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後日談
15年後 Side E (完)
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公爵邸の一室、公爵家の団らんの場であるはずのそこで、泣き崩れる娘を前に成す術なく途方に暮れる―
「お父様!どうして、アベルを私の婚約者にしてくださらないの!?」
己と同じ色をまとい、隣に座る妻とそっくりな相貌が悲しみに歪んでいる。
「…何度も話しただろう?クロイツァー側にその意思が無い。」
「クロイツァー家の意思などどうでもいいのです!アベルの意思は!?アベルだって、きっと私と同じ気持ちのはずなのに!」
「…」
「お父様お願い、クロイツァー家に私達の婚約を承知させて下さい!」
実現不可能な娘の願いに、嘆息しそうになるのを飲み込む。
「それは、出来ない。」
「なぜです!?アベルほど私の夫、ソルフェリノの跡継ぎに相応しい人はいないでしょう!?」
自分と同じ色をして、紅紫を欲しいと泣く娘が哀れではあるが、
「…アベルが、お前を望むことはない。」
「どうして!?」
アベルは知らされている、己の出自を。それが、あの二人の決断だった―
―アベルに、あなたのことを伝えました。本当は死ぬまで黙っているつもりだったんですけど
―ロベルトに説得されちゃって。あの子も成人したし、自分のことだから、知って悩んで本人に選択を任せるべきだと
―不安?あの子があなたを選ぶかもしれないと?まさか。私もロベルトもそんな半端な愛し方はしてませんから
―…あなたのことは、尊敬する公爵閣下、だそうですよ?
「…」
自身には出来なかった選択。保身のため、傷つき、失うものに怯えて口に出来ぬまま、今も。
だから―
「…ジェシカ、いつまでも我がままを言うのはやめなさい。」
「お母様まで!?」
「そんなにお父様を困らせてはだめよ?お父様は、いつでもあなたの幸せを一番に考えて下さっているんだから。」
「でも!私は嫌よ!アベル以外の人と結婚するんて!」
「ええ、そうね。それじゃあ、留学でもしてみるのはどう?新しい世界が広がるかもしれないわ。」
「アベルと離れるのは絶対に嫌!」
淡く長い髪をまとめた妻の口元に笑みが浮かぶ。弧を描く瞳に見つめられ―
「…大丈夫よ、お父様を信じていればきっと何もかも上手くいくわ。」
(完)
「お父様!どうして、アベルを私の婚約者にしてくださらないの!?」
己と同じ色をまとい、隣に座る妻とそっくりな相貌が悲しみに歪んでいる。
「…何度も話しただろう?クロイツァー側にその意思が無い。」
「クロイツァー家の意思などどうでもいいのです!アベルの意思は!?アベルだって、きっと私と同じ気持ちのはずなのに!」
「…」
「お父様お願い、クロイツァー家に私達の婚約を承知させて下さい!」
実現不可能な娘の願いに、嘆息しそうになるのを飲み込む。
「それは、出来ない。」
「なぜです!?アベルほど私の夫、ソルフェリノの跡継ぎに相応しい人はいないでしょう!?」
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「…アベルが、お前を望むことはない。」
「どうして!?」
アベルは知らされている、己の出自を。それが、あの二人の決断だった―
―アベルに、あなたのことを伝えました。本当は死ぬまで黙っているつもりだったんですけど
―ロベルトに説得されちゃって。あの子も成人したし、自分のことだから、知って悩んで本人に選択を任せるべきだと
―不安?あの子があなたを選ぶかもしれないと?まさか。私もロベルトもそんな半端な愛し方はしてませんから
―…あなたのことは、尊敬する公爵閣下、だそうですよ?
「…」
自身には出来なかった選択。保身のため、傷つき、失うものに怯えて口に出来ぬまま、今も。
だから―
「…ジェシカ、いつまでも我がままを言うのはやめなさい。」
「お母様まで!?」
「そんなにお父様を困らせてはだめよ?お父様は、いつでもあなたの幸せを一番に考えて下さっているんだから。」
「でも!私は嫌よ!アベル以外の人と結婚するんて!」
「ええ、そうね。それじゃあ、留学でもしてみるのはどう?新しい世界が広がるかもしれないわ。」
「アベルと離れるのは絶対に嫌!」
淡く長い髪をまとめた妻の口元に笑みが浮かぶ。弧を描く瞳に見つめられ―
「…大丈夫よ、お父様を信じていればきっと何もかも上手くいくわ。」
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