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第二章 出会い

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ギルドの所有物でいるよりは、ルーカス専属の奴隷になる方がずっといい。彼との同居という現実を突きつけられても、その思いは変わらなかった。ギルド長の用意してくれた奴隷契約書により、私の所有者が無事ルーカスに変わったところで、ギルド長に見送られて執務室を後にする。

今後のこと、ルーカスとの生活についてどう切り出すかを躊躇う内にギルドの一階へとたどり着いた。そこで、カウンターに座る女性、昨日、鉱山での働き方を教えてくれた銀縁眼鏡の女性の姿が目に入る。

「あ!」

「どうした……?」

「すみません、ルーカスさん。少し待っていてもらえますか?」

こちらの願いに黙って頷き返した彼の側を離れ、女性の元へと向かう。

「あの、すみません!」

彼女を見て思い出した。

「私、昨日お借りした採掘道具を坑道に置いて来てしまって……」

「ああ。あなた、昨日の」

無表情にこちらを見上げた彼女は、どうやら私のことを覚えてくれていたらしい。私の言葉に小さく首を傾げて、淡々と言葉を紡ぐ。

「採掘道具の返却は必須です。紛失した場合は買取、弁償となるのだけれど、あなた、自由になるお金はありますか?」

「……ありません」

「そう。であれば、あなたの奴隷契約金、売買価格に上乗せとなります。紛失届の提出と奴隷契約書の更新が……」

そう言いながら立ち上がり、背後のキャビネットに向かおうとする彼女を慌てて引き止める。

「あの、私の奴隷契約なんですが……」

「ちょっと、クロエ!あなた、いつまでそんな奴隷に関わってるつもり?」

突然、横から聞こえた声。聞き覚えのある声のした方を振り向けば、予想通りのケイトが、怒りを露に腰に手を当てて立っていた。

「奴隷の対応なんてさっさと終わらせてこっちを手伝いなさいよ。後がつかえてるんだから!」

クロエと呼ばれた銀縁眼鏡の女性に向かっての言葉を発しながらも、ケイトの視線はずっとこちらを向いている。睨みつける視線に今朝の出来事を思い出したが、今はあの時のような恐怖は感じない。

書類を手にしたクロエが、再び席に着こうとする。

「ケイトさん、こちらは直ぐに終わります。アリシアさん、一点確認させて頂きたいことが……」

「こんな女に何を対応することがあるの!?さっさと追い出しなさいよ!」

怒声とともに、ケイトがクロエの手から書類を奪い取った。

「紛失届!?あなた、さっそくギルドの道具を盗んだの!?」

「ち、違います!」

ケイトの言葉を否定するも、嘲りに満ちた顔を向けられる。

「ハッ!お生憎様!ギルドのものを盗んだところで、あんたの負債が増えるだけ!あんたみたいな馬鹿な犯罪者は、奴隷のままここで野垂れ死んでいくのよ!」

嘲笑とともにそう言葉を投げつけられて、一瞬だけ怯んだ。確かに、私は自分で自分を買い戻せていない。どころか、今、新たな借金を抱えようとしている。反論の言葉を探していると、不意に背後に迫る気配を感じた。向かい合うケイトの目が驚きに大きく見開かれる。

振り返るより早く、背中越しに大きな影に覆われるのが分かった。背後から伸びた手が、カウンターの上に革袋を置く。置かれた革袋の中で、チャリと金属の鳴る音が聞こえた。

「……十万ジールだ。これで足りるか?」

頭の上から聞こえた低い声。既に安心感さえ抱くようになってしまったその声はルーカスのもの。ただ、近すぎる距離に振り向くことができず、息をつめたまま固まった。

「あら、ルーカス。あなたには関係ないわ。これはこの子とギルドの問題だから」

目の前のケイトがニコリと笑ってそう言い返した。ウェーブのかかった豊かな金の髪、澄み切った青空のような瞳の彼女がそうやって笑うだけで、場が華やいで見える。カウンターの上の革袋を彼女が押し返そうと手を伸ばしたところで、また、ルーカスの声が降って来た。

「今日からアリシアは俺のものだ」

声の近さに背中がゾクリと震える。

「彼女の支払いなら俺が払う」

「え?」

ルーカスの言葉が理解できなかったケイトが笑顔のまま動きを止めた。その横から、クロエの手が伸びてきてカウンターの上の革袋を掴んでいく。

「なるほど。それで、彼女の奴隷契約書が見当たらなかったんですね」

そう言いながら革袋の中から硬貨を何枚か取り出したクロエが、革袋をルーカスへと手渡した。

「採掘道具の買取額六万ジール、確かに受け取りました」

ルーカスが革袋を受け取ったことを確かめ、クロエがこちらに視線を向ける。

「今後のアリシアさんのご活躍を祈っております。……良かったですね」

彼女のその言葉に見送られ、ルーカスと共にカウンターを離れた。そのままギルドを後にするルーカスの後を追う。出入り口で一度だけ振り返ると、まだこちらを見送ってくれていたクロエと目が合った。軽く会釈で礼と別れを告げれば、同じく会釈を返してくれたクロエ。彼女の横で怒りと憎悪の表情を見せるケイトから目を逸らすようにして、ギルドの外へと駆け出した。




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