上 下
79 / 85
第二部 第二章

2-6

しおりを挟む
初めのダンジョン鉱脈を掘り終わった後、続けて、一階層の他の二か所でも採掘を行った。途中、他の冒険者と顔を合わせることはなかったけれど、全部で三体いるゴーレムが全て倒されていたことから、入口を開けた冒険者か他の冒険者が同じ階層を回っていることは把握できた。ただ、幸いなことに鉱脈は手つかず、今のところ、私の独占状態だった。

(それも、いつまでかは分からないけれど……)

ダンジョンに人が増え続ければ、私のように採掘に手を出す人もいるだろう。イロン曰く、ダンジョン鉱脈で高品質の石を手にするにはそれなりの採掘スキルが必要なため、冒険者ではなく同じ採掘士が増える可能性もある。

それまでに、できるだけ多くの石を掘ってレベルを上げておきたい。

「あれー?アリシア、もう帰るの?」

三か所目の鉱脈を回ったところで元来た道を戻り始めた私に、イロンが首を傾げる。それに、笑って答えた。

「帰るんじゃないよ。最初に掘ったダンジョン鉱脈を確かめておこうと思って」

「確かめる?」

「そう。最初に掘ってから、一時間経ったでしょう?鉱脈が復活していないか確認しに行くの」

クールダウン時間を把握できれば、より効率的に採掘を行うことができる。そう伝えれば、イロンは胸の前で両腕を組んで「うんうん」と頷き始めた。

「流石、僕のアリシア!ゲームの体力回復時間に合わせてタイマーをセットしていた頃を思い出すね!」

「……あれは、お休みの日だけだよ?」

イロンの言葉を消極的に否定する。タイマーまでセットして体力管理をしていたのは仕事が無い日だけだ。仕事のある日は流石に、休憩時間にしかゲームは開かなかった。私の言葉に、イロンがクフフと笑う。

「でも、そのおかげで僕のレベルはカンストしたんだから。今度はアリシアの番だねー」

「うーん、別に、そこまで採掘を極めるつもりはないんだけど……」

ただ、ダンジョン鉱脈のように採掘レベルによって結果が変わる場合、「最高レベルではどんなものが出てくるんだろう?」という好奇心はある。青ジェムガチャにしてもそう。見たこともない品質の、見たこともない鉱石を見てみたいという欲求は抑えきれなかった。

「とりあえず、やれるところまで、やってみようかな?」

「いいね、いいね!目指せ、伝説の採掘士!」

イロンの言葉に小さく笑いながら、ダンジョンの暗闇の中を歩く。

十分もしない内にたどり着いた最初の鉱脈は、残念ながら、まだ復活していなかった。一時間後、もう一度確認に訪れることにして、今度は最初の部屋、そこにある二階層へ続く階段へと向かった。





「うーん、まだ復活しないのかー」

三階層まで、全部で九つの鉱脈を回り終えるのに、今回は前回以上に時間がかかった。鉱脈を掘るのに慣れ、採掘だけなら一か所ニ十分もあれば事足りるようになったのだが、移動時間や青ジェムの回収時間、更には、一時間ごとに最初の鉱脈を確認していた分のロスにより、今回掛かったのは五時間。それでも、最初の鉱脈はまだ復活していない。

「アリシアー、諦めて、青ジェムガチャ引いちゃった方がいいんじゃなーい?」

「そう、だね」

青ジェムの保持は六時間が限界。最初の青ジェムが生成されたのが五時間以上前だから、そろそろガチャを引いてしまわないと、消滅し始めるタイミングだった。

「うん、よし、やってみよう!」

腰のポシェットには鉱脈で採れた宝石類を収納しているため、青ジェムはバックパックの中に無造作に放り込んである。バックパックをひっくり返し、中からザラザラと青ジェムを取り出した。平らな地面に零れ落ちた青い石を並べていく。

「……拾う時に大雑把に数えていた感じだと、百七十個はあると思うの」

大台の二百には届かなかったけれど、目標である百五十個は超えることができた。今回は、検証のため、百五十個ちょうどでガチャを回してみたい。暗闇の中、夜目のありがたさを痛感しながら、青ジェムを数え、百五十の山を作った。残りは二十ニ個。合計で百七十二の青ジェムが採れていた。

「イロン、お願いします」

百五十個の青ジェムを前にイロンに頼めば、彼は嬉しそうに笑った。

「うん!じゃあ、百五十ガチャ、いってみよー!」

言って、ジェムに向かって両手をかざすイロン。彼の両手から、魔力の光が溢れ出す。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

【完結】あなただけが特別ではない

仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。 目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。 王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?

処理中です...