76 / 85
第二部 第二章
2-3
しおりを挟む
結局、ルーカスにはあと一日だけダンジョンに付き合ってもらうことになり、朝から共に第四坑道へと向かった。
訪れたダンジョンの入口には、以前と同じ石の扉がピタリとはまっている。どうやら、時間によって復活するタイプの扉らしく、初日以降も、ルーカスは毎朝、扉のゴーレムを倒してから中へと入っていた。そのゴーレムを今日は私が起動して、逃げ切らなければならない。
「……アリシア」
呼ばれた名に、扉の前に立つルーカスの側へと近づく。
「ここに手を触れて、魔力を流してみてくれ……」
言われた通り、扉の装飾の一部、丸みのある突起へと手を触れた。魔力を意識してみるけれど、元々があまり魔力のない私ではなかなか流し込むまではいかない。それでも、微弱な魔力で構わないというルーカスの言葉を信じて手を触れ続ければ、漸く、魔力が吸い込まれていく感覚がした。
「……来るぞ」
ルーカスの言葉に、扉から手を離して数歩後ろへと下がる。崩れ落ちた扉が、先日と同じ、巨岩の魔物へと変形していくのを見守った。
(お、大きい……)
これだけ間近で見るのは初めて。三メートルほどという認識だったが、目の前にするとそれ以上に感じられる。私なんて一捻りだろうという恐怖を覚えながら、足元のビーに声を掛けた。
「ビー、お願い。もう一度、シールドを張ってくれる?」
私の願いに「キュイ」と答えたビー。彼から流れる魔力を感じる。
(これで、大丈夫、だよね……?)
魔力は感じるものの、目に見える何かに守られるわけではない。巨体のゴーレムに対して酷く心もとない気はするが、ビーと、それから、昨夜のイロンの言葉を信じる。
『カーバンクルのシールドはすっごく強いんだよー。襲撃イベントだって、ダメージゼロで乗り切れるんだからー』
ゲーム『ステラガーデン』には、聖女の花育成中に定期的な妨害イベントが発生する。嵐のような自然災害から虫系の魔物による襲撃。それらに対し、シールドを張って花を守るか、ダメージを負った後に回復を図るかなのだが、花の育成を怠っていた私は基本スルー。花も自動回復にまかせていたので知らなかったが、カーバンクルをペットにしておけば、そのダメージを防げるのだという。
(うん。嵐に耐えられるんだから、ゴーレムの攻撃だって大丈夫、だよね?)
目の前、ゴゴゴゴと音を立てて迫るゴーレムの動きを微動だにせず見上げる。ゴーレムが、私の身長の半分はありそうな拳を大きく振り上げるのが見えた。ピタリと止まった拳、振り下ろされるそれを受け止める覚悟をして目を見開くが、怖いものは怖い。
(や、やっぱり、無理……!)
拳が振り下ろされたと思った瞬間、目を瞑ってしまった。目を閉じた一瞬のち、ゴンという鈍い音が響く。
(あ、あれ……?)
痛みどころか何の衝撃もなかった。恐る恐る目を開いた私は、目の前の光景に絶句する。
(え、えっと、これって……?)
目の前には、両手を広げたイロンの後姿。いつぞや、私が投げた髪飾りからシェリルを守ろうとした緑の精霊と同じ格好をしていた。そのイロンの先には、ルーカスの大きな背中。こちらを庇うように立つ彼は剣を構えていたが、その剣がゴーレムの拳を止めているわけではなかった。ゴーレムの拳を受け止めていたのは――
「ビー……?」
「キュ」
丸くなったまま宙に浮いたビーが、ゴーレムの拳をその身体で受け止めている。ルーカスの頭上で微動だにしないビー。
「アリシアー、今の内だよ、行こー」
「え、あ!」
振り向いたイロンの笑顔に、漸く状況を理解する。ビーがゴーレムを足止めしてくれている。今の内にダンジョンに入ってしまえばいいのだ。
ジワリジワリ、後退しながらゴーレムと更に距離を取る。魔物がこちらの動きに反応する様子はない。ビーと組み合ったまま動かない巨体を大きく迂回して、ダンジョンの入口へと急いだ。先程まで扉のあった場所、そこを走り抜けようとして――
「イタッ!……くはない。けど……」
見えない何かに阻まれた。思いっきり衝突してしまった壁のようなものをペタペタと触って確かめていると、剣を収めたルーカスが近づいて来る。隣に並んだルーカスが、同じく見えない壁に触れた。
「……魔法壁だな」
「魔法壁?」
