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稲穂ゆれる空の向こうに
一人じゃない
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「え?
茜音、行くって?どこに?」
蒼音は嫌な予感を抱き、茜音に振り向いて、その手を握り締めた。
「駄目!
駄目だよ!どこにも行っちゃやだよ」
『ごめんね・・・
蒼音、あたちもう行かなきゃ。
お天道様が沈むまでにいかなきゃ』
茜音は逝こうとしていた。
もう戻ってはこられない、空のずっと向こうの向こう、銀河の彼方よりも、もっと遠くの世界に逝こうとしていた。
「そんなの僕聞いてないよ!
だってそうだろう?
僕達は二人で一つなんだよ。
茜音は、どこの誰ともわからない幽霊なんかじゃなかった。
この僕と血を分けた、たったひとりの片割れなんだ。
これからだってそうだよ。
だからずっと一緒にいればいいんだよ。
遠慮なんかしないで。
僕が面倒をみるから。
美味しいものたくさん分けあおう、もっと一緒に遊ぼうよ。
ね、そうしよう」
蒼音は必死になって懇願した。
茜音は幽霊だ。
だから、遠からず茜音が自分のもとを去る日がくる、そんな予感はもう初めからしていた。
でも、何も今急に逝ってしまうなんて、そんな悲しいことは受け入れられなかった
彼は駄々っ子のように茜音を引き止めた。
『あたち行かなきゃ。
蒼音にこの世でもう一度会えて、琴音と涼介とお友達になって、時バアに会えて・・・
そちて、お父しゃん、お母しゃんに名前を呼んでもらって・・・
もう思い残すことないもん。
だから、今行かなきゃ、もう行けないかもちれないから。
今行かなきゃ、いつかあたちが一人ぼっちになってちまうから。
ずっと幽霊のまま、この世にいたら・・
あっちに行けなくなってちまうから・・
蒼音・・・
蒼音なら、わかってくれるよね?』
「いつ?
いつ戻ってくるの?
ねえ茜音、いつかは還ってくるんだろう?」
縁側から家の外に出て行く茜音の手を握り締めたまま、蒼音はその後に続いた。
他の皆は無言のまま端近に出て、茜音を見送ろうとしていた。
『いつか・・・
きっといつか戻ってくるよ。
今度こそ、いつかどこかで生まれてくるよ。
あたちもこの世界の一部とちて生まれてくるよ』
茜音は夕陽に向かって・・・真っ赤に燃える空に飛翔しようとしていた。
『ニャーン・・・』
ふいにその時、風にのって、聞き覚えのある猫の鳴き声が聞こえた。
『あ、小町。
小町・・・
一緒に逝ってくれるのね。
ここまで来たのね。
よくここがわかったね。
そうだよね、小町もここで生まれたもんね』
茜音が手を差し伸べた先には、なんと家に残してきた小町がいたのだ。
「あれ小町!?
どうしてここに?」
蒼音は留守番をしているはずの小町が、遠く離れたこの場に、急に現れたことが信じられなかった。
「あ、本当だ。園田君んちの猫だ」
「本当だ、小町がいる」
琴音と涼介は小町を見て、口々に呟いた。
「お母さん、小町がいるよ。
一緒に連れてきたの?」
母に振り返った蒼音は、小町が来たことを伝えた。
「小町が?・・・・
そう・・・・
そう、やっぱり。
ううん、お母さんたちには視えへんよ。
そやけど、やっぱり小町は老衰やったんやね。
もう一八歳やったから、人間ならお婆さんやもん。そうやったんやね。
小町、そうなんやね」
「どういうこと?
お母さん?」
「小町ここのとこ、ずっと食欲なくて具合悪かったやろう?
今朝、お母さんが家を発つ時も、姿が見えへんかったんや。
動物は、死期が近づくと、姿をくらますって聞いてたから、もしかしたらって、いやな予感はしてたんや。
でも、そうやね・・・
安らかに逝ったのかな。
どこか自分が安心できる場所で、小町は果てたんやろうね。
悲しいけど、小町は往生したんやね。
きっと、最期のお別れを言いに、ここに来てくれたんやろうな」
「そんな・・・・
茜音と一緒に小町まで逝ってしまうの?
僕を残して逝っちゃうの?」
「茜音・・・・
やっぱり逝くんだな」
「うん・・・・
茜音ちゃん、いよいよ、お空の彼方に飛び立つんだね・・・・」
涼介と琴音は、弱々しい声で悲しくつぶやきながら、茜音の旅立ちを見守ろうとしていた。
連日にわたって、鮮やかな彩を魅せてくれた夕陽はもう、西の彼方の稜線まで傾いていた。
茜音、行くって?どこに?」
蒼音は嫌な予感を抱き、茜音に振り向いて、その手を握り締めた。
「駄目!
