上 下
17 / 56
第二章 嫁入りと恋の季節

2-4

しおりを挟む
「…」

「…」

「…ボルド、マリーヌさんのお店って、…何のお店?」

「…」

「…なるほど?」

十五歳には、もしくは「妻」という存在には言えないお店、という解釈でよさそうだ。必死に目を合わすまいとするボルドの分かりやす過ぎる態度に、逆に確信してしまった。

(まあ、薄々はね…?)

彼女達の装い、発言の内容、私に対する敵意からも、そういう「女」を匂わすものはあったから。でもだとしたら、

マリーヌあの人、そうっとう、イイ性格してるよね!?)

こちらに友好的な態度を見せていたから、コロッと騙されて、油断しきっていた。それを、最後にあの発言。あんなの、あんなの―

「滅茶苦茶気になるー!!『また』って何!?『また』って!?」

「クロエ、マリーヌのあれは、その、仕事で、」

「いやー!!ボルド!言わないで!言っちゃダメ!聞きたくない!ぜーったい、聞きたくないから!!」

「…」

地団駄を踏む五歳も年上の女をどうしていいのかわからず、オロオロするボルドには悪いが、もう、ほんっとう、無理なのだ。

(ムカムカする!イライラする!)

それは、ユーグだって立派な成人男子なのだ。しかも、世界一のイケメン。女が放っておくはずがない。今まで付き合った女なんて星の数ほど居るに決まってる。そういう意味で言えば、マリーヌ達は未だ、個人的なお付き合いではない分、少しはマシ、…マシ、なはずー

(あ、駄目だ…)

ドロドロしたものが込み上げてくる。吐きそうだ。ユーグに愛され、ユーグに大切にされた誰か。そんな人がもし目の前に現れたら、正気じゃいられなくなる。

(って、思っちゃう時点で、もう、結構、ヤバいかも…)

考えて、落ち込んだ。

ユーグの過去、彼が何を思い、何を選択して、何をして生きてきたのか。そんなの、ユーグの勝手じゃないか。そういうの全部の積み重ねで出来上がったユーグに、私はあの瞬間一目惚れしたのだから。彼の過去に勝手に嫉妬して落ち込むなんて、本当、本当、間違ってる。

(そうだよ。私だって、形だけとは言え婚約してた過去があるんだし。)

しかもそれを伝え忘れていた私を、ユーグはあんなに優しく許してくれたじゃないか。

「…ごめんね、ボルド。掃除、続きしよ?」

「…」

箒を掴んだ手を必死に動かす。

考えてしまわないように。考えても答えなんて出ない、ただ、落ち込むだけだとわかっているから。だから、今は何も考えない。これ以上は、もう何もー

「っ!やっぱ、無理ー!!」

「ク、クロエ!?」

(無理だよ無理!そんなの絶対無理!ムカつく!嫉妬する!ドロッドロだよ!)

「っ、だ、だって、私っ…」

(ユーグと、何もしてないー!!)

「クロエ、床、汚い。立って…」

(そうだよ!エ、エッチとか、その前に、キス、キスすらしてないし!!)

そんなの、過去の女に嫉妬しまくり、羨ましくてしょうがないに決まってる。だからせめて、手を出してくれないのなら、別の何かで彼の気持ちを知りたい。せめてー

「クロエ、手。」

「好きって言って欲しい!!」

ボルドの言葉に叫んだ私の声が重なって、目の前の大きな手が固まった。「あ、ごめん」とボルドに謝ろうとしたところで聞こえた、二つの声。

「え?何なの、この状況。」

「ボルド、お前、団長の女、護衛してたんじゃねぇーの?」

いぶかしむような、からかうような二人組の登場に、ノロノロと身体を起こして立ち向かう。どうやら、今日は千客万来らしい。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。  恋人を作ろう!と。  そして、お金を恵んでもらおう!と。  ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。  捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?  聞けば、王子にも事情があるみたい!  それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!  まさかの狙いは私だった⁉︎  ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。  ※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

運命の番なのに、炎帝陛下に全力で避けられています

四馬㋟
恋愛
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

処理中です...