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凪
ごめんなさい
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「お父さん、お母さん・・・
いつ着いたの?」
蒼音は怖々と母を見た。
きっと怒られる。今回、友達まで巻き込んで、黙って家を出たことを、頭ごなしに怒られるに違いないと身をかがめた。
しかし母の顔は違った。
いつもの陽気な母ではなかった。
切なくて、悲しくて、そして安堵していた。
「さっき着いたんよ。
飛行機で来たよ。蒼音がもう、一人で帰ってこられるのはわかってたけど、でも迎えにきたんよ。
蒼音と・・・
そして茜音に会いたくて仕方なかったからね。
だから来てしもたわ、お父さんとお母さん。
親バカやね」
そういうと、母は照れくさそうに笑ってくれた。
後ろで時バアが微笑んでいた。
よかったねと無言で伝えてくれていた。
「琴音ちゃん、涼介君はじめまして。
いつも蒼音と遊んでくれてありがとう。」
母は起きてきた二人にも声をかけてくれた。
「あ、おじさん、おばさん、この度はご迷惑おかけしました。
本当にごめんなさい」
「お、俺もはじめまして・・・
あのすみませんでした。俺たち園田君に勝手についてきたんです。
だから園田君を怒らないでください」
二人はきちんと正座しなおして、友達として蒼音をかばってくれた。
「ええんよ。
二人がついてきてくれて、蒼音も心強かったやろうね。
こちらこそありがとう。ほんまにありがとう。
二人のご両親と私たちとでお話させてもらって、今回のことはお互いに大目にみましょう、ってことになったんよ。だから安心してね」
「そうだよ、だから何も気にすることはないよ。
夏休み最後の思い出をつくって、明日皆で一緒に帰ろうな」
蒼音の父も、子供たちを安心させるために、色々と手を尽くしてくれたようだ。
ひとしきり挨拶を終えると、母は蒼音に向き直り、本題へと触れた。
「蒼音、時バアからお母さんも色々と聞かせてもらったよ。
今回蒼音がここに来た理由をね。
蒼音も時バアから、もう色々と教えてもらったろうね・・・
ごめんな蒼音、今まで黙っててごめんな。
お母さんもお父さんも、話したくなかったんやないの。
どうしても話せんかったん。
蒼音が十歳になったら話そうって決めたけど、その前に、蒼音の方が先に大人になったんやね。
自分で解決しようと行動を起こしたんやね」
母はまっすぐに蒼音の瞳をみつめ、ひとつひとつ言葉を選んでゆっくり話してくれた。
「お母さん、なんにもしてあげなくてごめんね。
蒼音がこんなに悩んでたのに、気がついてあげられんくてごめんね。
いっつも忙しいばっかりでごめんね」
母は何度も謝ってくれた。
こんなに悲しい母を見るのは初めてだ。
蒼音はそんな母を見るのが辛くて、思いのたけを吐き出した。
「お母さんは悪くないよ、
僕がいけないんだ!
お父さん、お母さん、ごめんさない。
黙って出てきてごめんなさい。
僕だけが生まれてきてごめんなさい。
茜音をひとりぽっちで、置いてきてごめんなさい」
蒼音はとにかく両親に謝った。
自分にだって非があるんだ、どうしてもそれだけは言いたかった。
「蒼音は何も悪くないよ。
だからそんな悲しいこと言わないでおくれ。
蒼音が生まれてきてくれて、お父さんたちは本当に嬉しかった。
心から嬉しかったんだよ」
父は嘘偽りのない正直な気持ちを息子に告白してくれた。
父と母は能天気でお気楽な人間などではなかった。
両親は傷つき悩み、努力しながら前に進んできたのだ。
「でも・・・
嬉しいけど悲しかったでしょう?
茜音がいなくて本当は悲しかったんでしょう?
