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第二章 出会い

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翌朝、閉じた瞼の向こうに陽の光を感じ、朝だと気づいた瞬間に飛び起きた。昨日よりも少し遅い時間、階下では既に他の人たちが動き出している気配を感じる。

「あ!」

未だはっきりと覚醒していなかった頭で、ポーチの存在を思い出した。慌ててベッドを見下ろすと、昨夜抱き抱えるようにして眠ったポーチは、目覚めても手の内にしっかりと握られていた。ポーチを開き、中に魔晶石が入っていることを確認してから、ベッドを抜け出す。

「……イロン?」

目覚めた時に側に居なかった精霊の名を呼んで見るが、返事はない。「暫くは出て来られない」と言っていたことを考えると、まだ眠っているのだろう。心細くはあったが、私のために無理をしてくれた彼を呼び出すことはせずに、朝の支度にとりかかった。ブラシも鏡も無い部屋で髪に手櫛を通し、手洗いで洗った服に袖を通す。少し湿り気の残る服を身にまとい、部屋を出た。

(よし、頑張ろう……)

昨夜色々考えて、結局答えの出なかった疑問や不安はあるけれど、今日が私の人生を決める大事な日であることは間違いない。

階段を降り、食堂へと足を踏み入れたところで、その異変に気が付いた。

「ねぇ、ルーカス?誰に用事なの?」

「言ってくれれば、呼んであげるわ。中に入って待ってればいいじゃない」

「そうよ。そんなところに立ってないで」

ケイト達の声、私に向けられるのとは全く違う甘く媚びるような声が「ルーカス」と呼んだことにドキリとする。視線を宿舎の出入口へと向ければ、開きっぱなしの扉を塞ぐようにケイト達三人が立っていた。三人の向こう、扉の外には、彼女達の頭より高い位置にあるフード姿の男の顔が見える。彼の視線がこちらを向いた。

(あ……)

男、ルーカスの視線がこちらを向いたことで、ケイト達が背後の私の存在に気が付いた。三人に一斉に振り向かれ、少しだけ躊躇する。ルーカスに借りたポーチを握り締め、彼女達のもの言いたげな視線を避けるようにして扉へと向かった。そのまま彼女達を避けて外に出ようとしたが、行く手を阻むように立たれてしまい、中々外へと出られない。

「……ねぇ、ひょっとして、あんたがルーカスの待ち人だなんて言わないわよね?」

「ちょっと、冗談でもやめてよ」

ケイト達の声を聞かない振りで無理矢理に押し通ろうとするが、反対に肩を強く押されて押し戻されてしまう。その手を跳ねのけようとして、一瞬、彼女達を傷つけるかもしれないと思った。その一瞬でもう駄目だった。

(っ!……息が、苦しい)

首元、そこにつけられた首輪が締まる。首輪を力任せに引っ張るが、空気が上手く吸えない。堪らず蹲れば、頭の上でケイト達の声がする。

「ハッ!いいざまね!奴隷ごときが人間様に手を出そうとするからそうなるのよ」

「獣は獣らしくそうやって地面に這いつくばってれば?」

彼女達の声が遠ざかる、意識が朦朧としかけたところで、不意に頭の上に大きな影が差した。

「……アリシア、大丈夫だ。落ち着け。お前は誰も傷つけていない」

(……ルーカス、さん?)

低く落ち着いた声に意識が呼び戻される。閉じていた目を開けば、昨日見た金の瞳がこちらを見下ろしていた。

「ゆっくりでいい、深く息を吸ってみろ」

安心できる声、その声に導かれるままに深く息を吸う。先ほどまではあんなに苦しかったはずが、今は胸いっぱいに息を吸い込むことが出来た。

途端、力強い腕に抱き抱えられる。浮遊感に襲われて、慌てて目の前の人の首にしがみついた。

「もう、大丈夫だな……?」

心配してくれる金の瞳がこちらを覗き込む。自分の態勢、ルーカスに抱き抱えられているという状況を理解して、顔が熱くなった。誤魔化すように何度も頷けば、金の瞳が柔らかく細められる。その優しい眼差しに、死ぬかもしれないという恐怖から解放されたせいもあり、涙が込み上げて来た。泣く姿を見られたくなくて顔を伏せる。そのまま歩きだしたルーカスの腕の中、今度はケイト達に阻まれることも引き止められることもなかった。



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