【更新停滞中】石に愛されし令嬢~聖女にも王太子妃にもなれませんでしたが、採掘スキルはカンストできそうです~

リコピン

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第三章 採掘士

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アリシアは石に好かれているんだな――

「っ!」

「わぁ!びっくりした。アリシア大丈夫?」

「う、うん。大丈夫。……ごめんね、イロン」

鉱山の第一坑道、いつもと同じように光石を無心で掘っていたはずが、ふと思い出してしまった映像と音声に、手にしていたツルハシがすっぽ抜けた。はるか後方に飛んで行ってしまったツルハシを拾いに向かいながら、小さくため息をつく。

(私、駄目だなぁ……)

三日前、夕食の席でルーカスが見せてくれた笑顔、もう三日も前のことだというのに、脳裏に焼き付いたそれが忘れられない。ふとした瞬間に思い出しては、自分でもどうしていいか分からない気持ちに襲われて、今のような失敗を繰り返していた。

(マズイ、よね……)

この気持ちが何なのか、突き詰めなくても分かる。

(……私、ルーカスが好き)

元から好意は抱いていたが、今のこの気持ちは間違いなく異性としての好き、彼を男の人として意識してしまっていた。拾い上げたツルハシを手に元の場所へ戻りながらため息をつく。

(だって、しょうがないじゃない。あれだけ優しくされたら、誰だって好きになっちゃよ、絶対)

ルーカスは恰好いい。顔が整っているだけでなく、高い背も広い肩幅も、ローブを脱いだら分かる厚い胸板も、どれもが頼れる男の人といった感じで、側に居るだけで安心できる。なのに、それだけでなく、とても優しいのだ。

(勘違い、しても仕方ないと思う……)

顔に上る熱を自覚して、首を振る。再びツルハシを構えようとして、フワフワと宙に寝そべるイロンが視界に映った。肘をついた両手に顎を乗せたイロン、私の作業を飽きもせず眺め続ける彼に聞いてみる。

「イロンは退屈じゃない?ずっと見てるだけじゃ暇でしょう?」

だから、採掘をしている間は好きに過ごしていい。そう伝えるつもりが、私の言葉にパチクリと目を瞬かせたイロンは、思いっきり破顔した。

「ぜーんぜん!退屈なんかじゃないよー。アリシアが石を掘ってるの見るの大好き!」

「そんなに面白いものじゃないと思うけど……」

「面白いよ!アリシアのスキルが上がってくのも、光石がキラキラしてるのも、見ててすーっごく楽しい!『これだけでご飯三倍はいけちゃう!』」

「……」

最後のイロンの言い回しにギクリとする。確かに、ゲームで採掘をしている時やイロンの着せ替えをしている時、調子に乗って何度かそんな台詞を口にした気がする。だけどそれは誰にも聞かれていないことが前提。まさか、イロン本人に聞かれて、それを真似されるとは思わなかった。

微妙な恥ずかしさに襲われながら、ツルハシを握り直す。大きく振り上げたツルハシを思いっきり振り下ろした。無心になりたくてツルハシを振るうが、気づけばルーカスの言葉をまた反芻してしまっている。

(石に好かれる、か……)

石の声が聞こえるルーカスや石と会話できるイロンとは違い、私にはやはり石は石にしか見えず、彼らの「感情」というものが理解できない。

(逆なら分かるんだけどな。採掘が好きだって自覚したから)

前世では実際の採掘なんて経験したこともなかったが、ゲームの採掘は好きで、鉱物系のアイテムばかりを狙っていた。それに今、ツルハシを振るうこの時間がたまらなく楽しい。イロンの加護のおかげで、思ったように石が砕け、光る石を手にする瞬間は何とも言えない高揚を感じる。

「あ!」

不意に、手にしたツルハシが軽くなる感覚がした。当たり所が良かったのか、大きめの光石が砕けたところで、イロンが「おめでとー!」と喜びの声を上げた。

「やったね、アリシア!今ので採掘スキルがレベル五に上がったよ!」

「レベル五……」

採掘を始めて一週間足らずでレベルが五に上がった。比較対象がないため、それがどの程度の能力なのかは不明だが、採掘士としての腕前が上がっているのだと思うと素直に嬉しい。

石を掘る手を一旦止め、周囲に散らばった光石をマジックバッグに回収してから、ルーカスに借りた携帯時計を確かめた。いつもより少し早いが、そろそろギルドの閉まる時間、切りも良いため今日はここまでにすると決めて帰り支度をする。

「アリシアはやっぱりすごいねー。あっという間にレベル五だもん!」

「ありがとう。イロンのおかげだね」

イロンの賞賛が嬉しくて笑顔で礼を伝えれば、イロンがクフフと笑った。

「僕ね、アリシアの気持ちがとっても良くわかったよ」

「私の気持ち?」

「うん。アリシアがゲームで採掘してた時、どんな気持ちで僕や石たちを見てたのか!」

イロンの言葉の意味が分からずに首を傾げれば、イロンはクルクルと宙を舞う。

「アリシアって、絶対に『自動採掘』しなかったでしょ?『自動錬金』や『まとめて水やり』はバンバン使うのに採掘だけは絶対手動で、『スキップ』も絶対しなかった!」

イロンの口から飛び出て来るゲーム用語に違和感を感じながら、それでも、「確かに」と思い出していた。私の場合、採掘は全て手動で行うのが好きで、採掘結果に表示される鉱物も一つ一つ確認していた。対して、採掘以外の作業は時短優先で結果を確認するだけ。日によっては、作業に必要な体力を全て採掘で消費してしまうということもあった。

「……何でだろうね?他の育成ゲームでも、気づいたら採掘ばかりしてたんだ」

それが農場や牧場を主題とするゲームであっても、採掘要素が絡むとなぜかそこにばかり注力してしまう。

「それって、アリシアが採掘も石も、あと僕のことも大好きってことだよね?」

イロンの言葉に、結局はそういうことなんだろうなと頷くと、イロンの羽根がパタパタと世話しなく動き、光る鱗粉が辺りを照らした。

「僕も!僕もアリシアが大好き!アリシアを見てるだけで、とっても嬉しくなる!アリシアもこんな気持ちだったんでしょう?」

「うん、そうだね」

それは間違いない。イロンの言葉にもう一度頷くと、パァッと顔に喜色を浮かべたイロンがこちらへ突っ込んで来た。胸元に飛び込んで来た小さな身体を抱きとめると、潤んだ瞳がこちらを見上げる。

「石たちもね?嬉しいって!アリシアの目がキラキラしてるから、だからもっと見てって言ってる!」

イロンがそう言うや否や、目の前にしていた光石の岩が輝きを増した。青白い光が淡く辺りに満ちていく。ぼうっと照らされた空間、見渡せば、土壁や天井にも星のような小さな輝きがいくつも散りばめられていた。幻想的な光景に圧倒され、息をのむ。イロンの「綺麗だねー」という声が聞こえていたが、それに返す言葉もないまま、優しい光の中にただただ立ち尽くしていた。




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