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第二章 出会い

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宿舎を出たところで、私を抱き抱えたままギルドに向かおうとするルーカスを説得し、地面へと下ろしてもらった。こちらの体調を気遣ってか、ゆっくりと歩を進めるルーカスの後に続いてギルドへと向かう。

鉱山ギルドに着いたところで、ルーカスが向かったのはギルド長ボイドの執務室だった。ギルドの二階にあるその部屋は昨日訪れたばかり、奴隷解放の条件を告げられたその場所で、今、向かい合わせに座るギルド長は酷く難しい顔をしていた。

「……あのなぁ、ルーカス。確かに、俺は嬢ちゃんに手ぇ貸してやれとは言ったが、これは違うだろ?」

二人で部屋を訪れた当初はにこやかに出迎えてくれたギルド長は、ルーカスが二人の間の取引内容を告げ、三億ジールをギルドの預金から引き出したいと告げた途端に、その顔に渋面を浮かべた。

「嬢ちゃんはともかく、お前は分かってんだろうが。ギルドの買取価格を超えて鉱石の取引をする場合、限度は十割増し、二倍まで。それを超えての取引は市場価格を壊しかねない御法度、下手すりゃ、ギルドとの取引全面停止になんぞ?」

「え……」

ギルド長の言葉に、思わず、隣、フードを被ったルーカスの横顔を見上げる。フードが邪魔して彼の顔は見えないが、彼はギルド長の言葉にも落ち着き払っている。

「……別に、ギルドとの取引が停止になろうと構わない」

「いやいや待て待て!お前が構わなくてもこっちは構うんだよ!お前、自分がギルドの上得意だって自覚を持てよ!」

「そう思うなら、停止になどしなければいい。魔晶石の取引は俺たち二人の問題だ。お前は黙って判を押せ」

そう言ってルーカスがギルド長に差し出すのは、彼のギルド預金を引き出すための書類だった。

「だーかーら!俺がここで黙って通したら、ヘンレンのギルド本部から監査が入んだろ?三億だぞ、三億!そんだけの大金、何に使うんだって話になるに決まってるじゃねーか」

「俺の金だ」

「だー!もう!そんなことは分かってんだよ!」

話が通じないと頭を抱えたギルド長が、ジロリとこちらに視線を向けた。

「大体、三億ジールの魔晶石ってなんだよ。どうやったらそんな額になんだ」

彼の視線が実物を見せろと要求しているのが分かって、隣のルーカスを見上げる。こちらを向いたルーカスが仕方ないとばかりに頷いたのを見て、ポーチの中から魔晶石を取り出した。机の上、ギルド長の前に置いた魔晶石が青い光を放つ。

「こいつは……」

呆けたように魔晶石を見つめたギルド長が、次の瞬間、ハッとしたようにこちらを向いた。

「アリシア、お前、これをどこで!」

向けられた質問、聞かれる可能性を考えていなかった訳ではないけれど、結局、何も答えられずに押し黙る。代わりに、ルーカスが口を開いた。

「どこで入手したかは問題じゃない。問題は、これの持ち主が彼女だということだ。ギルドでの買取でも五千万を下らない魔晶石を彼女が入手した、それが噂になるだけで、彼女の身が危険になる」

「うーん、いや、まぁ、そりゃそうなんだが。これだけの魔晶石が出たんなら、ギルドとしてはその情報を押さえておきたいというか……」

「情報を開示するしないは彼女の自由だ。だが、だったらそうだな、その情報ごと俺が買い取る。そういう取引ということにしておけば、三億ジールでも問題ないだろう」

ルーカスの言葉に、それでも、ギルド長は受け入れがたいらしく、うーんと唸りながら考え込んでしまった。その様子に、ルーカスが追い打ちをかける。

「……先ほど、アリシアがギルド職員に絡まれて死にかけた」

「なっ、死にかけた!?なぜ!?」

「くだらない嫌がらせだ。だが、もしも魔晶石の件がギルド内で噂になれば、彼女を利用しようとする輩は必ず出て来る。そうなった時、彼女に拒否権はない。逆らえば、本当に殺されてしまう可能性があるからな」

ギルド長への脅しの言葉は、同時に、私への脅しにもなった。奴隷のまま自分の利用価値が高まることの危険性を理解し、一つの決意をする。

(だれかに隷属して生きていくのは嫌。……だけど……)

「んじゃあ、本当にこの石を三億ジールで買取るんだな?ギルドとの取引停止は脅しでも何でもねぇぞ?俺だってやりたかねぇが、ヘンレンの本部が許さねぇだろうからな」

「分かっている。別に、石なら個人取引で賄える。足りない分は、自分で潜って採ればいい」

「お前なぁ。んな簡単にいくわけねぇだろ。お前が今ギルドから仕入れてる魔晶石がどんだけあると思ってんだ」

ギルド長の言葉に一瞬押し黙ったルーカスの姿に、意を決して口を開いた。




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