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夕焼け小焼け
奇譚
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「さて・・・
みんなのお腹が満たされたところで、蒼音に大事な話をしようかな。
みんなも一緒に聞いてちょうだいね。
ここまで一緒に来てくれたんやもの、是非聞いてちょうだいね」
時バアはみんなのグラスに麦茶を注ぎながら、蒼音の瞳をまっすぐに見つめて、そしてゆっくりと話し始めてくれた。
「さて・・・
どこから話そうかな。
蒼音が生まれた日のことを話そうかな。
・・・あの日のこと、時バアはよく覚えてるよ。
お母さん難産で大変やったけどね、頑張って産んでくれた。
みんなが蒼音の誕生を待ち望んでいたし、無事に生まれることを祈ってた。
だから、蒼音が健康に生まれて来てくれただけで十分やった。
もし?
とか、なんで?・・・
とかそんなこと、誰もよう言えんかった」
時バアの語り口調にみんな背筋を正し、真剣に耳を傾けた。
「あ、そないにかしこまらんと、みんな足崩してや。
何も説教するわけやないで、聞いてくれるだけでええんよ」
そう言ってくれたので、みんなほっと表情を和らげ、足を崩し楽な姿勢で話しの続きを聞いた。
「そう、蒼音が生まれてみんな幸せやった。
それでも・・・
何か足りんかった。
何かが足りへんかったんやね。
それはな、茜音がおらへんこと、それが悲しかった。
二人分用意した赤ん坊の産着が、ぽつんと余分に残された。
それが切なかった。
蒼音が生まれて嬉しいのに、茜音がおらんことが悲しかった」
蒼音にはまだ意味がのみこめなかった。
時バアが何を話しているのか掴めないでいた。
だから黙って話しの続きを聞いた。
「茜音?
そこにおるんやね。
それやったら、時バアの話してること、もうわかるやろう?
茜音にはわかるやろう?」
時バアは視えない茜音に話かけていた。
茜音は時バアの問いかけに、こっくりと黙って頷いていた。
「蒼音・・・
茜音はな、あんたの双子の妹なんや。
だからずっと蒼音に憑いてくれてたんやな、なあそやろう茜音?」
「え?
時バア・・・
僕の双子の妹って?
僕は一人っ子だよ。
兄弟はいないよ、僕ちゃんと役所で調べたもん。
ね、そうだよね桜井さん、以前、僕調べたって話したよね」
突然打ち明けられた話しが信じがたくて、蒼音は琴音と涼介にも賛同を求めた。
「う、うん、そうだよね。
そうだったよね」
琴音はどう声をかけてあげればよいのかわからなかった。
「そうやね・・・
今までずっと知らんかったもんな。
誰も、何も教えてあげんかったからね。
悪いことしたねえ蒼音・・・
でもほんまの話しなんよ、今の話しはほんまなんよ。
蒼音と茜音が、二人一緒にお母さんのお腹で眠っているときに、茜音だけが死んでしまったから、だから蒼音は一人っ子になってしまった。
それが、いつか蒼音が時バアに電話で聞いてきたことの、本当の理由なんや」
蒼音は言葉が続かなかった。
信じるも何も、茜音という幽霊が自分に憑いていた、その事実を裏付けるには、今の話しは申し分なく信ぴょう性があった。
十分に辻褄が合う、納得できる話しだった。
だからといって、心が追いつかなかった。
衝撃の事実をうまく受けとめられなかった。
ショックとも違う・・・
結果よし・・・
でもない。
茜音は生まれることができなかったのだ。
だったら、それはものすごい悲劇で、全然良くないことだ。
でも、やっぱり・・・
再び出会えたことは、奇跡と呼ぶべきなのだろうか?
(茜音が僕の双子の妹・・・?)
何が何だかわからなくなり、蒼音はひどく混乱した。
理路整然に考えることなど不可能だった。
ただ、瞳から涙が溢れ出るのを我慢することができなかった。
「蒼音、ほんまに堪忍な。
今頃になってこんな話打ち明けられても困るなもんな。
けどな、それでもやっぱり話さなあかん、と時バアは考えたんよ。
悲しい思いをさせたね蒼音。
だけどな、時バアは嬉しかったんよ、茜音を連れてきてくれて、ほんまに嬉しかったで」
これまで何度泣いただろうか?
