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第一章 追放と告白

1-3 Side W

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涙の止め方なんて、ウィルバートは知らない。だから、ただ黙ってメリルの前に立ち続ける。それはいつものこと。慰めの言葉一つ口にできないウィルバートに、それでも、メリルは最後には決まって笑うのだ。

『話を聞いてくれてありがとう』

そうやってウィルバートに礼を言い、仲間の元へと帰っていくメリル。それが二人の距離、二人の関係だから、今日もまたきっとそういう話。話すだけ話して、彼女は自分を置いて去って行く。ウィルバートはそう思っていた。けれど――

「は?研究室のパーティ追い出されたって。……先輩、一年の頃から固定メンバーだったじゃないですか」

魔法学園における実習は、パーティを組んで行うことが推奨されている。魔力の使い方は人それぞれのため、攻撃に長ける者や錬金に長ける者が各々の強みを生かして一つの課題をこなす。それは将来、学園卒業後に冒険者や研究者のチームを組むことを想定しての予行練習でもあった。

チームの編成には各自の魔力や適性が考慮されるが、結局は相性がものをいう。そのパーティ編成を三年次――しかも、卒業まで残り三か月のこの時期――に解消してしまうとは。彼女のパーティ仲間は一体何を考えているのか。

「なんで、今更そんな話になったんです?」

「……うるさいって言われたの」

「……は?」

「『お前の声が耳障りだ。うるさいだけの役立たずは必要ない』って。……私も、一応、気をつけていたつもりなんだけど……」

ウィルバートは、メリルの言葉が信じられずに愕然とする。

「うるさいって、だって、メリル先輩、言霊使いじゃないですか……」

「うん、そうなんだけど。だから、余計に、なのかな?皆には私の声が煩わしかったみたい」

そう言って俯いたメリル。ウィルバートは彼女を傷つけた愚か者どもに内心で毒づいた。

(あいつらは馬鹿なのか?言霊使いの『声』がうるさいのは当然だろうに……)

「言霊使い」という特殊なスキルを持つメリルの言葉には魔力が宿る。そのため、彼女の声を直接向けられた者は違和感を覚え、魔力抵抗の弱い者であれば、不快に感じることもあった。魔力の大きさに差があればあるほどメリルの声の強制力は強くなる。彼女が今までパーティ内でもめた原因の多くもそこにあった。だがそれは同時に、彼女の言霊使いとしての能力の高さを示す。本来なら、それを理由にパーティを追い出すなどあり得ない。

「……先輩達のパーティーって、四人パーティーですよね?先輩を追い出して、三人でやっていけるんですか?」

「うん。今年新しく入った一年生がいるから……」

「一年?そんなの、三年の課題の役には立たないでしょう?」

この時期の三年の課題と言えば卒業課題。メリルもパーティ仲間と取り組むはずであった課題は魔法学園における三年間の集大成だ。入学して九か月の一年が、三年と同レベルの素材採取や錬金調合が可能だとは思えない。ウィルバートの疑問に、メリルは困ったように笑う。

「すごく優秀ななの。採取も錬金も何でも出来ちゃうような子で……」

メリルの言葉に、ウィルバートの頭に過る人物の姿があった。メリルの所属していた魔術錬金第三研究室に今年入った女生徒。メリルを見に行った研究室で何度か見かけた気がするが、直接顔を合わせたことはない。そのため、思い出せるのはそのぼんやりとした色彩だけだった。

「……何度か、見かけた気はしますが、確か金髪の……」

「うん、ロッテちゃん。すごく可愛くて優秀な娘だから、他の研究室からも引っ張りだこだったんだよ?でも、ケスティング先生に師事したいからってうちに、……第三研究室に入ってくれたの」

「ですが、いくら優秀とは言っても、一年じゃ戦力にはならないでしょう?三年の課題だと、境目の森に入りますよね?」

研究室で作業をこなす錬金だけならまだしも、卒業課題の材料調達に入る場所の中には、死と隣り合わせの場所だってある。実力不足が即、死に繋がる場所に、よほどの実力者でもなければ、一年次で足を踏み入れるべきではない。

「……そう、なんだけど。そこは、ケスティング先生がサポートに入って下さるらしくて」

「はぁっ?教師が、生徒の課題に手を貸すんですか?…そんなの、不正じゃないですか。意味が分からない。」

呆れたウィルバートが彼らを非難すれば、なぜかメリルが慌てて言い訳を口にする。

「でも、一年生の採取に先生がサポートに入ることはあるでしょう?」

「だとしても、錬金は?以前は先輩がメインでやってましたよね?まさか、錬金にまで教師が手を出すつもりですか?」

「それは……、でも、私の錬金も最近はあまり上手くいっていなかったから。……錬金はベルタが引き継いで、ロッテちゃんがサポートで入るみたい」

そう言って、傷ついた目をしたメリルは俯いてしまう。下を向く彼女の栗色の髪を黙って見下ろすウィルバート。肩の上でふわふわと揺れる彼女の髪に、初めて会った時の彼女の姿を思い出していた。




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