悲しくないなんて嘘だよ。
そんなの茜音が可哀想だよ。
お母さんは茜音のことを忘れちゃったの?」
蒼音は母の本心を知りたくて、悲痛な声で問いかけた。
「忘れてなんかないよ。
今でも覚えてるよ。
あの日の検診で、茜音の心音が止まってるって病院で聞かされた日のこと、その数か月後に蒼音が無事に生まれてきた日のこと・・・
どっちもよく覚えてるよ」
いつ着いたの?」
蒼音は怖々と母を見た。
きっと怒られる。今回、友達まで巻き込んで、黙って家を出たことを、頭ごなしに怒られるに違いないと身をかがめた。
しかし母の顔は違った。
いつもの陽気な母ではなかった。
切なくて、悲しくて、そして安堵していた。
「さっき着いたんよ。
飛行機で来たよ。蒼音がもう、一人で帰ってこられるのはわかってたけど、でも迎えにきたんよ。
蒼音と・・・
そして茜音に会いたくて仕方なかったからね。
だから来てしもたわ、お父さんとお母さん。
親バカやね」
そういうと、母は照れくさそうに笑ってくれた。
後ろで時バアが微笑んでいた。
よかったねと無言で伝えてくれていた。
「琴音ちゃん、涼介君はじめまして。
いつも蒼音と遊んでくれてありがとう。」
母は起きてきた二人にも声をかけてくれた。
「あ、おじさん、おばさん、この度はご迷惑おかけしました。
本当にごめんなさい」
「お、俺もはじめまして・・・
あのすみませんでした。俺たち園田君に勝手についてきたんです。
だから園田君を怒らないでください」
二人はきちんと正座しなおして、友達として蒼音をかばってくれた。
「ええんよ。
二人がついてきてくれて、蒼音も心強かったやろうね。
こちらこそありがとう。ほんまにありがとう。
二人のご両親と私たちとでお話させてもらって、今回のことはお互いに大目にみましょう、ってことになったんよ。だから安心してね」
「そうだよ、だから何も気にすることはないよ。
夏休み最後の思い出をつくって、明日皆で一緒に帰ろうな」
蒼音の父も、子供たちを安心させるために、色々と手を尽くしてくれたようだ。
ひとしきり挨拶を終えると、母は蒼音に向き直り、本題へと触れた。
「蒼音、時バアからお母さんも色々と聞かせてもらったよ。
今回蒼音がここに来た理由をね。
蒼音も時バアから、もう色々と教えてもらったろうね・・・
ごめんな蒼音、今まで黙っててごめんな。
お母さんもお父さんも、話したくなかったんやないの。
どうしても話せんかったん。
蒼音が十歳になったら話そうって決めたけど、その前に、蒼音の方が先に大人になったんやね。
自分で解決しようと行動を起こしたんやね」
母はまっすぐに蒼音の瞳をみつめ、ひとつひとつ言葉を選んでゆっくり話してくれた。
「お母さん、なんにもしてあげなくてごめんね。
蒼音がこんなに悩んでたのに、気がついてあげられんくてごめんね。
いっつも忙しいばっかりでごめんね」
母は何度も謝ってくれた。
こんなに悲しい母を見るのは初めてだ。
蒼音はそんな母を見るのが辛くて、思いのたけを吐き出した。
「お母さんは悪くないよ、
僕がいけないんだ!
お父さん、お母さん、ごめんさない。
黙って出てきてごめんなさい。
僕だけが生まれてきてごめんなさい。
茜音をひとりぽっちで、置いてきてごめんなさい」
蒼音はとにかく両親に謝った。
自分にだって非があるんだ、どうしてもそれだけは言いたかった。
「蒼音は何も悪くないよ。
だからそんな悲しいこと言わないでおくれ。
蒼音が生まれてきてくれて、お父さんたちは本当に嬉しかった。
心から嬉しかったんだよ」
父は嘘偽りのない正直な気持ちを息子に告白してくれた。
父と母は能天気でお気楽な人間などではなかった。
両親は傷つき悩み、努力しながら前に進んできたのだ。
「でも・・・
嬉しいけど悲しかったでしょう?
茜音がいなくて本当は悲しかったんでしょう?
悲しくないなんて嘘だよ。
そんなの茜音が可哀想だよ。
お母さんは茜音のことを忘れちゃったの?」
蒼音は母の本心を知りたくて、悲痛な声で問いかけた。
「忘れてなんかないよ。
今でも覚えてるよ。
あの日の検診で、茜音の心音が止まってるって病院で聞かされた日のこと、その数か月後に蒼音が無事に生まれてきた日のこと・・・
どっちもよく覚えてるよ」
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