【更新停滞中】石に愛されし令嬢~聖女にも王太子妃にもなれませんでしたが、採掘スキルはカンストできそうです~

リコピン

文字の大きさ
上 下
40 / 85
第四章 二人の距離

4-6

しおりを挟む
結局、ルーカスに言いくるめられてしまった。

食事を終えた後、徹夜仕事で眠気が限界だというルーカスをそれ以上引き止めることもできず、指輪を返すことが出来ないまま家を出た。ギルドで申請を済ませ、昨日、大岩に苦戦した鉱山――クロエの情報から廃棄された第四坑道だと分かった――に向かいながら、意識はずっと左手に集中していた。

坑道に入った後も、岩の前でツルハシを握った時も、指輪が気になって仕方ない。傷つけてしまうのではないかという不安もあり、本当に外れないものかと指輪をクルクル回していると、フヨフヨと近づいてきたイロンがルビーを覗き込んだ。

「アリシアは、この子が好きじゃないのー?」

「っ!まさか!すっごく綺麗だし、すっごく好きだよ!」

高価な指輪であることに戸惑いはあるが、ルビーそのものはとても素敵だと思っている。石のままでも美しかったが、こうして指輪として完成された姿は息をのむほどに美しい。本当はずっと魅入っていたいくらいだと伝えれば、イロンは嬉しそうに笑った。

「うんうん。良かった良かったー。この子も、すっごく喜んでる。張り切ってるみたいだからさー」

「張り切ってる?」

イロンの謎の言葉に首を傾げれば、クフフと笑った彼は「まだ内緒」と小さな指を口元に当てた。

「アリシア、まずは掘ってみてよ。そうすれば分かるから!」

イロンの言葉に背中を押されて、指輪をはめたまま――その存在はもう気にしないようにして――ツルハシを持ち上げた。構えて、岩に振り下ろした瞬間、想定外の事態に思わず目を瞑った。

「っ!」

「うっわー!びっくりした!アリシア、大丈夫?」

「う、うん……」

目を開き、目の前の惨状を理解して唖然とする。昨日、なかなか砕けない石に苦戦した時と同じ強さ、力の限り振り下ろしたツルハシは、見事に大岩の一部にクレーターを開けていた。勢いで飛び散った石片が周囲に飛び散っている。

「ルーカスってすごいねー。こーんなに強力な付与が出来ちゃうなんて」

イロンのノホホンとした言葉にハッとする。自身の左手、薬指にはまる指輪を確かめれば、暗闇の中、薄っすらと魔力光らしきものが確認できた。

「……今のが、ルーカスの言ってた『腕力強化』?」

「だねー。ルビーは身体強化系の魔術と相性いいもんね。アリシアの魔力に魔晶石の魔力を補助にして、最大限まで増幅してる感じ?」

コテンと首を傾げたイロンの言葉に「そうなのか」と頷いて、今度は力を加減しながらツルハシを振るった。ガツンと、衝撃としては以前の光石と変わらない程度の手応えに、だけど、目の前の黒い岩はあっさりと砕けてしまう。

「……すごい」

「ねー?」

思わず、もう一度指輪を確認する。しげしげと眺めれば、指輪の台座部分、ルビーの底に何やら文字らしきものが刻まれているのが見えた。元より魔術式には明るくないが、暗闇の中、ほとんど線のようなそれを肉眼で読み解くことは出来ない。横から、イロンがヒョイと覗き込んで来る。

「うわー、すごいねー。『腕力強化』を石が壊れないギリギリまで『増幅』してー、『落下防止』に、こっちは『追跡』?……なんで?」

首を傾げたイロンが「何だかもう呪いの指輪みたいだね?」と言うのを乾いた笑いで聞きながら、改めて、ルーカスのすごさを思った。

(本当に、こんな指輪を気軽にくれちゃうなんて……)

気前が良いというか、人が良すぎるというか。彼の親切に全力で甘えてしまっている心苦しさは付きまとうけれど、私は自分に出来る形で彼に「お返し」するしかない。

「……よし、掘ろう」

お金に無頓着――何しろ、三億ギールをポンと出してくれるくらいだ――のルーカスに喜んでもらえるもの、そんなのもう、思いつくのはたった一つだった。

「目指せ、魔晶石!」

黒い岩の向こう、埋まっているはずの魔晶石を目指してツルハシを振るう。

背後、イロンの「がんばれー」という掛け声をBGMにツルハシを振り下ろせば、岩は面白いように砕けていく。まさに、サクサクという勢いで崩れ落ちていく岩、途中、何度か手を止めて岩を運び出しながら、ヒト一人通れるだけの穴を掘り進めた。

「あ!アリシア、見て見て!」

イロンの声に手を止める。どれくらいの時間没頭していたのか、気づけば、岩に開けたトンネルの奥行が二メートルを超えていた。イロンの指さす先、たったいま砕いた岩の下にキラリと光るものが見える。

「これって……」

「うんうん、魔晶石だよ!やっと到達したねー!」

嬉しそうなイロンの声に、私も顔がにやける。砕いた岩を避け、露出した鉱石、カンテラの光を反射する透明な石を目掛けて、ツルハシを振り下ろした。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました

Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。 月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。 ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。 けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。 ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。 愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。 オスカー様の幸せが私の幸せですもの。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

処理中です...