稲穂ゆれる空の向こうに

塵あくた

文字の大きさ
上 下
49 / 64
starting

鬨の声_ときのこえ_

しおりを挟む
しかし、目の前の二人は互に顔を見合わせ、何か言いたげだった。

「あのさ・・・そのことなんだけど。

また動揺しないで聞いてくれる?
園田君。茜音ちゃん。

あたしと涼介で勝手に相談して決めたの。
実は、あたしたちも、園田君と一緒に、おばあちゃんの所に行こうって。
茜音ちゃんの手助けがしたいの。
ごめんね。
勝手に決めて迷惑かな?」

なんと二人は、この旅に同行したい、と申し出てくれたのだ。
蒼音には心強く嬉しい限りだったが・・・

「ほんと!え?
でもそんなこと大丈夫なのかな?

だって、子供だけの旅だよ。
おばさんたちには何ていうの?
お金は?

僕の友達なら、時バアも歓迎してくれるだろうけど、黙って出てくるのは絶対に駄目だからって、言われたし・・・」

嬉しいやら、困ったらやら、それでも蒼音はやっぱり嬉しかった。

「大丈夫だよ、そんなのなんとでもなるよ。
お金なら、俺たちもこづかい貯金してるから大丈夫さ。

それに、行き先と電話番号と理由を書いた手紙を、家に置いて出てくればいいんだよ。
別に悪いことするわけじゃないんだ。
これは人助けだろう?

だからいいだろう園田君?
俺一緒に行きたいんだ。でないときっと後悔するから」

涼介の主張する正論に、蒼音はなんとなく納得したような、しないような。

「わかった。
僕のほうこそ、よろしくお願いします。

二人を巻き込んじゃうけど、何かあったら、全責任はこの僕が被るよ。
だから、僕に力を貸してください」

『琴音・・・涼介・・・ありがと。
あたち、行きたい。
時バアの家に還りたい。
だからほんとにありがと』

蒼音と、そして傍にいた茜音は一緒に並んで、琴音と涼介の二人に深々と頭を下げた。

「もう、やめてよ園田君も茜音ちゃんも。
あたしたち勝手についていくんだから。
迷惑じゃないなら、一緒に行かせてね」

琴音もあらたまってお辞儀をした。
皆で行くと決まった以上、もうあれこれ言う必要はなかった。

となれば、出発日時を決めなくてはならない。

「ということは・・・

来週の木曜日なんてどうだろう?
夏休みも終わり間近だし、夜行列車も空いてそうだよね、菅沼君?」

「そうだな、その日の夜ならなんとかなりそうだ。
切符は当日も買えるしな。

夕方早めに、遊びに行くふりをして家を出て、そのまま汽車に乗ってしまえば、後はこっちのもんだな」

「うふふ、なんかドキドキするね。
あたしそんなに遠出するの初めてかも」

「じゃあ決定!
来週の五時にここに集合しよう。

おむすび、飲み物、おやつに着替え地図にお金。
最低限のものだけあれば大丈夫だね。

じゃあさ、折角だからみんなで掛け声をかけない?」

珍しく蒼音が中心になってみんなの士気を鼓舞した。

『かけごえ?』
「お、いいな」
「どうするの?」
「じゃあ、こうやって前で手を合わせて、そう茜音も一緒にだよ」

四人は輪になり右手を差し出し合わせた。

「じゃあ言うよ。
この旅を成功させるぞー!

エイエイオー!」

「オー!」

堤防沿いの公園から西の方角を見ると、夕陽が地平の遥か彼方に浮かんでいた。

八月の終わり、すすきの穂が実りはじめ、さやさやと風に薙いでいる。
あと少しで、長かった夏休みが終わろうとしている。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

泣き虫エリー

梅雨の人
恋愛
幼いころに父に教えてもらったおまじないを口ずさみ続ける泣き虫で寂しがり屋のエリー。 初恋相手のロニーと念願かなって気持ちを通じ合わせたのに、ある日ロニーは突然街を去ることになってしまった。 戻ってくるから待ってて、という言葉を残して。 そして年月が過ぎ、エリーが再び恋に落ちたのは…。 強く逞しくならざるを得なかったエリーを大きな愛が包み込みます。 「懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。」に出てきたエリーの物語をどうぞお楽しみください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

黒蜜先生のヤバい秘密

月狂 紫乃/月狂 四郎
ライト文芸
 高校生の須藤語(すとう かたる)がいるクラスで、新任の教師が担当に就いた。新しい担任の名前は黒蜜凛(くろみつ りん)。アイドル並みの美貌を持つ彼女は、あっという間にクラスの人気者となる。  須藤はそんな黒蜜先生に小説を書いていることがバレてしまう。リアルの世界でファン第1号となった黒蜜先生。須藤は先生でありファンでもある彼女と、小説を介して良い関係を築きつつあった。  だが、その裏側で黒蜜先生の人気をよく思わない女子たちが、陰湿な嫌がらせをやりはじめる。解決策を模索する過程で、須藤は黒蜜先生のヤバい過去を知ることになる……。

処理中です...