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第三章 採掘士

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翌朝、一番で乗り込んだギルド、受付に座るかどうかのタイミングのクロエを捕まえて、昨日あったことを話した。光石を買取ってもらうにはどうすればいいかという問いに、クロエは難しい顔で首を横に振る。

「……難しいですね」

「そう、なんですか……?」

勢い込んで伝えた内容に、クロエから期待していたような返事は返って来なかった。力の抜けてしまった私に、クロエがすまなそうな顔をする。

「光石の取引停止については、私も今朝、ケイトさんから聞かされました。彼女曰く、『供給過多だから』とのことでしたが、それがまぁ、全くの嘘ではない分、質が悪いと言いますか……」

声を落としたクロエの眉間に皺が寄った。

「確かに、ここ最近、光石の買取価格は下がっています。ですが、光石は保管も容易で消費も早い。本来、取引価格が最低価格に下がったところで、取引停止にはならないんです」

「だったら、取引が停止になったのは……」

「完全なる嫌がらせですよ、アリシアさんに対する。……全く、やることが稚拙で嫌になりますね」

そう口にしたクロエの目は座っていたが、フッとその目を伏せてこちらに頭を下げた。

「ごめんなさい。私に取引再開の権限があればいいんですが……」

「あ、謝らないでください!」

クロエは何も悪くない。頭を上げるようお願いすれば、顔を上げた彼女が唇を噛んだ。

「ギルド長のいない今、ギルドの采配はケイトさんに任されているんです。彼女は本部採用組ですから」

「本部採用?」

聞きなれない言葉を問い返せば、クロエがカウンターの奥にチラリと視線を向ける。朝の早い時間、まだ人もまばらなため暇を持て余しているのか、ケイト達三人が談笑している姿が見えた。こちらの視線に気づいたケイトが何かを言い、他の二人が大袈裟なくらいの声で嗤う。

そっと視線を戻せば、クロエが苦虫を嚙み潰したような顔で下を向いていた。

「……以前、彼女達がヘンレンの中央ギルドから派遣されていることはお話ししましたよね?」

「はい」

「彼女達以外のギルド職員は現地採用、ほとんどがこの辺り出身の人間なんです。私もガノーク出身で、ギルド長に直接採用されました」

クロエの言葉にそうだったのかと頷く。以前、彼女がケイト達の派遣の話を他人事のように話していた理由がこれでわかった。

クロエが大きくため息をつく。

「まったく、馬鹿らしい話ですけど、ギルドでは中央から派遣された者の方が職位が上、ギルド長代理は中央採用組っていう決まりがあるんです。……ですから、ケイトさんにギルドとしての決定だと言われてしまうと、私たちは逆らえません」

「そういうことだったんですね……」

「すみません。ギルド長が帰ってくれば、こんな横暴は許さない。直ぐに是正されるんですが……」

そのギルド長が帰って来るのが半月先。それまでこの状態が続くのだとすると、私の収入源というだけの話だけでなく、他の多くの人が迷惑を被る。中には、昨日の人にように私のせいでと考える人も出て来るだろう。

「……クロエさん、私、光石はもう持ち込みません。それを伝えて、ケイトさんに買取を再開するよう言ってもらえませんか?」

「それは……、ですが、いいんですか?」

「ええ、構いません」

心配そうな表情を浮かべるクロエに頷いて見せる。正直、これからどうすればいいのかなんて分からない。それでも、今、自分がとれる選択肢はそれしかなかった。

「ケイトさんに伝えてみます」と言ってくれたクロエに頭を下げて、ギルドを後にする。通りを歩きながらこの先どうするかを考えるが、何も考えが浮かばずに途方に暮れた。

(……ルーカスに相談する?採掘以外で何か出来ないか聞いてみるとか)

そう考えてみるも、足は自然といつもの道、鉱山へ続く道を歩いている。

(どうしよう……)

思わず零したため息に、頭の中で声がした。

――アリシア―、やっぱり、光石は駄目なのー?

昨日も今日も、ギルドでの会話を聞いていたらしいイロンの言葉に、小さく頷いて返事をする。

(うん。駄目だった)

――そっかー、じゃあ、今日は他の石を掘る?

イロンの言葉にグッと詰まる。一昨日までの光石の持ち込みで、目標の八割、八万ギールは貯めることができた。それでも、鋼製のツルハシにはまだ手が届かない。ガノークは魔晶石鉱山のため、それ以外の鉱物に関する情報はほとんど無く、光石以外の鉱物となるとどこでどう掘ればいいのかも分からない。

(……ねぇ、イロン。光石以外に掘りやすい石って何か知ってる?)

ダメもとで尋ねたイロンへの問いかけに、頭の中で可愛い笑い声が響いた。

――クフフ。もちろん知ってるよー!

「本当っ!?」

驚きに思わず声を上げてしまい、慌てて周囲を見回す。幸いなことに、既に街を出ていたこともあり、辺りに人影は見当たらない。再び、心の中でイロンに尋ねた。

(何が掘れるの?いつもの、第一坑道で掘れるもの?)

――うん、大丈夫。今のアリシアなら、どこでだって掘れるよ!

(え?どこでも……?)

――そうだよー。何が掘れるかは僕にも分からないから、掘ってみてのお楽しみ!

イロンの不思議な言葉に首を傾げるが、彼の「早く行こう!」の言葉に押されて歩調が速くなる。イロンの自信満々な様子、楽し気な雰囲気に、いつしか気分も上向いていた。




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