辛い時、悲しい時、悔しい時。
だけど、今回は違った。
嬉しさと悲しさの境界がなかった。
二つの想いがぐちゃぐちゃに混ざり合い、蒼色と茜色の感情がせめぎ合い、自分はこのまま何色になってしまうのだろう?
と、途方に暮れた。
視界がかすみ、隣に座る茜音の表情もよく読み取れない。
あまりにも蒼音がさめざめと泣き続けるものだから、琴音と涼介は困り果ててしまった。
いや、二人にとってもこの事実は衝撃であった。
どうにかしてあげたくとも、どうにもならなかった。
声をかけてあげるとしたら、月並みな言葉しか思い浮かばない。
「園田君・・・
あたしたち、本当のことが知りたくて、ここに来たんだよね。
茜音ちゃんの記憶を取り戻すために、だよね。
だったら、それはそれで良かったことだよね。
ね、そうだよね」
琴音は言葉を選んで、精一杯蒼音を勇気付けようとしてくれた。
それでも蒼音がうつむいたまま黙っているので、声をかけることを諦めた。
時バアも琴音の気持ちを気遣い、蒼音をそっとしておいたまま、隣の部屋で布団を敷くのを手伝ってもらおうと、目配せした。
涼介も一緒に、今夜の布団を敷くのを手伝った。
「ごめんねえ、琴音ちゃん涼介君。
二人にも心配かけてしまったね。
でも、あの子、蒼音には友達が必要なんや。
友達がおらな、駄目になってしまうから。
だから一緒に話を聞いてくれてありがとう」
時バアは二人にお礼を言ってくれた。
「おばあちゃん、園田君、立ち直れるかな・・・・?
明日には元通りかな?」
琴音は不安そうに聞いた。
「大丈夫や、今夜はもう眠いだけなんや。
一晩眠れば、明日はもう元気やろう。
さ、あんたらも、もう寝なさい。
今日は疲れたやろ」
和室に布団を三組並べて、四人は同じ部屋で眠りについた。
虫の羽音を子守唄にして、今日一日を頑張り抜いた子供達は、ほどなくしてスヤスヤと寝息をたて、夢の中に落ちていった。
みんなのお腹が満たされたところで、蒼音に大事な話をしようかな。
みんなも一緒に聞いてちょうだいね。
ここまで一緒に来てくれたんやもの、是非聞いてちょうだいね」
時バアはみんなのグラスに麦茶を注ぎながら、蒼音の瞳をまっすぐに見つめて、そしてゆっくりと話し始めてくれた。
「さて・・・
どこから話そうかな。
蒼音が生まれた日のことを話そうかな。
・・・あの日のこと、時バアはよく覚えてるよ。
お母さん難産で大変やったけどね、頑張って産んでくれた。
みんなが蒼音の誕生を待ち望んでいたし、無事に生まれることを祈ってた。
だから、蒼音が健康に生まれて来てくれただけで十分やった。
もし?
とか、なんで?・・・
とかそんなこと、誰もよう言えんかった」
時バアの語り口調にみんな背筋を正し、真剣に耳を傾けた。
「あ、そないにかしこまらんと、みんな足崩してや。
何も説教するわけやないで、聞いてくれるだけでええんよ」
そう言ってくれたので、みんなほっと表情を和らげ、足を崩し楽な姿勢で話しの続きを聞いた。
「そう、蒼音が生まれてみんな幸せやった。
それでも・・・
何か足りんかった。
何かが足りへんかったんやね。
それはな、茜音がおらへんこと、それが悲しかった。
二人分用意した赤ん坊の産着が、ぽつんと余分に残された。
それが切なかった。
蒼音が生まれて嬉しいのに、茜音がおらんことが悲しかった」
蒼音にはまだ意味がのみこめなかった。
時バアが何を話しているのか掴めないでいた。
だから黙って話しの続きを聞いた。
「茜音?
そこにおるんやね。
それやったら、時バアの話してること、もうわかるやろう?
茜音にはわかるやろう?」
時バアは視えない茜音に話かけていた。
茜音は時バアの問いかけに、こっくりと黙って頷いていた。
「蒼音・・・
茜音はな、あんたの双子の妹なんや。
だからずっと蒼音に憑いてくれてたんやな、なあそやろう茜音?」
「え?
