68 / 85
第二部 第一章
1-2
しおりを挟む
「……え?」
イロンの言葉に、一瞬、思考が停止した。
「……ダンジョン?」
四つん這いで間抜けな声を上げた私に、イロンがフワフワと近寄って来る。
「うん、そう、ダンジョン!すごいね、アリシアは。ダンジョンまで掘り当てちゃうんだから!」
「……えっと、でも、魔力の気配を感じたのはイロンだから」
「そうだね!僕、ずーっと不思議だったんだ。なんでこんなところにこんな立派な魔晶石が育つんだろーって。それって、きっと、このダンジョンから漏れ出た魔力のせいだったんだねー」
「あーすっきりした」と満足げに笑うイロンを見つめながら、これからどうするかを考える。
(えっと、ダンジョン、だから、誰かに報告しないといけないんだろうけど……)
報告のためには、もう少し、自分の目でこの場を確かめなければならない。
「イロン、そこって魔物が出たりしない?危なくはない?」
何の警戒もなくフワフワと飛び回るイロンにそう声を掛ければ、彼からは「大丈夫ー」という呑気な声が返ってきた。その言葉に意を決して、壁の穴を潜る。抜けた先、立ち上がって周囲を見回せば、先程までより高い天井、やはり、神殿か何かだったのではないかと思わせる建造物の跡が残されていた。自分の背丈ほどの高さしか残されていない石壁をグルリと回り、地に倒れ朽ちてしまっている石柱を越える。思ったより奥行の有ったその場所は、学校の体育館程度の広さがあった。
「アリシア―、こっちこっち」
遺跡の中を歩いて回る内に、イロンがこちらの名を呼ぶ。呼ばれた方へと進んでいくと、壁の一部に大きな両開きの扉が見えて来た。土でできているように見えるその扉は二メートルを優に超え、一体どうやって開くのかも分からないほど、ピタリと隙間なく閉じられている。
「この扉って?」
そう尋ねると、イロンが「うん」と頷いて答えた。
「正確に言うとここから先がダンジョンみたい。魔力がいっぱい流れて来るし、魔物の気配みたいなのも感じるから」
「魔物……」
思わず後ずさったところで、かかとで何かを蹴飛ばしてしまった。
「え?」
固まったまま、首だけをひねって足元を見下ろせば、かかとのすぐ後ろに丸い石が転がっている。
「卵……?」
ダチョウの卵を思わせるほどの大きさ、片手では持ち上げられないそれを持ち上げようとしゃがみ込む。両手で触れようとした瞬間、イロンの焦ったような声が聞こえた。
「あー!アリシア、だめー!」
「え……?」
一瞬、間に合わず。既に石に触れてしまった両手をぎこちなく離す。恐々と見つめた石に変化はなかった。代わりに――
「えっ!?キャァア!なに、これっ!?」
「あーあ、始まっちゃったね?」
腰に着けていたポシェット、所有者である私以外には開けられないはずのそれの口が開き、中に入れていた青ジェムが次々に飛び出してくる。青く光った石達が溶け出し、石の卵を覆うように周囲をグルグルと回り始めた。
「な、なに、なに?何が始まったの?」
焦って言葉の上手く出てこない私に、クルリと宙を回ったイロンがクフフと笑う。
「ペットガチャだよー」
「え?」
イロンの言葉に、また思考が止まりそうになった。
「……ペットガチャ?」
「そうだよー。アクセサリー兼サポート用のモンスター。アリシアは持ってなかったけど、結構人気があったでしょう?」
「あ!」
(アレか……!)
思い出した。前世でプレイしていたアプリゲーム『ステラガーデン』。リリース時から実装されていた精霊と違い、サポートアイテムとして追加実装されたペットは、「ペットガチャ」を回さなければ入手できない。ペットガチャはクエストで入手できる「ペットの卵」に加え、青ジェムが必要だったたため、イロンの育成に全てを賭けていた私が手を出すことはなかったのだが――
「あ、確定演出だ!」
イロンの言葉にギョッとして、近いままだった卵から距離を取った。青い光に包まれていたはずの卵が今は赤く光っている。光が収まると、目の前に現れたのは赤い宝石のような卵だった。
「うーん、SSR確定かー。URには届かなかったけど、でも、楽しみだねー」
ニコニコと笑うイロン。彼の視線の先には赤く輝く卵がある。暗闇にあってもキラキラと輝くのは、卵自体が光を放っているためだろう。ピシリ、音を立てた卵の頭頂部にヒビが入るのが見えた。
「僕、ドラゴンとか見てみたいなー」
「ド、ドラゴン!?」
今にも何かが飛び出して来そうな卵を前に、イロンはのんびりと構えたまま。ドラゴンという単語を聞いて焦る。
「だ、だめ!ドラゴンは絶対だめ!」
「えー?心配しなくても、ペットだから大人しいよ?アリシアを食べたりしないから、大丈夫」
イロンの言葉に、ブンブンと首を横に振る。ピシリ、更に亀裂の広がった卵の殻がポロリと剥がれ落ちた。隙間から見える何かがモゾリと動くのが見える。その「何か」から目をはなせまま、必死に叫んだ。
「ドラゴンは無理!そんなの、絶対、家で飼えないからー!」
イロンの言葉に、一瞬、思考が停止した。
「……ダンジョン?」
四つん這いで間抜けな声を上げた私に、イロンがフワフワと近寄って来る。
「うん、そう、ダンジョン!すごいね、アリシアは。ダンジョンまで掘り当てちゃうんだから!」
「……えっと、でも、魔力の気配を感じたのはイロンだから」
