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第三章 夏祭りと嫉妬する心

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「…行かない。」

暫し見つめ合って、沈黙の後に返した答え。何度も考えて、自分で決めたはずの。だけど、ルナールの瞳にその決断を揺らされる。

「…それは、トキさんに止められたから行かないの?それとも…、あんたが行きたくないの?」

「…」

「黙ってるってことは、やっぱり行きたくないんだ。…何で?」

「何でって…」

「怖いんでしょう?」

「…」

言い当てられて、黙る。

「あんたって、本当、弱いよね。何も、俺らみたいに戦えるようになれとは言わないけどさ。いつまでも、俺らに、…団長にもビビッて。…マジでむかつく。」

向けられる瞳には隠す気もない嫌悪。

「俺さ、あんたのその目が嫌い。俺らを『異質だ』って拒絶してる目が。」

「…そんなつもりは、」

「まぁね、俺らこんなだから。そういう目を向けてくる奴はいっぱいいるんだよ。けどさ、あんた団長の女なわけでしょ?」

「…」

「だったらさぁ、何で、団長にまでそんな目するの?それ向けられる団長の気持ちとか考えたことない?…少なくとも、その目をしてる限り、あんたは団長に相応しくない。」

ぐうの音も出ないほどの正論。気づいていて、抗えなくて、何も言わないユーグに甘えてしまっている事実。

(…私は、ユーグの生き方が怖い。)

「否定するつもりはない」と言いながら、近づけない、寄り添えない。それを見透かされての糾弾に何を言い返せると言うのか。

「…で?どうするの?」

「どうするって?」

「闘技会、行かないの?…それくらいのは見せてくれてもいいんじゃない?」

「…」

挑発する瞳に答えを迫られる。「正解」を求めての逡巡に、横から声が挟まれた。

「…ルナール、それ、流石にマズいんじゃねぇの?トキさんにも、闘技会にこいつ近づけんなって言われてんじゃん。」

「…ガットはちょっと黙ってて。」

「いや、お前、それバレたらヤバいって。」

「…」

逸らされることの無い瞳に意志を感じる。

(…全部、覚悟の上ってことなのか。)

叱責も何もかも承知の上で、私に見せようとしている。彼らの敬愛する「団長の世界」を。

だったら―

「…行く。」

「ちょ!お前も、待てって。んな、勝手に決めんな!」

「大丈夫。行く、けど、会場までは行かない。…遠目でもいいの、ユーグが見える場所ってない?」

妥協点だとは思う。ルナールの言う「誠意」には届かないかもしれないけれど、勝手をした上で、それに彼らを巻き込むのも違う気がするから。

「…鐘楼の中、階段途中の窓から広場が見える。距離があるから大したものは見えないけど、…まぁ、一応は、から。いいよ、連れてってあげる。」

「うん…」

ルナールの了承に、頷いた。

「あー、じゃあ、俺とボルドはここ残ってっからな?…こいつ、置いとけねぇし。」

「え?」

ガットの言葉に振り返れば、いつの間にか、ボルドが大きな上半身を丸めるようにしてテーブルに突っ伏してしまっている。

「え?え?これ、どうしたの?」

「蜂蜜酒飲ませたからなー。こいつ、他の酒は全然平気なくせに、蜂蜜酒にだけは酔うんだよなぁ。」

「…なんでそんなもの飲ませるの。」

「あー?祭りだぜ?酔って騒いでなんぼだろうが。」

「…」

確かにこの世界には飲酒に年齢制限はないし、普段、ボルドも当たり前のようにお酒を口にしているから、お祭りを楽しむという意義としては間違っていない。けど、

「…大丈夫なの?」

「平気平気。一時間も寝かせてりゃあ、目ぇ覚ます。」

「じゃあ…」

ボルドの世話はガットに任せ、ルナールを振り返る。

「…ちょっとだけ待ってて。行く用意するから。」

「いいけど、十分ね。」

急かすルナールの言葉を背に、三階への階段を駆け上がった。




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