時バア・・・
僕の双子の妹って?
僕は一人っ子だよ。
兄弟はいないよ、僕ちゃんと役所で調べたもん。
ね、そうだよね桜井さん、以前、僕調べたって話したよね」
突然打ち明けられた話しが信じがたくて、蒼音は琴音と涼介にも賛同を求めた。
「う、うん、そうだよね。
そうだったよね」
琴音はどう声をかけてあげればよいのかわからなかった。
「そうやね・・・
今までずっと知らんかったもんな。
誰も、何も教えてあげんかったからね。
悪いことしたねえ蒼音・・・
でもほんまの話しなんよ、今の話しはほんまなんよ。
蒼音と茜音が、二人一緒にお母さんのお腹で眠っているときに、茜音だけが死んでしまったから、だから蒼音は一人っ子になってしまった。
それが、いつか蒼音が時バアに電話で聞いてきたことの、本当の理由なんや」
蒼音は言葉が続かなかった。
信じるも何も、茜音という幽霊が自分に憑いていた、その事実を裏付けるには、今の話しは申し分なく信ぴょう性があった。
十分に辻褄が合う、納得できる話しだった。
だからといって、心が追いつかなかった。
衝撃の事実をうまく受けとめられなかった。
ショックとも違う・・・
結果よし・・・
でもない。
茜音は生まれることができなかったのだ。
だったら、それはものすごい悲劇で、全然良くないことだ。
でも、やっぱり・・・
再び出会えたことは、奇跡と呼ぶべきなのだろうか?
(茜音が僕の双子の妹・・・?)
何が何だかわからなくなり、蒼音はひどく混乱した。
理路整然に考えることなど不可能だった。
ただ、瞳から涙が溢れ出るのを我慢することができなかった。
「蒼音、ほんまに堪忍な。
今頃になってこんな話打ち明けられても困るなもんな。
けどな、それでもやっぱり話さなあかん、と時バアは考えたんよ。
悲しい思いをさせたね蒼音。
だけどな、時バアは嬉しかったんよ、茜音を連れてきてくれて、ほんまに嬉しかったで」
これまで何度泣いただろうか?
辛い時、悲しい時、悔しい時。
だけど、今回は違った。
嬉しさと悲しさの境界がなかった。
二つの想いがぐちゃぐちゃに混ざり合い、蒼色と茜色の感情がせめぎ合い、自分はこのまま何色になってしまうのだろう?
と、途方に暮れた。
視界がかすみ、隣に座る茜音の表情もよく読み取れない。
あまりにも蒼音がさめざめと泣き続けるものだから、琴音と涼介は困り果ててしまった。
いや、二人にとってもこの事実は衝撃であった。
どうにかしてあげたくとも、どうにもならなかった。
声をかけてあげるとしたら、月並みな言葉しか思い浮かばない。
「園田君・・・
あたしたち、本当のことが知りたくて、ここに来たんだよね。
茜音ちゃんの記憶を取り戻すために、だよね。
だったら、それはそれで良かったことだよね。
ね、そうだよね」
琴音は言葉を選んで、精一杯蒼音を勇気付けようとしてくれた。
それでも蒼音がうつむいたまま黙っているので、声をかけることを諦めた。
時バアも琴音の気持ちを気遣い、蒼音をそっとしておいたまま、隣の部屋で布団を敷くのを手伝ってもらおうと、目配せした。
涼介も一緒に、今夜の布団を敷くのを手伝った。
「ごめんねえ、琴音ちゃん涼介君。
二人にも心配かけてしまったね。
でも、あの子、蒼音には友達が必要なんや。
友達がおらな、駄目になってしまうから。
だから一緒に話を聞いてくれてありがとう」
時バアは二人にお礼を言ってくれた。
「おばあちゃん、園田君、立ち直れるかな・・・・?
明日には元通りかな?」
琴音は不安そうに聞いた。
「大丈夫や、今夜はもう眠いだけなんや。
一晩眠れば、明日はもう元気やろう。
さ、あんたらも、もう寝なさい。
今日は疲れたやろ」
和室に布団を三組並べて、四人は同じ部屋で眠りについた。
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