19 / 56
第二章 嫁入りと恋の季節
2-6
しおりを挟む
「あー、にしても、腹へった。てか、トキさんは何でいねぇの?」
「買い物。」
ガットの問いかけに一言で返すボルド。「私の服を買いに行ってくれているのだ」と伝えると、
「え?いつから行ってんのそれ?いつ帰ってくんの?」
「俺らの飯は?」と悲鳴を上げるガットの代わりに、ボルドに尋ねる。
「私は聞いてないんだけど、ボルドは?何か聞いてる?」
「…買い物のついでに、家の様子を見てくる、と。」
「あー。」
「あー。」
見事なユニゾンで何かを諦めた二人。その何かに、先ほどの会話から予想はついたから、ここは黙っておく。
「仕方ねぇなぁー。何か、勝手にあさって食うかー。」
「…俺、肉。」
「え?勝手にいいの?」
VIPルームを抜け出し、お店のカウンターの中へ入っていく二人。慌ててボルドに確かめれば、トキさん不在時には自分達で食事を済ますこともあるらしい。
(…とは言っても。)
「あ。あった、何か肉の塊。」
「それ、そのまま食えるやつ?」
「いや。何か、汁に浸ってる。」
「っ!?待って待って待ってー!」
明らかに下拵え済みの、明らかに生食には向かないお肉をそのまま頂いてしまおうとする二人を、必死に止める。
(ヤンチャが過ぎる!)
勝手にお店のキッチンを漁るのは気が引けるが、腹減り男子達をこのまま野放しにするのは危険だと判断し、ここは私がと調理をかってでた。
(私と、ボルドの昼食も一緒に作っちゃえばいいしね。)
ついでに、胃袋を掴む的な意味で、ユーグの仲間である彼らに取り入ろうという作戦でもある。
「…それ、何作ってんの?」
「『カルボナーラ』」
「…肉じゃねぇし。」
文句ばかり言う肉食系男子の声は無視だ。腹減りの空腹を満たす量をかせげ、おまけに失敗が少ない、コスパ最高の、前世の「花嫁修行」の成果をとくと味わえ。
「…ベーコンは、厚めにしとくから。」
「大盛りな。」
注文の多いガットに頷いて、切ったベーコンを炙っていく。手元を覗き込む視線を感じていると、
「…で、結局、あんたはどうやって団長に取り入ったの。」
忘れていた。
そう言えば、スタートはその話だったと思い出し、調理の手は止めないままに、言葉を探す。
「取り入ったというか、さっきの、ユーグがモテる話とか、番の話とか聞いて、余計に、私も何でだろうって思ってて。」
「…どういう意味?」
「うーん。…ハルハテって町、知ってる?」
「知んねぇー。」
興味も無さそうなガットの言葉に、だろうなと思う。この辺りでは、多分、名前も知られていないくらいに遠い。
「私の故郷の近くの町なんだけど、その辺りの風習で、集団でお見合いをするの。」
「お見合い…?」
「そう。」
そのお見合いが一種独特で、その中にあってもユーグはオンリーワンな異彩を放っていたことは、黙っておく。
「で、まあ、そこで一番格好良かったユーグに私が一目惚れして、結婚を申し込んだら、何故かオーケーが貰えて。」
「何で貰えんだよ。」
「ね?」
私も不思議だ、というか奇跡だと思っているけど、嘘ではない。その証拠に、
「じゃーん。」
「…なに?」
鬱陶しそうな視線の前に、左手を掲げて見せる。薬指にはまる指輪を見せつけるようにして、
「結婚の記念に、ユーグに貰いました。」
「…指輪を?」
「え?ショボくね?」
「ちょっと!?」
確かに、こちらの感覚では、大振りの石がついた腕輪やネックレスを贈る方が一般的だが、「本来貰う花の替わりだ」と主張すれば、何となくは理解してくれたようで、今度は興味深げに指輪にはまる紫水晶をのぞき込んでくる。
「で、何の付与がついてんだ?」
「石が小さいからな。…物理防御と魔法防御、一回か二回きりの使い捨てみたいなもんだね。」
「え?そんなのついてるの?」
確かに、ユーグがヴィオレの花を刻む時に、石に何かをしていたのは見たけれど。
(…ちゃんと、付与効果も付けてくれてたんだ。)
急ごしらえの代替品のはずの指輪にそこまでして貰えたことが嬉しくて、顔がだらしなく弛む。ヘラヘラ笑いながら、出来上がったパスタの山を盛り付けようとしていた時、三人の視線が一斉に店の入り口を向いた。
「あ、団長。」
「お帰りなさーいっす。」
「買い物。」
ガットの問いかけに一言で返すボルド。「私の服を買いに行ってくれているのだ」と伝えると、
「え?いつから行ってんのそれ?いつ帰ってくんの?」
「俺らの飯は?」と悲鳴を上げるガットの代わりに、ボルドに尋ねる。
「私は聞いてないんだけど、ボルドは?何か聞いてる?」
「…買い物のついでに、家の様子を見てくる、と。」
「あー。」
「あー。」
見事なユニゾンで何かを諦めた二人。その何かに、先ほどの会話から予想はついたから、ここは黙っておく。
「仕方ねぇなぁー。何か、勝手にあさって食うかー。」
「…俺、肉。」
「え?勝手にいいの?」
VIPルームを抜け出し、お店のカウンターの中へ入っていく二人。慌ててボルドに確かめれば、トキさん不在時には自分達で食事を済ますこともあるらしい。
(…とは言っても。)
「あ。あった、何か肉の塊。」
「それ、そのまま食えるやつ?」
「いや。何か、汁に浸ってる。」
「っ!?待って待って待ってー!」
明らかに下拵え済みの、明らかに生食には向かないお肉をそのまま頂いてしまおうとする二人を、必死に止める。
(ヤンチャが過ぎる!)