「ああ。無理をすれば壊せないこともないが、……アリシアには難しいだろう。あのゴーレムを倒すほうが早い」
背後を振り向いたルーカスにつられて、私も背後を振り向いた。先程と変わらぬ姿勢でビーとせめぎ合っているゴーレム。
「あれが、ダンジョンに入るためのカギ。どうやら、倒して初めて中に入ることが許されるらしいな」
「そう、なんですね……」
ルーカスの言葉に、がっくりと肩を落とす。私に、あれを倒すのは無理だ。まず、どうやってもゴーレムの額に手が届かない。ルーカスのような跳躍力があるわけでなし、武器だって持っていない。代わりになりそうなものと言えばツルハシくらいのものだが、それだって、ルーカスのように素早く振り回せるわけではない。
ゴーレムが寝転がった状態で、私がよじのぼっても動かず、大人しく額をツルハシで掘らせてくれるなら、何とか。つまり――
(無理だ……)
項垂れる私の横でルーカスが動いた。ゴーレムに向かって跳躍し、寸分たがわず、その額に剣を突き立てた。途端、巨体が横倒しに倒れる。そのまま素早く剣先でゴーレムの胸を穿つルーカス。割れた石の塊の間に手を入れ、中から大振りの魔晶石を取り出した。彼の足元にある巨岩が崩れ始める。
(鮮やか……)
体感で十秒もかかっていないのではという早業に見惚れる。魔晶石を取り出したルーカスが近づいて来る。黙って差し出される魔晶石を、反射で受け取ってしまった。
「……きれい」
やはり、私が掘るものより大きさも透明度も勝る魔晶石。ゴーレムは倒せないまでも、私も青ジェムガチャでこれくらいのものを手に入れてみたかった。もう何度目か分からないガックリに、不意に、頭の上に重みを感じた。ルーカスの大きな手に頭を撫でられている。
「……入ってみるか?」
「えっ!?」
「今日だけだ。俺が付き添えば、問題はないだろう」
(や、優しい……!)
ルーカスが優しすぎる。どうやら、落ち込む私を見かねたらしく、ダンジョンに連れて行ってくれるという。だけど、彼には彼の仕事がある。彼の言葉に甘えるべきではない。そう分かっていても、結局――
「お願いします!」
欲に負けた私は、ルーカスに頭を下げた。
訪れたダンジョンの入口には、以前と同じ石の扉がピタリとはまっている。どうやら、時間によって復活するタイプの扉らしく、初日以降も、ルーカスは毎朝、扉のゴーレムを倒してから中へと入っていた。そのゴーレムを今日は私が起動して、逃げ切らなければならない。
「……アリシア」
呼ばれた名に、扉の前に立つルーカスの側へと近づく。
「ここに手を触れて、魔力を流してみてくれ……」
言われた通り、扉の装飾の一部、丸みのある突起へと手を触れた。魔力を意識してみるけれど、元々があまり魔力のない私ではなかなか流し込むまではいかない。それでも、微弱な魔力で構わないというルーカスの言葉を信じて手を触れ続ければ、漸く、魔力が吸い込まれていく感覚がした。
「……来るぞ」
ルーカスの言葉に、扉から手を離して数歩後ろへと下がる。崩れ落ちた扉が、先日と同じ、巨岩の魔物へと変形していくのを見守った。
(お、大きい……)
これだけ間近で見るのは初めて。三メートルほどという認識だったが、目の前にするとそれ以上に感じられる。私なんて一捻りだろうという恐怖を覚えながら、足元のビーに声を掛けた。
「ビー、お願い。もう一度、シールドを張ってくれる?」
私の願いに「キュイ」と答えたビー。彼から流れる魔力を感じる。
(これで、大丈夫、だよね……?)
魔力は感じるものの、目に見える何かに守られるわけではない。巨体のゴーレムに対して酷く心もとない気はするが、ビーと、それから、昨夜のイロンの言葉を信じる。
『カーバンクルのシールドはすっごく強いんだよー。襲撃イベントだって、ダメージゼロで乗り切れるんだからー』
ゲーム『ステラガーデン』には、聖女の花育成中に定期的な妨害イベントが発生する。嵐のような自然災害から虫系の魔物による襲撃。それらに対し、シールドを張って花を守るか、ダメージを負った後に回復を図るかなのだが、花の育成を怠っていた私は基本スルー。花も自動回復にまかせていたので知らなかったが、カーバンクルをペットにしておけば、そのダメージを防げるのだという。
(うん。嵐に耐えられるんだから、ゴーレムの攻撃だって大丈夫、だよね?)
