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第二章 出会い

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宿舎に帰りついた後、その日は身体を拭き、服を手洗いしたところで力尽きた。夕食も取らずにベッドへと転がり込む。

「……イロン、居る?」

「アリシアー!良かったね!お金がいっぱいもらえるんでしょう?」

呼びかけと同時に姿を現したイロンが、寝転がった私の胸元へと飛び込んで来た。ギュッと抱き着いてニコニコ笑いながら「良かった良かった」と繰り返す。そんな彼の姿にホッとして、張り詰めていた気が少しだけ緩んだ。

「うん、ありがとう。イロンのおかげだよ」

「クフフ。そうでしょ?僕ってとっても強い精霊だから!でも、今日は流石に疲れたかなー。僕、もう眠いー」

そう言ってフニャリと笑う彼に苦笑してから、「でも」と思う。

(確かにイロンのおかげ、……だけど、あの人、ルーカスさんのおかげでもある、よね)

当初、六千万と告げた買取価格を三億ジールまで上げてくれたルーカス。さっきまでは、単純に「これで救われる」と考えていたけれど、冷静に考えてみれば、とてもじゃないがあり得ない数字だと分かる。五倍の買取価格、しかも三億ジールという大金、ルーカスの店は赤字どころの話では済まないだろう。

(それに、結局、私がどうやって魔晶石を手に入れたか追及されなかった……)

魔晶石の入手方法を明かすには、イロンの存在を明らかにしなければならない。奴隷という立場で精霊つきだと分かれば、どんな扱いを受けるか。怖くて言い出せなかった私に、彼は譲歩してくれたのだと思う。

(危ない目に会うって忠告してくれて、そうならないように魔晶石を高額で買い取ってくれようとしてる……)

しかも、貸してもらったマジックバックは恐らくとても貴重なものだ。盗むつもりなんて全くないが、犯罪奴隷である私に彼が躊躇いもなく渡してくれたことが嬉しかった。

(どうして、ここまでしてくれるんだろう……)

ギルド長の口添えがあったとは言え、ルーカスとは今日が初対面。彼の優しさに不審がないとは言えないが、今は申し訳なさの方が強かった。彼の優しさ、その恩に報いるために何ができるだろうかと考える。

「ねぇ、イロン。この世界は私がもと居た世界のゲームの中、なんだよね?」

「うん、そうだよー」

胸の上でウトウトしているイロンに話しかけると、目を瞑ったまま、イロンはムニャムニャと返事を返した。

「だとしたら、私がゲームで使っていた装備やアイテムなんかも使えるのかな?」

ゲームのストーリー自体からは既に逸脱、もしくはゲームオーバーを迎えてしまっているが、そこに戻りたいとは思わない。ただ、青色魔晶石のように、前世で入手したアイテムが使えるのであれば、今後の採掘は格段に楽になるはずだ。

脳裏にあるのは、課金に課金を重ね、何度も失敗しながら最強強度まで鍛えたツルハシやデイリークエストで貯め込んだ体力回復アイテムの数々。この世界にオリハルコンという鉱物が実際に存在するのか、存在するとしてツルハシを製造することが出来るのかは不明だが、体力回復の魔法薬が実在することは知っている。前世、イベントで使用するつもりでため込んだそれらはこの世界では非常に高価なもので、売ればそれなりの金額になる。三億ジールには遠く及ばなくても、少しは足しになるだろう。

そう思っての質問に、イロンの答えを待つが、なかなか返事が返って来ない。

「……イロン?」

再度の呼びかけに小さな顔がこちらを向くが、やはりその目は閉じられたまま。イロンが大きく欠伸をした。

「……うーん。アイテムやツルハシは前のアリシアの『所有』、……『受け取り済み』だったでしょー?だから、僕は持ってないよー」

「イロンが持ってなくても、どこか別の場所にあったりはしないの……?」

「アリシアが持ってないなら、無いんじゃないかなー……」

間延びしたイロンの返事。当然ながら、私はツルハシなんてものは持っていないし、それらに関する心当たりもなかった。

(……やっぱり、そう都合よくはいかないか)

それでも、他に何かないだろうかとイロンに尋ねかけたところで、彼がまた大きな欠伸をした。目じりに生理的な涙がたまっている。

「アリシア―、ごめん。僕、やっぱり石を作るのに力を使い過ぎたみたいー」

「……イロン、大丈夫?」

洞窟での彼はあっさりとしていたから、魔晶石を作りだすのにそれほど疲弊してしまうとは思っていなかった。不安を覚え、そのふわふわの巻き毛にそっと触れる。クフッと小さな笑い声を漏らしたイロンが、スリと胸元に頬を寄せた。

「僕、もう寝るねー。暫くは呼ばれても出て来られないかもだけど。でも心配しないでー、僕はずっとアリシアの側に居るから……」

そう言うだけ言うと、あっという間に寝息を立て始めたイロン。心配ではあるが、今は起こさないようそっと見守るしかない。

彼をつぶさないように気を付けながら、ルーカスに借りたポーチを握り締めた。厚みの無いそれを手に、明日へと思いを馳せる。不安は残るが、今の状況を打開できそうだという希望のおかげで、昨日ほどの恐怖を感じずに済んだ。次第に瞼が重くなってくる。疲労もあったのだろう。流石に二日続けて睡眠をとらないというのは無理で、気づけば深い眠りへと落ちていった。

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