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第四章 卒業
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「はっ!?なんで、俺たちの卒業課題が不可なんですかっ!?」
三年生のほとんどが退出した後の卒業課題発表会場に、キーガンの怒りの声が上がった。彼の目の前に立つのは錬金学教授の一人。卒業課題の発表を終えたキーガン達第三研究室のメンバーに、「君たちは残りなさい」と声をかけてきたのが彼だった。
「……なぜか?君には心当たりが無いとでも言うのかね?」
「っ!それは……っ!」
教授に穏やかに問い詰められて言葉を詰まらせたキーガンに、一歩後ろでキーガン達を見守っていたロッテは、「あーあ」と心中でため息をついた。
(まぁ、そうなるかもなぁとは思っていたけど……)
キーガン達が卒業課題として提出したのは、錬金の難易度が最高位とされる賢者の石だった。他に同じものを提出したのはメリルくらいのもので、その彼女が錬成したものと比べてもはるかにいい出来の石をキーガン達は発表した。
(それはそうよね……)
だって、賢者の石を錬成したのはベルタでも、ましてや、ロッテでもなく、ケスティング教授なのだから。
(バレなきゃいいと思ったけど、あっさりバレちゃったみたい)
錬金学の教授が、キーガンを相手に冷静に指摘している。曰く、発表会での採取過程の説明が不明瞭であったこと、錬金における失敗事例への質疑に適切な応答がなかったこと、それらから、キーガン達の錬成能力に疑問を抱き、賢者の石の魔力測定を行った結果、石からはケスティング教授の魔力反応しか得られなかったということだった。
(あーあ……)
ロッテは、キーガン達三年の後ろで神妙な顔をしながら、もう一度、心の中でため息をついた。
(これで、私の成績への加点も無しか)
教授が去った後も、茫然とその場に立ち尽くしたままのキーガン達を見やって、ロッテはそっとその場を抜け出す。廊下を歩きながら、これからどうするかを考えた。
元々、キーガン達が卒業した後は、別のパーティを組むつもりでいた。三年の卒業課題に参加したという実績があれば、どこのパーティからも引く手あまた。元々の容姿の良さもあり、ロッテを巡っての争奪戦が行われることは必至だった。その中で一番気に入ったパーティに入ればいい。
(だけどなぁ……)
ロッテが諦めきれないのは、ウィルバートのことだった。ずっと狙っていた彼に、良好な関係とは言えないが、やっと認識してもらうことが出来たのだ。メリルが卒業してしまえば、彼はまた一人。そこに、ロッテの付け込む隙はいくらでもあるだろう。
(うん、決めた!)
ウィルバートが学園を卒業するまでの一年、まずはもう一度、彼に近づくことから始めよう。そうして、パーティを組むことが出来れば――
そこまで考えたロッテの前に、突如、黒い影が現れた。ビクリと震えたロッテに、その黒い影が口を開く。
「……ロッテ」
「え?あ、ケスティング教授!」
高難易度魔法の転移で現れたのか。初めて目にする魔法にロッテが驚く間もなく、ケスティングがロッテの両手を握り締めた。
「ロッテ、私についてきてくれ……」
「え?」
「学園をくびになった。ホナンドの砦に送られることになる……」
ケスティングの言葉に、ロッテは状況を理解してゾッとした。ホナンドは対魔物侵攻における最前線、荒れ果てた地には砦以外に何もなく、ただ、国防の要ゆえに、多くの魔術師や騎士が送り込まれている。
魔術師として優秀なケスティングは、今回の件の懲罰としてその地に送られるのだろう。
(そこに、ついてきてくれ……?)