勝手にお店のキッチンを漁るのは気が引けるが、腹減り男子達をこのまま野放しにするのは危険だと判断し、ここは私がと調理をかってでた。
(私と、ボルドの昼食も一緒に作っちゃえばいいしね。)
ついでに、胃袋を掴む的な意味で、ユーグの仲間である彼らに取り入ろうという作戦でもある。
「…それ、何作ってんの?」
「『カルボナーラ』」
「…肉じゃねぇし。」
文句ばかり言う肉食系男子の声は無視だ。腹減りの空腹を満たす量をかせげ、おまけに失敗が少ない、コスパ最高の、前世の「花嫁修行」の成果をとくと味わえ。
「…ベーコンは、厚めにしとくから。」
「大盛りな。」
注文の多いガットに頷いて、切ったベーコンを炙っていく。手元を覗き込む視線を感じていると、
「…で、結局、あんたはどうやって団長に取り入ったの。」
忘れていた。
そう言えば、スタートはその話だったと思い出し、調理の手は止めないままに、言葉を探す。
「取り入ったというか、さっきの、ユーグがモテる話とか、番の話とか聞いて、余計に、私も何でだろうって思ってて。」
「…どういう意味?」
「うーん。…ハルハテって町、知ってる?」
「知んねぇー。」
興味も無さそうなガットの言葉に、だろうなと思う。この辺りでは、多分、名前も知られていないくらいに遠い。
「私の故郷の近くの町なんだけど、その辺りの風習で、集団でお見合いをするの。」
「お見合い…?」
「そう。」
そのお見合いが一種独特で、その中にあってもユーグはオンリーワンな異彩を放っていたことは、黙っておく。
「で、まあ、そこで一番格好良かったユーグに私が一目惚れして、結婚を申し込んだら、何故かオーケーが貰えて。」
「何で貰えんだよ。」
「ね?」
私も不思議だ、というか奇跡だと思っているけど、嘘ではない。その証拠に、
「じゃーん。」
「…なに?」
鬱陶しそうな視線の前に、左手を掲げて見せる。薬指にはまる指輪を見せつけるようにして、
「結婚の記念に、ユーグに貰いました。」
「…指輪を?」
「え?ショボくね?」
「ちょっと!?」
確かに、こちらの感覚では、大振りの石がついた腕輪やネックレスを贈る方が一般的だが、「本来貰う花の替わりだ」と主張すれば、何となくは理解してくれたようで、今度は興味深げに指輪にはまる紫水晶をのぞき込んでくる。
「で、何の付与がついてんだ?」
「石が小さいからな。…物理防御と魔法防御、一回か二回きりの使い捨てみたいなもんだね。」
「え?そんなのついてるの?」
確かに、ユーグがヴィオレの花を刻む時に、石に何かをしていたのは見たけれど。
(…ちゃんと、付与効果も付けてくれてたんだ。)
急ごしらえの代替品のはずの指輪にそこまでして貰えたことが嬉しくて、顔がだらしなく弛む。ヘラヘラ笑いながら、出来上がったパスタの山を盛り付けようとしていた時、三人の視線が一斉に店の入り口を向いた。
「あ、団長。」
「お帰りなさーいっす。」
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1,570
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる