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第二部 第一章

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「うわぁ!アリシア、おめでとう!採掘レベルが二十に上がったよー!」

坑道に響くイロンのはしゃぐ声に、魔晶石の鉱脈に向かってツルハシを振るっていた手を止めた。

「本当?」

相変わらず、レベルが上がった実感はあまりない。流石に、採掘を始めた当初より効率が良くなったのは分かるが、つい先程までと比べて何かが劇的に変わるわけではない。まして、前世のゲームのように「レベルが上がりました」の表示や効果音が鳴るわけでもないから、イロンのこの「お知らせ」が無ければ、私は早々にレベル上げに飽きていたかもしれない。

(……試しに)

一振り、ツルハシを振るってみる。けれどやはり、手元の感触は先程と変わらず、ガツンと響いた音も魔晶石に入ったヒビにも大きな変化はなかった。

「あっ!」

「え?」

イロンの驚いたような声に後ろを振り向く。宙に浮かび、目を見開いてこちらを見ているイロンが、開いた両手で口を覆って「すごーい!」と叫んだ。

「アリシア、すごいすごい!新スキルだよ!新しいスキルまで覚えてる!わぁ、やっぱり僕のアリシアはすごいなー!」

そう言って、クルンクルンと空中を回転したイロンは、ピタリと宙で停止してクフフと笑った。

「うんうん、流石アリシアだね。『暗視』獲得、おめでとう!」

「暗視……」

イロンの告げたスキル名に、微妙な気持ちになったが、それを表には出さないようにする。イロンがこれだけ喜んでくれているのだ。例え、女子力とは無縁そうなスキルでも良しとしよう。

(うん、採掘の役に立つのは確かだしね……)

そう自分を納得させて、足元に置いたカンテラの灯りを消してみた。

「あ!うわぁ、すごい!本当だ、結構しっかり見える!」

「ふふー。でしょでしょ?暗視はとってもお役立ちスキルなんだよー!」

暗視と聞いて想像していた光景との違いに感動する。「暗闇にぼんやりとものが見える」というのではなく、見える範囲がうすぼんやりと明るいのだ。夕暮れ時、電気を消した部屋の中にいるような視界。ものの形はもちろん、色や陰影などもかなりよく分かる。

「これ、本当に助かるかも」

言いながら、足元を見た。砕いた岩や魔晶石の間に、青いジェムが転がっている。今までは、カンテラの灯りを頼りに地面をなめるようにして探さなければならなかった青ジェム。それが立ったままでも見える。

早速、地面にしゃがみ込み、青ジェムを回収していった。今までは片手にカンテラを掲げていたのが、両手が使えるようになった分、回収作業も早い。あっという間に集め終わった青ジェムは、午前中に集めたものと合わせて百一個。五時間弱でこの数はまずまずの成果だと言える。

(青ジェムの採取量は、採掘スキルが上がってもあまり変化はない、か……)

それよりもむしろ、採掘する場所や掘る鉱石によって量が変化するようだった。魔力を含まない岩石や光石を掘るよりも、こうして魔晶石を掘っていた方が生成される青ジェムの量は多い。ただそれも、ずっと魔晶石を掘っている今は頭打ちの気配がしている。

ふと、視線を先程掘っていた魔晶石へ向けると、イロンが壁際にしゃがみ込んでいた。

「イロン?どうかした?」

何かあったのかと近づけば、こちらに背中を向けたまま「うーん?」と首を傾げたイロンが魔晶石の一部を指さす。

「なんだか、ここから変な感じの魔力がする」

「魔力?」

「うん。魔晶石とは違う魔力。……新しい石かなぁ?」

そう呟いてまた首を傾げたイロンの言葉に、少しワクワクした。

「新しい石か。イロンでも何の石か分からないことがあるの?」

「うん、あるよー。色んな魔力が混ざってたり、本当に初めましての石もあったりするからー」

「そっか。……じゃあ、ちょっと掘ってみる?」

ウキウキしながらそう告げれば、「そうだね!」とイロンも楽しそうに答えた。そのままフワリと宙に浮いたイロンに代わって、壁際へと立つ。先程、イロンが指さしたあたり、地面に近い部分の魔晶石に向かってツルハシを振り下ろした。

「あ!」

「うわぁ!」

ガツンとツルハシが魔晶石に当たった途端、その一部がボロリと崩れ、小さな穴が開いた。

「……空洞?」

鉱山を貫通して外に通じてしまったにしては、穴の向こうが暗い。どこか別の坑道に繋がったのだろうかと、穴の周囲を広げるようにして何度かツルハシで砕いていく。そうして漸く、大人でもなんとか潜れる程度の大きさにまで穴が広がったところで、ツルハシを振るう手を止めた。

屈みこみ、穴の向こうを覗いて見る。

「……何だろう、これ。遺跡かな?」

穴の奥に見えたのは広い空間、そこに石のブロックを積み上げたような壁や石柱のようなものが立っている。ただ、そのどれもが崩壊し、朽ち果てている様子に、中に入るかをためらった。悩む私の横を、イロンがすり抜けて行く。そのまま、穴の向こうの空間をフヨフヨと漂うイロン。最後に、四、五メートルはある天井まで飛び上がった彼が、今日一番のはしゃいだ声を上げた。

「すごーい!すごいよ、アリシア―!これ、ダンジョンだー!」




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