけど…」
「…」
「…戸締りだけはきちんとするようにね。」
「はい…」
言って、直ぐさま身を翻したトキさん、その背中が店を出ていくのを見送った。
「ルナール達はユーグの妻である君を危険に晒したからね。その責任を取る必要がある。彼らにどう責任をとらせるか、クロエの希望はある?」
「!ちょっと待って下さい!悪いのはデリア達で、三人は、」
「もちろん、彼女達にも相応の対処はするつもりだよ。けどね、関係ないんだ。」
「え?」
「彼女達が何をしようと、彼ら三人は君を守らなくちゃいけなかった。それに失敗した以上、その責任をとるのは彼ら自身、でしょう?」
「!」
温度の無い声で告げられた言葉に、理解した。トキさんが言わんとすることを。
彼らの世界では、「敵対する者が居る」ことは前提でしかないのだ。当然のものとして存在する脅威に、対処できることもまた当然で、それが出来なければ―
「…あの、でも、三人をどうしたいとかは、私、無いです。」
「…それで済む話じゃないのはわかるよね?結果として、君が自力で逃げ出したから大事には至らなかっただけで、一歩間違えば、君は死んでいたかもしれない。」
「でも…」
「わかった。じゃあ、彼らの処分はこっちで勝手に決めておくよ。それでいいかな?」
「!」
処分という言葉にゾッとした。彼らの腫れ上がった顔に視線が行く。多分、殴られた痕、トキさんがやったのか、ユーグがやったのか。だけど、彼らの「処分」はこれから課されるのだという。それはきっと、こんなものでは済まない―
「あの、トキさん!でも、本当に違うんです!そもそもお祭りに行きたいって言ったのは、私で!」
「そう?でも、それだとルナールが嘘をついてるってことになるけど…」
「っ!確かに、きっかけはルナールだったかもしれません!彼が『行かないのか』って誘ってくれたから!」
「誘う?それは、脅しじゃなくて?だって、君、祭りに行く気はなかったよね?」
「脅されてません!行くって決めたのは自分の意志です!」
ルナールの言葉に挑発はされたけれど、でもそれは―
「発破をかけてくれたんです!…ユーグに…。…ルナールは、ユーグのこと、私にちゃんと見るようにって。ユーグのこと、もっとちゃんと知って、ユーグのこと、理解できるようにって…」
「…」
庇うための言い訳に聞こえるかもしれないけれど、でも、結局、本当にそういうことなのだ。
「トキさん、ごめんなさい。」
言って、頭を下げた。
「私の我儘に三人を巻き込みました。だから、怒られるのも、処分を受けるのも私です。」
「…俺が、君を処分したり出来ないって、わかって言ってるよね?」
「…」
「わかって」いるわけではない。その証拠に、こんなにも、震えるほどにトキさんが怖い。だけど、これは違う。これは駄目だ。自分の情けなさがルナールの行動を招いた。その結果を三人に押し付けるなんて、そんなのどう考えても間違っているから。黙って頭を下げ続ければ、
「…はぁ、もう、わかった。」
トキさんのため息が聞こえた。
「クロエ、頭上げて。…仕方ないから、今回の件はこれ以上は不問にする。」
「トキさん…、ありがとうございます。」
「うん。けど、クロエ、君が今回のこれを自分の責任だって言うなら、これからは自分の行動が及ぼす範囲っていうのをもっと考えてから行動するようにしてね。」
「はい。」
答えれば、確認するように頷いたトキさんの視線が三人に向かう。
「お前達三人は、当分、ギルドの依頼には参加させない。そうだね、一カ月はクロエの護衛について。」
「「「はい。」」」
三人の返事にも頷いたトキさんは最後に一つ大きくため息をついてから、
「…俺はユーグの方のフォローに行ってくるよ。…クロエ。」
「はい。」
「ひょっとしたら、ユーグ、今日は戻って来ないかもしれないけど…」
「…」
「…戸締りだけはきちんとするようにね。」
「はい…」
言って、直ぐさま身を翻したトキさん、その背中が店を出ていくのを見送った。
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