「そうだね!僕、ずーっと不思議だったんだ。なんでこんなところにこんな立派な魔晶石が育つんだろーって。それって、きっと、このダンジョンから漏れ出た魔力のせいだったんだねー」
「あーすっきりした」と満足げに笑うイロンを見つめながら、これからどうするかを考える。
(えっと、ダンジョン、だから、誰かに報告しないといけないんだろうけど……)
報告のためには、もう少し、自分の目でこの場を確かめなければならない。
「イロン、そこって魔物が出たりしない?危なくはない?」
何の警戒もなくフワフワと飛び回るイロンにそう声を掛ければ、彼からは「大丈夫ー」という呑気な声が返ってきた。その言葉に意を決して、壁の穴を潜る。抜けた先、立ち上がって周囲を見回せば、先程までより高い天井、やはり、神殿か何かだったのではないかと思わせる建造物の跡が残されていた。自分の背丈ほどの高さしか残されていない石壁をグルリと回り、地に倒れ朽ちてしまっている石柱を越える。思ったより奥行の有ったその場所は、学校の体育館程度の広さがあった。
「アリシア―、こっちこっち」
遺跡の中を歩いて回る内に、イロンがこちらの名を呼ぶ。呼ばれた方へと進んでいくと、壁の一部に大きな両開きの扉が見えて来た。土でできているように見えるその扉は二メートルを優に超え、一体どうやって開くのかも分からないほど、ピタリと隙間なく閉じられている。
「この扉って?」
そう尋ねると、イロンが「うん」と頷いて答えた。
「正確に言うとここから先がダンジョンみたい。魔力がいっぱい流れて来るし、魔物の気配みたいなのも感じるから」
「魔物……」
思わず後ずさったところで、かかとで何かを蹴飛ばしてしまった。
「え?」
固まったまま、首だけをひねって足元を見下ろせば、かかとのすぐ後ろに丸い石が転がっている。
「卵……?」
ダチョウの卵を思わせるほどの大きさ、片手では持ち上げられないそれを持ち上げようとしゃがみ込む。両手で触れようとした瞬間、イロンの焦ったような声が聞こえた。
「あー!アリシア、だめー!」
「え……?」
一瞬、間に合わず。既に石に触れてしまった両手をぎこちなく離す。恐々と見つめた石に変化はなかった。代わりに――
「えっ!?キャァア!なに、これっ!?」
「あーあ、始まっちゃったね?」
腰に着けていたポシェット、所有者である私以外には開けられないはずのそれの口が開き、中に入れていた青ジェムが次々に飛び出してくる。青く光った石達が溶け出し、石の卵を覆うように周囲をグルグルと回り始めた。
「な、なに、なに?何が始まったの?」
焦って言葉の上手く出てこない私に、クルリと宙を回ったイロンがクフフと笑う。
「ペットガチャだよー」
「え?」
イロンの言葉に、また思考が止まりそうになった。
「……ペットガチャ?」
「そうだよー。アクセサリー兼サポート用のモンスター。アリシアは持ってなかったけど、結構人気があったでしょう?」
「あ!」
(アレか……!)
思い出した。前世でプレイしていたアプリゲーム『ステラガーデン』。リリース時から実装されていた精霊と違い、サポートアイテムとして追加実装されたペットは、「ペットガチャ」を回さなければ入手できない。ペットガチャはクエストで入手できる「ペットの卵」に加え、青ジェムが必要だったたため、イロンの育成に全てを賭けていた私が手を出すことはなかったのだが――
「あ、確定演出だ!」
イロンの言葉にギョッとして、近いままだった卵から距離を取った。青い光に包まれていたはずの卵が今は赤く光っている。光が収まると、目の前に現れたのは赤い宝石のような卵だった。
「うーん、SSR確定かー。URには届かなかったけど、でも、楽しみだねー」
ニコニコと笑うイロン。彼の視線の先には赤く輝く卵がある。暗闇にあってもキラキラと輝くのは、卵自体が光を放っているためだろう。ピシリ、音を立てた卵の頭頂部にヒビが入るのが見えた。
「僕、ドラゴンとか見てみたいなー」
「ド、ドラゴン!?」
今にも何かが飛び出して来そうな卵を前に、イロンはのんびりと構えたまま。ドラゴンという単語を聞いて焦る。
「だ、だめ!ドラゴンは絶対だめ!」
「えー?心配しなくても、ペットだから大人しいよ?アリシアを食べたりしないから、大丈夫」
イロンの言葉に、ブンブンと首を横に振る。ピシリ、更に亀裂の広がった卵の殻がポロリと剥がれ落ちた。隙間から見える何かがモゾリと動くのが見える。その「何か」から目をはなせまま、必死に叫んだ。
「ドラゴンは無理!そんなの、絶対、家で飼えないからー!」
11
お気に入りに追加
1,773
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
自宅が全焼して女神様と同居する事になりました
皐月 遊
恋愛
如月陽太(きさらぎようた)は、地元を離れてごく普通に学園生活を送っていた。
そんなある日、公園で傘もささずに雨に濡れている同じ学校の生徒、柊渚咲(ひいらぎなぎさ)と出会う。
シャワーを貸そうと自宅へ行くと、なんとそこには黒煙が上がっていた。
「…貴方が住んでるアパートってあれですか?」
「…あぁ…絶賛燃えてる最中だな」
これは、そんな陽太の不幸から始まった、素直になれない2人の物語。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる