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第二部 第一章

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「……え?」

イロンの言葉に、一瞬、思考が停止した。

「……ダンジョン?」

四つん這いで間抜けな声を上げた私に、イロンがフワフワと近寄って来る。

「うん、そう、ダンジョン!すごいね、アリシアは。ダンジョンまで掘り当てちゃうんだから!」

「……えっと、でも、魔力の気配を感じたのはイロンだから」

「そうだね!僕、ずーっと不思議だったんだ。なんでこんなところにこんな立派な魔晶石が育つんだろーって。それって、きっと、このダンジョンから漏れ出た魔力のせいだったんだねー」

「あーすっきりした」と満足げに笑うイロンを見つめながら、これからどうするかを考える。

(えっと、ダンジョン、だから、誰かに報告しないといけないんだろうけど……)

報告のためには、もう少し、自分の目でこの場を確かめなければならない。

「イロン、そこって魔物が出たりしない?危なくはない?」

何の警戒もなくフワフワと飛び回るイロンにそう声を掛ければ、彼からは「大丈夫ー」という呑気な声が返ってきた。その言葉に意を決して、壁の穴を潜る。抜けた先、立ち上がって周囲を見回せば、先程までより高い天井、やはり、神殿か何かだったのではないかと思わせる建造物の跡が残されていた。自分の背丈ほどの高さしか残されていない石壁をグルリと回り、地に倒れ朽ちてしまっている石柱を越える。思ったより奥行の有ったその場所は、学校の体育館程度の広さがあった。

「アリシア―、こっちこっち」

遺跡の中を歩いて回る内に、イロンがこちらの名を呼ぶ。呼ばれた方へと進んでいくと、壁の一部に大きな両開きの扉が見えて来た。土でできているように見えるその扉は二メートルを優に超え、一体どうやって開くのかも分からないほど、ピタリと隙間なく閉じられている。

「この扉って?」

そう尋ねると、イロンが「うん」と頷いて答えた。

「正確に言うとここから先がダンジョンみたい。魔力がいっぱい流れて来るし、魔物の気配みたいなのも感じるから」

「魔物……」

思わず後ずさったところで、かかとで何かを蹴飛ばしてしまった。

「え?」

固まったまま、首だけをひねって足元を見下ろせば、かかとのすぐ後ろに丸い石が転がっている。

「卵……?」

ダチョウの卵を思わせるほどの大きさ、片手では持ち上げられないそれを持ち上げようとしゃがみ込む。両手で触れようとした瞬間、イロンの焦ったような声が聞こえた。

「あー!アリシア、だめー!」

「え……?」

一瞬、間に合わず。既に石に触れてしまった両手をぎこちなく離す。恐々と見つめた石に変化はなかった。代わりに――

「えっ!?キャァア!なに、これっ!?」

「あーあ、始まっちゃったね?」

腰に着けていたポシェット、所有者である私以外には開けられないはずのそれの口が開き、中に入れていた青ジェムが次々に飛び出してくる。青く光った石達が溶け出し、石の卵を覆うように周囲をグルグルと回り始めた。

「な、なに、なに?何が始まったの?」

焦って言葉の上手く出てこない私に、クルリと宙を回ったイロンがクフフと笑う。

「ペットガチャだよー」

「え?」

イロンの言葉に、また思考が止まりそうになった。

「……ペットガチャ?」

「そうだよー。アクセサリー兼サポート用のモンスター。アリシアは持ってなかったけど、結構人気があったでしょう?」

「あ!」

(アレか……!)

思い出した。前世でプレイしていたアプリゲーム『ステラガーデン』。リリース時から実装されていた精霊と違い、サポートアイテムとして追加実装されたペットは、「ペットガチャ」を回さなければ入手できない。ペットガチャはクエストで入手できる「ペットの卵」に加え、青ジェムが必要だったたため、イロンの育成に全てを賭けていた私が手を出すことはなかったのだが――

「あ、確定演出だ!」

イロンの言葉にギョッとして、近いままだった卵から距離を取った。青い光に包まれていたはずの卵が今は赤く光っている。光が収まると、目の前に現れたのは赤い宝石のような卵だった。

「うーん、SSR確定かー。URには届かなかったけど、でも、楽しみだねー」

ニコニコと笑うイロン。彼の視線の先には赤く輝く卵がある。暗闇にあってもキラキラと輝くのは、卵自体が光を放っているためだろう。ピシリ、音を立てた卵の頭頂部にヒビが入るのが見えた。

「僕、ドラゴンとか見てみたいなー」

「ド、ドラゴン!?」

今にも何かが飛び出して来そうな卵を前に、イロンはのんびりと構えたまま。ドラゴンという単語を聞いて焦る。

「だ、だめ!ドラゴンは絶対だめ!」

「えー?心配しなくても、ペットだから大人しいよ?アリシアを食べたりしないから、大丈夫」

イロンの言葉に、ブンブンと首を横に振る。ピシリ、更に亀裂の広がった卵の殻がポロリと剥がれ落ちた。隙間から見える何かがモゾリと動くのが見える。その「何か」から目をはなせまま、必死に叫んだ。

「ドラゴンは無理!そんなの、絶対、家で飼えないからー!」




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