目の前、ゴゴゴゴと音を立てて迫るゴーレムの動きを微動だにせず見上げる。ゴーレムが、私の身長の半分はありそうな拳を大きく振り上げるのが見えた。ピタリと止まった拳、振り下ろされるそれを受け止める覚悟をして目を見開くが、怖いものは怖い。
(や、やっぱり、無理……!)
拳が振り下ろされたと思った瞬間、目を瞑ってしまった。目を閉じた一瞬のち、ゴンという鈍い音が響く。
(あ、あれ……?)
痛みどころか何の衝撃もなかった。恐る恐る目を開いた私は、目の前の光景に絶句する。
(え、えっと、これって……?)
目の前には、両手を広げたイロンの後姿。いつぞや、私が投げた髪飾りからシェリルを守ろうとした緑の精霊と同じ格好をしていた。そのイロンの先には、ルーカスの大きな背中。こちらを庇うように立つ彼は剣を構えていたが、その剣がゴーレムの拳を止めているわけではなかった。ゴーレムの拳を受け止めていたのは――
「ビー……?」
「キュ」
丸くなったまま宙に浮いたビーが、ゴーレムの拳をその身体で受け止めている。ルーカスの頭上で微動だにしないビー。
「アリシアー、今の内だよ、行こー」
「え、あ!」
振り向いたイロンの笑顔に、漸く状況を理解する。ビーがゴーレムを足止めしてくれている。今の内にダンジョンに入ってしまえばいいのだ。
ジワリジワリ、後退しながらゴーレムと更に距離を取る。魔物がこちらの動きに反応する様子はない。ビーと組み合ったまま動かない巨体を大きく迂回して、ダンジョンの入口へと急いだ。先程まで扉のあった場所、そこを走り抜けようとして――
「イタッ!……くはない。けど……」
見えない何かに阻まれた。思いっきり衝突してしまった壁のようなものをペタペタと触って確かめていると、剣を収めたルーカスが近づいて来る。隣に並んだルーカスが、同じく見えない壁に触れた。
「……魔法壁だな」
「魔法壁?」
「ああ。無理をすれば壊せないこともないが、……アリシアには難しいだろう。あのゴーレムを倒すほうが早い」
背後を振り向いたルーカスにつられて、私も背後を振り向いた。先程と変わらぬ姿勢でビーとせめぎ合っているゴーレム。
「あれが、ダンジョンに入るためのカギ。どうやら、倒して初めて中に入ることが許されるらしいな」
「そう、なんですね……」
ルーカスの言葉に、がっくりと肩を落とす。私に、あれを倒すのは無理だ。まず、どうやってもゴーレムの額に手が届かない。ルーカスのような跳躍力があるわけでなし、武器だって持っていない。代わりになりそうなものと言えばツルハシくらいのものだが、それだって、ルーカスのように素早く振り回せるわけではない。
ゴーレムが寝転がった状態で、私がよじのぼっても動かず、大人しく額をツルハシで掘らせてくれるなら、何とか。つまり――
(無理だ……)
項垂れる私の横でルーカスが動いた。ゴーレムに向かって跳躍し、寸分たがわず、その額に剣を突き立てた。途端、巨体が横倒しに倒れる。そのまま素早く剣先でゴーレムの胸を穿つルーカス。割れた石の塊の間に手を入れ、中から大振りの魔晶石を取り出した。彼の足元にある巨岩が崩れ始める。
(鮮やか……)
体感で十秒もかかっていないのではという早業に見惚れる。魔晶石を取り出したルーカスが近づいて来る。黙って差し出される魔晶石を、反射で受け取ってしまった。
「……きれい」
やはり、私が掘るものより大きさも透明度も勝る魔晶石。ゴーレムは倒せないまでも、私も青ジェムガチャでこれくらいのものを手に入れてみたかった。もう何度目か分からないガックリに、不意に、頭の上に重みを感じた。ルーカスの大きな手に頭を撫でられている。
「……入ってみるか?」
「えっ!?」
「今日だけだ。俺が付き添えば、問題はないだろう」
(や、優しい……!)
ルーカスが優しすぎる。どうやら、落ち込む私を見かねたらしく、ダンジョンに連れて行ってくれるという。だけど、彼には彼の仕事がある。彼の言葉に甘えるべきではない。そう分かっていても、結局――
「お願いします!」
欲に負けた私は、ルーカスに頭を下げた。
11
お気に入りに追加
1,773
あなたにおすすめの小説
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです
よどら文鳥
恋愛
貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。
どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。
ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。
旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。
現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。
貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。
それすら理解せずに堂々と……。
仕方がありません。
旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。
ただし、平和的に叶えられるかは別です。
政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?
ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。
折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる