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第一章 集団お見合いと一目惚れ

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―結婚はゴールではなく、スタートだ

確かそんな感じのことを、前世、数えきれないくらい参加したお見合いパーティーで、司会者の一人が言っていた気がする。それを覚えているのは、「参加者を煽るしか能がない司会者と違って、割とまともなことを言う人だなぁ」と思ったから。それに、

「…まあ、その通りだとしてもさ。」

―その「スタート」に立てないから今ココに居んだよ!

と、激しく突っ込んだ記憶が付随するから。

「クロエ…?何が『その通り』なの?」

「あ、ごめん、一人言。気にしないで。」

そう?と隣で首を傾げる妹同然の友人には、ヘラッと笑って誤魔化した。一人暮らしが長いせいか、気を抜くとすぐに口から思考が転がり出るこの悪癖を、本当、何とかしなくては。

こちらの言葉に納得したのか、今はそれどころではないと思ったのか、視線を目の前の広場へと戻した友人。その視線を追って眺めた先には、相変わらず何とも言えない光景が広がっている。

「…」

思わず遠い目をしてしまうが、この光景を「奇妙」、「不思議」だと思ってしまうのは自身の「前世」が邪魔するからで、この世界、というかこの地域では当たり前に受け入れられている風習。いや、それでも―

「…パチンコ。」

今度の呟きは隣の少女には届かなかったようだ。チラリとうかがった表情はキラキラと輝いたまま、広場に立つ―或いは座り込む―男性達と、それぞれの背後にドンと構えた巨大な花輪たちを食い入るように見つめている。

「…」

そう、花輪。花輪なのである。

ここが年に一度開かれる「妻乞つまごい」の祭り会場なのだとしても。この日のために近隣の村や町から集まった若者たちのための神聖で由緒正しい出会いの場―ぶっちゃけ、ただの集団お見合い会場―だとしても。

「…新装開店。」

もうね、ほんと、その言葉しか浮かんでこない。

地面に差された木や竹で出来た団扇のような土台に、色とりどりの生花が飾られた巨大花輪。伴侶を求める男性陣の数だけ広場に乱立するその花輪は、それはもう見事にてんでバラバラの指向性と嗜好性に富んでいるから、華やかで綺麗ではある。あるからこそ―

(やっぱり、パチンコ…)

その強烈な印象が、―まともに思い出せることの方が少ない―私の前世の記憶の奥底から、ド派手なイメージそのままに、ネオン輝く光景を引っ張り出してきた。





「前世」、その概念自体、前世の記憶から得たものだけれど、私がそれを認識したのは、物心がつき始めたあたりだったと思う。たまに浮かんでくる「知らないはずの記憶」、「意味のわからない概念」、「見たこともない存在」。そんなものがふとした時に浮かんでくる。幸いだったのは、それを誰かに伝えようにも、小さな頃にはそれをうまく言葉にする能力が足りず、成長してからはそれを隠すだけの分別がついていたということ。

だから私は、「住んでる人みんな知り合い」みたいな小さな村の中でも、「ちょっと変わった女の子」程度で受け入れられてきた。

前世の記憶があるからといって、「農業革命」を起こすだけの知識はなく、魔法が存在するらしい世界で「無双」するだけの力も目覚めず。人より幾分か得意な計算能力とそれなりの文章力のおかげで―ありがとう義務教育、ありがとう教育基本法―、村で一番の有望株だった村長の息子と婚約し、一村人いちむらびととしての人生を生きていくんだと、そう思っていた。

その、緩くて穏やかですっかり満足しきっていた私の今世も、今ではもう、すっかり過去のものになってしまったけれど―




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