駄目だよ!どこにも行っちゃやだよ」
『ごめんね・・・
蒼音、あたちもう行かなきゃ。
お天道様が沈むまでにいかなきゃ』
茜音は逝こうとしていた。
もう戻ってはこられない、空のずっと向こうの向こう、銀河の彼方よりも、もっと遠くの世界に逝こうとしていた。
「そんなの僕聞いてないよ!
だってそうだろう?
僕達は二人で一つなんだよ。
茜音は、どこの誰ともわからない幽霊なんかじゃなかった。
この僕と血を分けた、たったひとりの片割れなんだ。
これからだってそうだよ。
だからずっと一緒にいればいいんだよ。
遠慮なんかしないで。
僕が面倒をみるから。
美味しいものたくさん分けあおう、もっと一緒に遊ぼうよ。
ね、そうしよう」
蒼音は必死になって懇願した。
茜音は幽霊だ。
だから、遠からず茜音が自分のもとを去る日がくる、そんな予感はもう初めからしていた。
でも、何も今急に逝ってしまうなんて、そんな悲しいことは受け入れられなかった
彼は駄々っ子のように茜音を引き止めた。
『あたち行かなきゃ。
蒼音にこの世でもう一度会えて、琴音と涼介とお友達になって、時バアに会えて・・・
そちて、お父しゃん、お母しゃんに名前を呼んでもらって・・・
もう思い残すことないもん。
だから、今行かなきゃ、もう行けないかもちれないから。
今行かなきゃ、いつかあたちが一人ぼっちになってちまうから。
ずっと幽霊のまま、この世にいたら・・
あっちに行けなくなってちまうから・・
蒼音・・・
蒼音なら、わかってくれるよね?』
「いつ?
いつ戻ってくるの?
ねえ茜音、いつかは還ってくるんだろう?」
縁側から家の外に出て行く茜音の手を握り締めたまま、蒼音はその後に続いた。
他の皆は無言のまま端近に出て、茜音を見送ろうとしていた。
『いつか・・・
きっといつか戻ってくるよ。
今度こそ、いつかどこかで生まれてくるよ。
あたちもこの世界の一部とちて生まれてくるよ』
茜音は夕陽に向かって・・・真っ赤に燃える空に飛翔しようとしていた。
『ニャーン・・・』
ふいにその時、風にのって、聞き覚えのある猫の鳴き声が聞こえた。
『あ、小町。
小町・・・
一緒に逝ってくれるのね。
ここまで来たのね。
よくここがわかったね。
そうだよね、小町もここで生まれたもんね』
茜音が手を差し伸べた先には、なんと家に残してきた小町がいたのだ。
「あれ小町!?
どうしてここに?」
蒼音は留守番をしているはずの小町が、遠く離れたこの場に、急に現れたことが信じられなかった。
「あ、本当だ。園田君んちの猫だ」
「本当だ、小町がいる」
琴音と涼介は小町を見て、口々に呟いた。
「お母さん、小町がいるよ。
一緒に連れてきたの?」
母に振り返った蒼音は、小町が来たことを伝えた。
「小町が?・・・・
そう・・・・
そう、やっぱり。
ううん、お母さんたちには視えへんよ。
そやけど、やっぱり小町は老衰やったんやね。
もう一八歳やったから、人間ならお婆さんやもん。そうやったんやね。
小町、そうなんやね」
「どういうこと?
お母さん?」
「小町ここのとこ、ずっと食欲なくて具合悪かったやろう?
今朝、お母さんが家を発つ時も、姿が見えへんかったんや。
動物は、死期が近づくと、姿をくらますって聞いてたから、もしかしたらって、いやな予感はしてたんや。
でも、そうやね・・・
安らかに逝ったのかな。
どこか自分が安心できる場所で、小町は果てたんやろうね。
悲しいけど、小町は往生したんやね。
きっと、最期のお別れを言いに、ここに来てくれたんやろうな」
「そんな・・・・
茜音と一緒に小町まで逝ってしまうの?
僕を残して逝っちゃうの?」
「茜音・・・・
やっぱり逝くんだな」
「うん・・・・
茜音ちゃん、いよいよ、お空の彼方に飛び立つんだね・・・・」
涼介と琴音は、弱々しい声で悲しくつぶやきながら、茜音の旅立ちを見守ろうとしていた。
連日にわたって、鮮やかな彩を魅せてくれた夕陽はもう、西の彼方の稜線まで傾いていた。
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