冗談ではない。ロッテは、顔を引きつらせながら首を横に振った。
「い、いや……」
「……」
ロッテの言葉が聞こえているのか、いないのか。暗い相貌。闇のように真っ暗な瞳をしたケスティングが、ロッテをその胸の内へとかき抱いた。
「い、いやよ!止めて!離して……!」
ロッテの悲鳴、彼女の叫びにケスティングが何かをボソリと答えたのを最後に、学園の廊下から二人の姿は消えた。
三年生のほとんどが退出した後の卒業課題発表会場に、キーガンの怒りの声が上がった。彼の目の前に立つのは錬金学教授の一人。卒業課題の発表を終えたキーガン達第三研究室のメンバーに、「君たちは残りなさい」と声をかけてきたのが彼だった。
「……なぜか?君には心当たりが無いとでも言うのかね?」
「っ!それは……っ!」
教授に穏やかに問い詰められて言葉を詰まらせたキーガンに、一歩後ろでキーガン達を見守っていたロッテは、「あーあ」と心中でため息をついた。
(まぁ、そうなるかもなぁとは思っていたけど……)
キーガン達が卒業課題として提出したのは、錬金の難易度が最高位とされる賢者の石だった。他に同じものを提出したのはメリルくらいのもので、その彼女が錬成したものと比べてもはるかにいい出来の石をキーガン達は発表した。
(それはそうよね……)
だって、賢者の石を錬成したのはベルタでも、ましてや、ロッテでもなく、ケスティング教授なのだから。
(バレなきゃいいと思ったけど、あっさりバレちゃったみたい)
錬金学の教授が、キーガンを相手に冷静に指摘している。曰く、発表会での採取過程の説明が不明瞭であったこと、錬金における失敗事例への質疑に適切な応答がなかったこと、それらから、キーガン達の錬成能力に疑問を抱き、賢者の石の魔力測定を行った結果、石からはケスティング教授の魔力反応しか得られなかったということだった。
(あーあ……)
ロッテは、キーガン達三年の後ろで神妙な顔をしながら、もう一度、心の中でため息をついた。
(これで、私の成績への加点も無しか)
教授が去った後も、茫然とその場に立ち尽くしたままのキーガン達を見やって、ロッテはそっとその場を抜け出す。廊下を歩きながら、これからどうするかを考えた。
元々、キーガン達が卒業した後は、別のパーティを組むつもりでいた。三年の卒業課題に参加したという実績があれば、どこのパーティからも引く手あまた。元々の容姿の良さもあり、ロッテを巡っての争奪戦が行われることは必至だった。その中で一番気に入ったパーティに入ればいい。
(だけどなぁ……)
ロッテが諦めきれないのは、ウィルバートのことだった。ずっと狙っていた彼に、良好な関係とは言えないが、やっと認識してもらうことが出来たのだ。メリルが卒業してしまえば、彼はまた一人。そこに、ロッテの付け込む隙はいくらでもあるだろう。
(うん、決めた!)
ウィルバートが学園を卒業するまでの一年、まずはもう一度、彼に近づくことから始めよう。そうして、パーティを組むことが出来れば――
そこまで考えたロッテの前に、突如、黒い影が現れた。ビクリと震えたロッテに、その黒い影が口を開く。
「……ロッテ」
「え?あ、ケスティング教授!」
高難易度魔法の転移で現れたのか。初めて目にする魔法にロッテが驚く間もなく、ケスティングがロッテの両手を握り締めた。
「ロッテ、私についてきてくれ……」
「え?」
「学園をくびになった。ホナンドの砦に送られることになる……」
ケスティングの言葉に、ロッテは状況を理解してゾッとした。ホナンドは対魔物侵攻における最前線、荒れ果てた地には砦以外に何もなく、ただ、国防の要ゆえに、多くの魔術師や騎士が送り込まれている。
魔術師として優秀なケスティングは、今回の件の懲罰としてその地に送られるのだろう。
(そこに、ついてきてくれ……?)
冗談ではない。ロッテは、顔を引きつらせながら首を横に振った。
「い、いや……」
「……」
ロッテの言葉が聞こえているのか、いないのか。暗い相貌。闇のように真っ暗な瞳をしたケスティングが、ロッテをその胸の内へとかき抱いた。
「い、いやよ!止めて!離して……!」
ロッテの悲鳴、彼女の叫びにケスティングが何かをボソリと答えたのを最後に、学園の廊下から二人の姿は消えた。
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