69 / 85
第二部 第一章
1-3
しおりを挟む「この子、俺の子だった」
「へ?!」
「ど、どういう事かニャ?!」
ルイをお姫様抱っこして世界樹の中から出てきたアズの第一声に、エカとナムロ王様が困惑する。
それから、アズとルイが知った事を聞いて、アズの発言の意味を理解した。
実の子……正しくはその生まれ変わりと知ってから、アズのルイに対する溺愛っぷりは凄かった。
お城で暮らすルイに差し入れを持ってきたり、ルイがねだらなくてもお姫様抱っこしたり頬や額にキスしたり。
「学校の授業で必要な素材があれば獲ってきてあげるからね」
「は、はい……」
我が子の授業に使う素材の提供も惜しまないアズは、竜でも余裕でソロ狩り出来る特S級冒険者。
一方でアズに惚れかけていたルイは、前世のお父さんだと知ってしまい困惑気味だ。
「お母さんと話をしに行こう」
学園が長期休暇に入ると、アズはルイを誘ってアサギリ島に向かった。
世界樹の中で保管されている亡骸ではなく、この世に残されたルルの霊に会わせてあげるらしい。
アズが見せたいものがあるらしくて、エカとボクも同行したよ。
エカとボクにとっては、魔王討伐隊として行って以来のアサギリ島訪問だ。
アサケ大陸北東の海上に浮かぶ、アサギリ島。
草も生えない不毛の地で、かつては魔族と魔物がいる危険な場所だったけど、アズとルルが住むようになってから雰囲気が変わったと聞いていた。
「どう? ちょっと風景良くなっただろ?」
「ちょっとっていうレベルじゃない気がするよ」
エカがツッコミを入れる通り。
岩と土しか無かった大地が、一面の花畑に変わっていた。
「……綺麗~……コスモス畑みたいだ……」
元の世界にある花畑を連想したのか、ルイが呟いた。
咲き乱れる花々は種類も色も様々で、単色の花畑よりも華やかに見える。
「世界のあちこちから集めて植えたんだよ」
ベノワの背中の上から花畑を見下ろして、穏やかな声でアズが言う。
「最初はルルが花を育てようって言って、2人で行った場所から花を少しずつ持ち帰って植え続けたんだ。今はそれが自然に広がって咲いてるよ」
花々に慈しむような眼差しを向けた後、アズは花畑の中心にある小屋の隣に立つ、1本の木の近くにベノワを着陸させた。
「ルル、ただいま」
アズが声をかけると、瑞々しい緑の葉を茂らせる木の枝の間から、幻のように実体のない女性が現れた。
世界樹の中で眠る女性と同じ青いワンピース、長い黒髪と同じ色の犬耳とシッポ、開かれた黒い瞳は艷やかな宝石のように澄んでいる。
『おかえり、アズ。久しぶり、エカ』
念話が優しい波長で心に流れてくる。
精霊のように神秘的な雰囲気を漂わせて微笑むルルは、アズの隣にいるルイを見てハッとした。
『アズ、その黒髪の子は……?』
「ルルが異世界へ送った子だよ」
アズがルイの両肩に手を置き、微笑んで伝える。
『……よかった。生まれてきてくれて凄く嬉しい……』
その時浮かんだルルの微笑みは、切ないくらいに綺麗だった。
「……」
言葉の代わりに、ルイの瞳から涙が流れ始める。
何故泣いているのか、本人も分からない様子だった。
次々に頬を伝う涙が、地面に落ちて吸い込まれてゆく。
『日本のお父さんとお母さんは、どんな名前を付けてくれたの?』
「……る……【琉生】……です……」
問いかけられて、ルイは嗚咽しながらやっとの思いで答えた。
『素敵な名前、これからはルイって呼ぶね』
ルルがまた微笑む。
『……おかえり、ルイ……』
その【声】に呼応するように、周囲の花々から無数の花びらが舞った。
「へ?!」
「ど、どういう事かニャ?!」
ルイをお姫様抱っこして世界樹の中から出てきたアズの第一声に、エカとナムロ王様が困惑する。
それから、アズとルイが知った事を聞いて、アズの発言の意味を理解した。
実の子……正しくはその生まれ変わりと知ってから、アズのルイに対する溺愛っぷりは凄かった。
お城で暮らすルイに差し入れを持ってきたり、ルイがねだらなくてもお姫様抱っこしたり頬や額にキスしたり。
「学校の授業で必要な素材があれば獲ってきてあげるからね」
「は、はい……」
我が子の授業に使う素材の提供も惜しまないアズは、竜でも余裕でソロ狩り出来る特S級冒険者。
一方でアズに惚れかけていたルイは、前世のお父さんだと知ってしまい困惑気味だ。
「お母さんと話をしに行こう」
学園が長期休暇に入ると、アズはルイを誘ってアサギリ島に向かった。
世界樹の中で保管されている亡骸ではなく、この世に残されたルルの霊に会わせてあげるらしい。
アズが見せたいものがあるらしくて、エカとボクも同行したよ。
エカとボクにとっては、魔王討伐隊として行って以来のアサギリ島訪問だ。
アサケ大陸北東の海上に浮かぶ、アサギリ島。
草も生えない不毛の地で、かつては魔族と魔物がいる危険な場所だったけど、アズとルルが住むようになってから雰囲気が変わったと聞いていた。
「どう? ちょっと風景良くなっただろ?」
