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第三章 素材採取

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「えっと、賢者の石の材料、次は黄龍晶を採りにいきたいんだけど……」

白水銀を採取した日から二週間、とうとう白水銀の固体化に成功したメリルは、出来上がった塊を前にウィルバートに尋ねる。

「ウィル君の都合の良い日でいい時に付き合ってもらえる?」

メリルの言葉に、ウィルバートは「ああ、それなら」と答えた。

「黄龍晶でしたら、以前、実験に使用したものの残りが……」

ある、と続くであろう言葉を期待して、メリルは目を輝かせる。

「ウィル君、黄龍晶持ってるの?」

「持ってません」

「え?」

間髪入れずに否定の言葉を返され、メリルは混乱した。

「あれ?え、でも今、『残りが』って言わなかった……?」

「僕の勘違いでした。黄龍晶はありません。欠片も残っていません」

不自然なほど「持っていない」と強調するウィルバートに、メリルは疑いの眼差しを向ける。その視線に、ウィルバートがやれやれとばかりにため息をついた。

「仮に、ですよ?仮に僕が黄龍晶を持っていたとして、それを先輩の卒業課題に使うのは間違っていませんか?」

「あ!」

ウィルバートの指摘にメリルはハッとした。確かに、彼の言うとおりだ。通常の課題であれば、それも多少は許されるだろうが、卒業課題はその素材の採取も含めて評価される。触媒ならともかく、メイン材料の一つである黄龍晶の入手を全くの人任せにする訳にはいかなかった。

「ごめん、そうだよね。やっぱり、素材採取は自分でやらないと」

そう決意も新たにウィルバートに告げたメリルに、ウィルバートは「うんうん」とうなづいて返す。

「先輩、黄龍晶を採りに行ったことはないんですよね?」

「うん。授業で扱ったし、ペシオの街の竜玉泉で採れる、っていうのは知ってるんだけど」

メリルが口にしたのは、魔法学園のある王都から半日ほどの距離にある街の名前だった。竜玉泉と呼ばれる、地下から熱いお湯の湧き出すその湧口で黄龍晶は採れる。一説には、竜玉泉は地下に眠る黄龍の息吹によって温められた地下の水が湧き出しているのだという。観光地としても有名なその地に、メリルもいつかは行ってみたいと思っていた。

「……では先輩、さっそく、今週末に出かけましょう」

「うん!ありがとう、ウィル君」

「ちゃんと、一泊できる準備をして来てくださいね?」

「……え?」

メリルの思考が一瞬、停止する。それから、ウィルバートの言葉の意味するところを考えて、その顔を真っ赤に染めた。

「ウィ、ウィル君、一泊って、もしかして、泊まるの?」

「ええ、そうですよ?……先輩、知らなかったんですか?竜玉泉の噴出は月に一度、決まった日の夜にしか起こらないんです。それがちょうど今週末」

そういったウィルバートが薄っすらと笑う。

「良かったですね?タイミング良くて。今回を逃したら、一か月も待たないといけないところでした」

「でも、なんで、一泊って……」

「賢者の石に使うんでしたら、黄龍晶は酸化する前に採取しないと。そうなると当然、竜玉泉の噴出直後に採取することになりますよね?」

夜の採取を終えてそのまま帰宅するには距離がありすぎる。ウィルバートの真っ当な意見に、メリルはそれ以上、反論することが出来なかった。

「楽しみですね、先輩?……恋人同士での、初めての泊り旅行」

ウィルバートが最後に付け足した言葉に、メリルの思考は完全に停止した。




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