「ちょっとっていうレベルじゃない気がするよ」
エカがツッコミを入れる通り。
岩と土しか無かった大地が、一面の花畑に変わっていた。
「……綺麗~……コスモス畑みたいだ……」
元の世界にある花畑を連想したのか、ルイが呟いた。
咲き乱れる花々は種類も色も様々で、単色の花畑よりも華やかに見える。
「世界のあちこちから集めて植えたんだよ」
ベノワの背中の上から花畑を見下ろして、穏やかな声でアズが言う。
「最初はルルが花を育てようって言って、2人で行った場所から花を少しずつ持ち帰って植え続けたんだ。今はそれが自然に広がって咲いてるよ」
花々に慈しむような眼差しを向けた後、アズは花畑の中心にある小屋の隣に立つ、1本の木の近くにベノワを着陸させた。
「ルル、ただいま」
アズが声をかけると、瑞々しい緑の葉を茂らせる木の枝の間から、幻のように実体のない女性が現れた。
世界樹の中で眠る女性と同じ青いワンピース、長い黒髪と同じ色の犬耳とシッポ、開かれた黒い瞳は艷やかな宝石のように澄んでいる。
『おかえり、アズ。久しぶり、エカ』
念話が優しい波長で心に流れてくる。
精霊のように神秘的な雰囲気を漂わせて微笑むルルは、アズの隣にいるルイを見てハッとした。
『アズ、その黒髪の子は……?』
「ルルが異世界へ送った子だよ」
アズがルイの両肩に手を置き、微笑んで伝える。
『……よかった。生まれてきてくれて凄く嬉しい……』
その時浮かんだルルの微笑みは、切ないくらいに綺麗だった。
「……」
言葉の代わりに、ルイの瞳から涙が流れ始める。
何故泣いているのか、本人も分からない様子だった。
次々に頬を伝う涙が、地面に落ちて吸い込まれてゆく。
『日本のお父さんとお母さんは、どんな名前を付けてくれたの?』
「……る……【琉生】……です……」
問いかけられて、ルイは嗚咽しながらやっとの思いで答えた。
『素敵な名前、これからはルイって呼ぶね』
ルルがまた微笑む。
『……おかえり、ルイ……』
その【声】に呼応するように、周囲の花々から無数の花びらが舞った。
11
お気に入りに追加
1,767
あなたにおすすめの小説

【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~
参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。
二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。
アイシアはじっとランダル様を見つめる。
「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」
「何だ?」
「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」
「は?」
「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」
婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。
傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。
「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」
初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。
(あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?)
★小説家になろう様にも投稿しました★

【完結】「図書館に居ましたので」で済む話でしょうに。婚約者様?
BBやっこ
恋愛
婚約者が煩いのはいつもの事ですが、場所と場合を選んでいただきたいものです。
婚約破棄の話が当事者同士で終わるわけがないし
こんな麗かなお茶会で、他の女を連れて言う事じゃないでしょうに。
この場所で貴方達の味方はいるのかしら?
【2023/7/31 24h. 9,201 pt (188位)】達成

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

領地運営は私抜きでどうぞ~もう勝手におやりください~
ネコ
恋愛
伯爵領を切り盛りするロザリンは、優秀すぎるがゆえに夫から嫉妬され、冷たい仕打ちばかり受けていた。ついに“才能は認めるが愛してはいない”と告げられ離縁を迫られたロザリンは、意外なほどあっさり了承する。すべての管理記録と書類は完璧に自分の下へ置いたまま。この領地を回していたのは誰か、あなたたちが思い知る時が来るでしょう。

魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる